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「推しの結婚」が辛い理由は、「現実が介入してくるから」


福山雅治ファンの答え

私は根っからの二次元オタクなので、推しが結婚することの辛さを感じたことがない。

そのため、そうした「有名人が結婚して悲しんでいる人」のニュースが流れても、あまり共感することができない。しかし、そんな私の心に残った話が1つだけある。

その話とは、福山雅治が結婚したときに、ある女性ファンが答えていたインタビューの内容だ。

その女性は、福山雅治の結婚を悲しんでいる理由として、

「彼が独身のうちは、自分が彼と結婚できる可能性は0%ではなかった。しかし、彼が結婚したことで、彼と結婚することは完全に不可能になってしまったから。」

と語っていた。

この話が妙に腑に落ちたので、私はずっと「推しの結婚が悲しい理由は、自分が結婚できなくなってしまうこと」だと思っていた。

だが、よく考えてみると、そんなに多くの人が推しとの結婚を望んでいるとは考えづらい。

「ガチ恋」「夢小説」といった言葉もあったりするが、多くの人はそこまで真剣な恋愛感情を抱いてはいないだろう。しかし、そうした人たちも、推しが結婚したというニュースを聞くと、同じように落ち込む。

この理由について考えてみた結果、「現実が介入してくるから」という答えに行きついた。

結婚で炎上する人、炎上しない人

まず、「結婚のニュースでファンが落ち込む」といった現象が起こるのは、女優や俳優、アイドル、声優など、「自分の見た目や声」を使って仕事をしている人たちである。

最近だと、VTuberや歌い手なども含まれる。VTuberの「潤羽 るしあ」と、歌い手の「まふまふ」が付き合っていることが発覚して、ネットが大荒れになった事件を覚えている人も多いだろう。

反対に、作家や芸人など、中身を使って仕事をしている人は、結婚のニュースが流れても落ち込む人はほとんど見られない。

最近だと、HIKAKINが結婚したことを発表したが、特に炎上することはなかった。それは、彼がエンターテイナーであり、男性的な魅力を活かして仕事をしていたわけではなかったからだ。

つまり、有名人には「結婚して炎上するタイプ」と「結婚しても炎上しないタイプ」があり、それは、その人がどのような形で自分を売り出しているかに依存している。

自分の外見や声を魅力に活動をしている人は、結婚することで炎上する確率は高いが、そうでない人は、結婚しても炎上する可能性が低い。

炎上するのは「抜け駆けされたから」?

ではなぜ、アイドルや女優が結婚すると炎上するのだろうか。

まっさきに考えられるのは、「抜け駆けされた」と感じる人が多いから、という理由である。

自分がその人と結婚したかったのに、知らない人に先を越された、その事実が怒りや落胆につながる。とても簡潔な説明だ。

しかし、本当に結婚したいなら、単にライブのチケットを買ったり、グッズを買ったりするだけでなく、もっと直接的なアプローチを試みるはずである。

それにも関わらず、そうした行動をとっている人は、あまり多く見られない。

もちろん現実的に無理がある、というのも理由のひとつだろうが、ほとんどのファンは、そうした行動をとることを望まない。むしろ、そのような行動をとる人を非難したり、蔑んだりする傾向すら見られる。

本気で結婚する気はないのに、結婚のニュースを聞くと、まるで先を越されたかのように怒り、落胆する。彼らの行動は、どこか矛盾してはいないだろうか。

恋愛の良いところだけ

ここで取り上げたいのが、ホストクラブに通う女性の心理だ。

YouTubeでたまたま、社会学者の宮台真司と、歌舞伎町の研究をしている佐々木チワワが対談している動画を見つけた。

そこで彼女は、女性がホストクラブに通う理由として、

「お金を払えば自分を肯定してくれる(かわいいと言ってもらえる)こと」「恋愛の面倒な部分を抱えることなく、楽しい部分だけを享受できること」

といったことを挙げていた。

2つめの、「恋愛の面倒な部分を抱えることなく、楽しい部分だけを享受できること」というのが注目したいポイントだ。

店で会って話す分には、ホストと楽しい時間を過ごすことができる。しかし、付き合うとなると、彼の本当の性格やだらしない姿など、嫌な部分も受け入れなければならない。

そうした面倒ごとを避けたい人たちにとって、ホストクラブは現実の恋愛よりも魅力的となる。だからこそ、ホストクラブにハマる人が多く存在している。

この「恋愛はしたいけど(面倒な)恋愛をしたくない」という感情は、さっき述べた「本気で結婚する気はないのに、結婚のニュースを聞くと、まるで先を越されたかのように怒り、落胆する」人たちが抱える矛盾と似ている。

彼女たちも、自分が担当するホストが別の女性と付き合っていると知ったら、同じように落胆するだろう。

また推しを応援する人たちも、本気で結婚したいと考えているのではなく、魅力的な人を追いかけたり、ステージの上で輝く姿を見るなど、恋愛の上澄みを楽しむために、そうした行為を行っているのだ。

この2つの行為は、本質的にはまったく同じである。

バーチャルを侵食する現実

「疑似恋愛」という言葉は、この現象を上手く表している。

現実の恋愛ができないから、疑似的に恋愛をしているのではなく(そうした人もいるだろうが)、恋愛の面倒な部分を避けるために、疑似的な恋愛を選択しているのだ。

では、結婚という事実はここにどう関わってくるのだろうか。

結婚というのは、恋愛の良い部分も悪い部分も乗り越えた先に成し遂げられるものなので、その点で非常に「現実的な行為」であるといえる。

一方で、推しを応援したり、ホストクラブに通ったりするのは、現実の恋愛の良い部分だけを抽出し、一度きりの体験として楽しむという点で、「バーチャル(疑似的)な行為」である。

そもそも、こうした行為は「現実逃避」を目的としていることが多い。

しかし、推しが結婚すると、そのバーチャルな体験に「結婚」という現実が入り込んでくる。そうすると、それを「疑似恋愛」として楽しむことができなくなってしまう。

結婚という現実が基準となり、自分が行っていることが、それの劣化版であるかのように感じる。そうなってしまえば、現実逃避することはほとんど不可能となる。

日本は一夫一妻制なので、推しが結婚すると、自分に向けられている愛情が嘘であったということを、嫌でも意識せざるを得なくなるだろう。だからこそ、幻想を破壊した相手と、本人に対して怒りの感情を抱くのだ。

つまり、推しが結婚したことに対する不満を表す言葉は、「私がその人と結婚したかったのに」ではなく、「せっかく自分が魅力的に感じた人と、疑似的な恋愛を楽しんでいたのに、あなたのせいで現実逃避ができなくなった」が正しい。

もちろん、結婚して幸せそうな姿を見たことによる嫉妬もあるだろうが、本質的には、バーチャルな世界を壊されたことに対する、怒りと落胆ではないだろうか。

HIKAKINが炎上しなかった理由

HIKAKINが結婚しても怒ったり落ち込んだりする人がいないのは、彼が発信しているのはエンターテインメントなので、結婚することがバーチャルな関係性に何の影響も及ぼさないからだ。

また、推し同士が仲良くなるいわゆる「尊い(てぇてぇ)」に不快感を感じる人がいないのも、それはバーチャルな世界の中で起こる出来事であり、世界観が壊れることがないからである。

もし彼らが結婚したとしても、関係がない人と結婚するのに比べると、はるかに炎上リスクが少なくなるはずだ。

このような人たちは、炎上リスクを考えることなく、結婚発表をすることができる。

推しが結婚しただけで怒るというのは、理不尽で自分勝手に思われるかもしれないが、それほどまでに、バーチャルな世界と関係性は重要なのだ。

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