予定外れの遠雷、予定通りの猫 2020年8月13日

 蒸し暑くて目が覚めた。
 エアコンが入っているのに汗が出る。カーテンを開けると、げんなりするほどの熱線。
 今年最高の暑さだ……部屋を出て、トイレに向かう途中で確信した。息をするのもなんだかつらいような気がする。
 トイレに座り「今日は家で仕事をしよう」そう決心する。熱中症の恐怖がまだ頭から離れない。

 エアコンの効きがいい1階のリビングに人間も猫もすべて集まった。
 新しい生活様式ではこういう状況は推奨されないのだが、致し方ない。今日はここを仕事場にしよう、リビングテーブルで熱いコーヒーを飲みながらノートパソコンを開くと、「予定」通りひじきのお出まし。
 ノートパソコンの横に寝転がり、ときどき電源コードにちょっかいを出すので気が気でない。仕方ないので左手で腰骨をさすってやりながらパソコンを操作するも、ひじきにはその片手間に相手をされるのが許せないらしい。抗議の「ニャー」。

 寝室に用事があって2階に上がる。入口に入るや否や、「ウー、ニャー」ともずくが鳴き、ベッドの下からもずくが爪で足を何度も滑らせながら必死に飛び出してきた。
 先日、ベッドの下で寝ていたもずくの長くて立派なしっぽをわたしが踏んづけたからだ。
 「もう踏まれないぞ!」という怒りにもにた決意が見て取れた。ほんとうにごめんよ。あれはわざとではないんだよ。

 今日は書斎のパソコンはお休みして、リビングのノートPCでWebのメンテナンス。
「出発点」のホームページにアクセスページを加え、これまで開店休業中だったショップサイトもリニューアル。細かい誤字脱字や、未更新の項目を直していたらあっという間に夕方。
 ページが更新され、それらしくなると、急に気持ちも浮き立ってくる。やはり、イラストレーターの飯田ツトムさんにデザインしてもらったロゴがなによりいい。少しずつ旅と思索社の色になじんできた……というか、わたしがロゴになじんできた。

 夕方前、まだまだ暑いというのに親父は散歩に出かけて行った。
 頑固だから行っても聞かない。せめてスポーツドリンクだけは飲んで出かけるように促したらしぶしぶ飲んで出かけた。いったいどこへ行くつもりなのだろう。
 しばらくして、雲行きが怪しくなってきた。遠雷も聞こえてくる。妻が「お義父さん大丈夫かな」と心配している。
「子どもじゃないんだから心配いらないよ」と笑ってあしらう。けれどこの暑さの方がぽっぽど心配だ。夕立で少しは涼しくなるだろうか。
 幼いころ、青空が広がす空がみるみる真っ暗になって、ぽつぽつ来たかと思った瞬間、激しい雷雨がやってきて、泣きながら祖母が敷いてくれた布団の中で、祖母に励まされてやり過ごした思い出がいまでも心に残っている。
 それが原因かどうかは分からないけれど、遠雷が聞こえて空が真っ暗になってくると不思議と心がときめく。
 祖母との思い出がワンセットなのだろうか。

 けっきょく、雷雨は訪れなかった。
 親父も無事に帰ってきた。食事は日高屋で済ませたらしい。どうも散歩の後の餃子と冷たいビールをたまらなく欲していたらしい。
 夕飯の買い物に行こうとしていた私と妻は予定変更。わたしは仕事を21時くらいまで続け、久しぶりに夕飯を兼ねてドライブに出かけた。
 十日市場駅近くの「そば処吉野家」に行ってみる。この店はそばをメインメニューにする吉野家の系列店だ。ダイエット中の妻の意見を汲んだのだ。
 それなのに妻は天丼と盛りそばのセット……。まあ、いいか。わたしは牛丼大盛りと盛りそばのセット。食べ過ぎた。
 十日市場に来たのは訳がある。帰りは国道246号線の青葉から首都高に乗り、「大回り1周」の旅に出かけようと思っていたのだ。

 青葉インターから北西線、北線、大黒線をへて湾岸線に出る。
 北上して葛西から中央環状線へ入り、北池袋から5号線に入り、都心環状線、深川線、晴海線でレインボーブリッジを越え、再び都心環状線を1周し、羽田線を下り、北線で新横浜で下車するという計画。
 妻は久しぶりの高速で興味深く景色を眺めている。わたしはバスの新人研修で走行したコースを再度なぞりながら1年少し前を思い出す。
 葛西から中央環状線に入るとスカイツリーが見えてきた。いつもの光り方とはちょっと違う気がする。てっぺんが時々美しく光る。
 車の数は比較的少なく、走りやすい。5号線の西池袋のPAに初めて入ってみる。なんと狭いパーキング。ビルと高速道に囲まれ、旅情も何もない。当たり前か。合流車線のなんという短さよ。
 都心環状線入ってすぐルーレット族に出くわす。
 3号線から左真横に合流してきたクロネコの大型、わたしの前方には周りの状況が読めていない、やけにのんびり運転の赤い乗用車、真後ろにはぴったりとルーレット族の走り屋5台。いやなサンドイッチ状態。
 無事に静寂が訪れる。気が付けば隣の貴女も静かに。ふと眠いと宣う。
 あとは黙々と羽田線を南下し、いつもの仕事帰りのコースで自宅へ。およそ3時間の高速ドライブ。高速代も430円のお得な旅だった。
 寝る前にダイニングテーブルで缶ビールの栓を開けると、ひじきがやってきた。
 やっぱり「予定」通りだ。  

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