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コンテンツ生成システム化する「小説家になろう」系WEB小説群

週に三回は書くと言って即一週間ぶっちぎることになんの良心的呵責も持たなくなった久保内ですけど。

なろう系の小説については編集サイドにいたのがもう5年前くらいの話なので、そのころの知識から大きくアップデートできていないことをまずはお断りしておいて。大きく違うところがあったら各自指摘してください。

なろう系の小説の商業化ですが、レーベル数や、作品ごとの販売価格が出そろい、当時は累計5-6万ポイントになったあたりで数社からのオファーが来るような状態でした。今はもうちょっと低いかもしれない。

また、販売実績を睨むと、小説としてみた場合、一冊あたりの売り上げが落ちてはいて、それだけなろう系小説の商業化がありふれたものになったことがうかがえます。しかし、出版点数自体はすでに一定の地位を占めており、なろう系レーベルにほぼ鞍替えしたと言っていいような老舗レーベルなどを見るにつけ、一点当たりの出版部数が減ったことをもって「なろう系の凋落」と言ってしまえるものではないともおもいます。

ライトノベル市場の中のなろう系は、すでに大メジャーであって、出版を目指すなら新人賞を狙うよりも小説家になろうで人気になることを考えるほうが近道かつ確実になっています。

逆に、5年前の時点で新人賞受賞作家や、拾い上げで大ヒットのない新進・中堅作家たちは編集部に企画書を送っても採用される可能性がめっきり減り、そもそも返信自体一か月待っても来ないなんてことが普通に。

彼らがクダをまく飲み会に顔を出すと、飲み始めてすぐになろう系でのポイントの伸ばし方や、実践についての話になったものです。「なろうで編集部から没になった企画で投稿してソコソコ人気になったら、その編集部から即出版化の打診が来た」という愚痴のようなものも耳にしましたね。

そんな風に、ライト小説分野で見た時には小説家になろうやカクヨムなどのWEB投稿系サービスは企画建ての段階から支配的になっているといってよいかと思います。

「商業クオリティに達していない作品がよく見受けられる」との質問には主観的には大いに同意はします。が、出版1点当たりの販売冊数自体は下がっている中、ちゃんとした校正のようなものは相対的にどんどんプライオリティが下がっています。ライトノベル系の有名編集者の方々も、「しかるべきタイミングに話題性のある作品を継続的に出す」ことが至上命題。

読者の考えるスッキリしたいとか主人公の活躍を見たいというニーズからすると、「六畳間の中を敵に向かって疾走してたどり着くまでにモノローグがが延々続く」とか、そのていどなら15年前には無視されていましたし、ミソジニー丸出しで美少女奴隷を引き連れてビッチ認定した女悪役を天誅したりするのがフツーの光景でストーリー的なアラを探すと業務にならないというのもありそうです。いかに快感原則にあっているかの整理は、1作目ではする、くらいでしょうか。誤字訂正も、編集と執筆者だけでサクッと終わらせるくらいでしょうね。慣用句やことわざの誤用くらいはどの本にもある感じじゃないかなあ……。そこ直しても売り上げに関係ないですからね……。

と、いうことで、なろう系小説の商業化を「小説」分野で考えると、かなりシステマチックに合理化されて出版するシステムが完成して、全体で商業的に成り立つ仕組みになっているといえます。少なくも従来型のライトノベルを駆逐せんとなる程度には。

「悪貨は良貨を駆逐する」とかなんとなくドヤ顔で言いたくなる人もいると思いますけど、これ、悪貨が市場に流れると物的価値の高い良貨は懐にしまって悪貨ばかりを使おうとするので市場には悪貨が溢れ、良貨はタンスの中に保存されるっていう意味ですから、ちょっと違いますね。とか校正で指摘すると完全に無視されるか怒られます。

コミカライズが主戦場になりつつあるなろう系

で、なろう系の次が見えずに定着し、デファクトスタンダードになりつつあるライトノベル小説界。なろう系の商業化の主戦場はコミカライズに移行していきます。

商業化した小説も、無料で読めるなろう連載版も同じ文字ですから、なろう掲載時に応援していた読者が商業化した小説を買い求めるのはご祝儀的な意味がけっこうデカいことは想像がつきます。あとはヒロインがどんな姿格好でイラストになっているか、とか。わりと買っても読まないよね、出版されたなろう系小説。スマホでダラダラ流し読みできるから商業化してクオリティが一定担保されている小説よりなろう系を選んできたわけだから。フォーマットが不便になってさらに有料になったともとれるわけで。

一方コミカライズは、そもそもなろう系の読者とは違うマンガしか読まない層にアプローチでき、しかも潜在読者層は10倍以上でしょう。5年前にはまだ普通ではなかったですが、昨今では「転スラ」だとか「盾の勇者」などのコミカライズでシリーズ100万部超えの作品が飛び出してからは状況が一変。今や、なろうで人気を博した上位作品は、商業化の報告のさいにコミカライズ同時発表が普通になっています。

マンガ分野では、昔から原作不足が深刻だとことあるごとに言われていた(こっちはごめん実態しらない。が、地方在住)ので、そのニーズともマッチしたんでしょう。また、基本的に拾い上げで原作を手に入れることができて(小説化とコミカライズを複数の出版社を横断してすることも多い)、出版素人の原作者はハンドリングしやすい。また、文章のアラなどはコミカライズするときにはあまり問題にならないなど実務上も魅力的に見えます。

そこでは、あらかじめ一定の人気と知名度が担保されたメディアミックス向け原作群を生む母体としてのなろう系Web小説という新たな価値が見出されているように感じます。つまり、商業化の射程をコミカライズ迄入れると、なろう系Web小説の存在感は今後ますます増大しうる、と久保内は考えます。

オタク業界のKADOKAWAの隆盛のシステムを、国内で限られた巨大市場(オタク向け)へのメディアミックスだとするなら、ある一定の規模の出版社であればなろう系Web小説を採用すれば小説+マンガのセットとして比較的手軽にメディアミックスに乗り出せるのは魅力的に映るはずです。このあたりでできたのがアルファポリス社(「GATE」とか…)などじゃないかなと思います。

今後ですが、なろう系Web小説の商業化のゴールは小説に限らず「小説は商業化されてないけどコミカライズはある」なんてケースも増えてくるんじゃないかなーと思っています。多分もうあるよね。

そんな感じです!


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