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[SS]アジア人外交官の憂鬱

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徳川の末期、天保の改革からペリー来航迄、10年の時代がある。日本では欧米から東アジアの開国に向けて、艦船が日本の港に着岸した。幕府の外交担当も数人しか英語を話せず、長崎の出島でオランダ商人と交渉をする者が鹿児島や長崎に出向いて、外交を担当した。父も外国船の船員の調査を行っていた。

私は南京条約がイギリスの間に結ばれると、北京に戻った。急いでいる訳でないけど、日本の未来を中国でいち早く感じたかったからである。私は農民達の近代化を求める動きが出るのではないかと見ていた。清朝という国が終わりを迎えようとしていて、住民の反発が起こるはず、徳川も同じ道を辿るだろう。

妻の隈取りの色使い、衣装のデザインを見ていると、西遊記の物語に引き込まれていく。妻の踊りと唄には、リズムがある、泣くことにさえも。声にも高い音から低い音迄と、色々ある。孫悟空と演目の筋書きを上手に音律で表現出来る。京劇には沢山の演じる方法があるけど、妻を見れば見るほど面白くなる。

孫悟空の表情は何を考えていても、観劇している人にざっくばらんに、心中を語りかける。妻は独り言の様に、小声でこっそりと話す事もある。私はどうして小声なのと尋ねると、演じるのが恥ずかしい時もあるのよと言う。悟空であるはずの妻が意外だなと思った。妻は猿の仕草に色気をだすのが好きである。

京劇の演技方法は踊りの他に、唄がある。妻は孫悟空の役柄の歌唱を上手く習得している。これは、俳優として生まれついた彼女の女優としてのセンスに他ならない。女優として悟空を演じて観客をうならせる事が出来るのである。妻は感情を唄い表す事に長けていて、胸を打つ声で悟空の喜怒哀楽と同化する。

妻が猿の喜怒哀楽の表情を作ってくれた、私は妻が日頃、怒る顔を見せないのでドキッとした。しかし、京劇を演じる妻は、いつもの彼女ではありません。私が妻に出逢った時の印象に似ています。私が愛し始めた頃の妻が舞台の上で、大王の強さと勇気を踊ってくれるのです、妻と一緒になって良かったです。

私は妻の芝居が観たいです。妻は岩に押し潰されて苦しむ、悟空の表情をどう演じてくれるのか?、京劇は舞台装置よりも役者の演技に注目している所があります、だから一人舞台に適しているのです。妻が大暴れしたいと言っていた、岩を砕くシーンも楽しみです。三蔵を坊主と馬鹿にするのも気になります。

私は妻に孫悟空の姿になってくれないかとお願いします。妻は赤色で猿の顔を縁取り、黒色で太い眉毛と目の周りを描きました。金色の服の上下に青い刺繍が入っている。僕の目の前で片足を大きく振り上げ、両手を大きく広げて、構えてくれました。妻の顔立ちは美しく、化粧が生えて、とても賢く見えます。

悟空の頭にキリキリとした痛みが走り、輪っかは益々締め付けます。坊主分かったよお前の言う事を聞くから、やめてくれ。三蔵は坊主というのはおやめ、おっ尚さんとお言いと伝える。三蔵と悟空の天竺への旅が始まります。私は西遊記の話を書いて妻に見せると、岩を破壊するシーンで大暴れできると喜ぶ。

悟空はなんでも言う事を聞くからお札を外してくれ、三蔵は悟空の頭に金の輪っかを取り付けます。三蔵がお札を除けると悟空は全身の力で岩を砕きます。三蔵は悟空へ天竺まで一緒に来ておくれと話し、悟空は大王の俺様が坊主の用心棒なんてやだねと水簾洞に帰ります。三蔵は念仏で頭を締め付けたのです。

孫悟空が三蔵と初めて出会う、悟空は天上界で大暴れして下界である地上に落とされ、大きな岩に押し潰されています。三蔵は猿どうしたんだ?と尋ねる。悟空は俺の力はこんな岩なんでもない、その護符が邪魔なだけだ。頼むから取ってくれないかと願う。三蔵は私の言う事を聞くのなら望みを叶えても良い。

優れた女優は古典小説の描写や講談師の語りをヒントに隈取りを行う、妻も優れた俳優の一人である。隈取りは京劇俳優にとって役に成り切る為の仮面であり、役柄によってデザインも描き方も異なり、それぞれ特徴がある。初めて京劇を観た人は、役者達の顔が色とりどりの模様で飾られている事に驚きます。

私は妻にどんな孫悟空を演じてみたいの?と尋ねた、自在に伸び縮みする如意棒を振り回したいと答える。私が日本で、一緒に京劇の舞台を作ってみないかと伝える。妻は踊る事はできるけど、本を書くのは難しく、私が西遊記の演目を書く事にした。物語の内容はイメージ出来るので、隈取りは妻が考えます。

最遊記の筋で孫悟空が神兵と戦う・天宮を騒がすや水簾洞で大王を名乗る・水簾洞が京劇の演目として大勢の観客に喜ばれている。神通力を持つ孫悟空を演じるには、素早い身のこなしに加え、気迫に満ちた、緻密な演技も必要とされる。北京では孫悟空の芝居が大流行して、次々と新作が発表され競い合った。