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「旅人ふんだりけったり」

世界一周404日目(8/6)

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AM5:20にアラームが鳴る。

日の昇る前のプラットフォームのベンチの上。

ヴェネツィアの前の街、ヴェローナ駅。


駅構内は横になれるようなベンチはなかった。

手もたれが椅子を区切っており、
ここで夜を明かす人たちは椅子に深くもたれかかって、
満足な睡眠をとれずにいたことだろう。

外で寝る時には横になれることが重要!
ふふふ。だてに野宿してないぜ!
そんな優越感を抱きながら電車を待った。

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サブバッグからチケットを取り出す。

忘れないように昨日のうちに
打刻もしてある。完璧だ。

えっと、確か5:42に電車が
来るんだったよな。

まったく、無駄のないスマートすぎる
スケジューリングだぜ!



「あれ...」

手にした切符には「出発時刻 5:24」と書かれていた。

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乗り過ごした...

自分が目覚めた瞬間に
電車が去って行った。

ははは…。


仕方が無いので、
近くの自動販売機でお菓子とコーヒーを買って、
ベンチで朝食をとった。

アメリカンスピリットをふかし、
一時間後に来る同じ電車型だか、鉄道会社だかを待った。

別にちょっとぐらいの遅れでも構わない。

ヴェネツィアは逃げやしないさ。のんびり行こう。


やって来た電車に乗り込み、自由席に座る。

電車は走り出し、朝日が
イタリアののどかな街並を美しく照らした。

しばらくしてやって来た駅員が僕のチケットを取る。

僕は「あ、はい」と言うふうに
ごく自然に駅員にチケットを渡す。


「おい、これ使えないぞ」

はっ??!!

「ここにチケットの
有効期限は6時間だろ。
打刻した時間から既に
6時間以上経過している」

「え??!!いや、
そんなこと知らないですよ!
チケットはチケットでしょう」

「決まりは決まりだ。
このまま列車に乗るなら
38.25ユーロを払うんだ」

「いや、ちょっち待ってくださいよ!
知らなかったんですって」

駅員は僕のミスを
見逃そうとする様子は感じられなかった。

手持ちのiPhoneの駅員用のアプリには
ばっちし38.25ユーロ(5,235yen)の文字が書かれている。

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「さぁ、どうするんだ」

「どうするってー…」

「もしくは切符を買い直すんだな」

「あ~~~!!!もう!分かりましたよ!
買い直せばいいんでしょ!」

僕は何もやましいことなんて
これっっぽっちもしていない。

ちゃんとチケットは買ったんだ。
ヴェネチィアまで8.5ユーロ(1,163yen)の!

なんでまたチケットを
買い直さなきゃならないんだ!

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次の駅でダッシュで電車を降りた。

ヴェネツィアまで5ユーロちょっと。700円くらい。

くっそ!なんでチケット買ったのに、
また追加でお金払わなきゃいけないんだ!

もうあの電車チケットには
乗りたくなかったので、次の便を買った。

プラットフォームに行くと
さっきの駅員が「早く電車に乗れ!」
と僕を呼んでいる!

てんめ~~!何が早く乗れ!だ!

「チケットが違う電車のものなんだけど」
と言うと、彼は「乗ってもいい」と言う。

全く、なんだよ。朝っぱらから。

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電車は8時にヴェネツィア駅に着いた。

電車にプラットフォームを歩きながら
僕は電車に中指を立てる。

向こうからさっきの駅員の姿が見えた。

満ち足たりた笑みを浮かべて
「よかったな。ヴェネツィアを楽しんで!」
みたいな顔をしてやがる。

あぁ、もういいよ。許す。

その笑顔に免じて許してやる。



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駅の前には運河が流れていた。
朝日がそれを照らし出し、僕は目を細める。

近くの喫煙スペースでタバコをくゆらせ、
気持ちを落ち着かせると僕は
バックパックを背負って歩き出した。

今日一日はヴェネチィアを堪能してやるぞ。
そういう意気込みだった。


運河にかかる橋を渡る途中、
写真を撮ってくれとお願いしてきた
中国人の女のコたちに出会った。

僕は快く応じる。
いいことをすればきっと自分に返って来るだろう。
というか僕は人の写真を撮るのが好きなんだ。
求められたこと以上のパフォーマンスで応じる。

だいたいこういう時って一枚でいいけど、僕は違う。
ノリノリで4枚くらい写真を撮って
「はい。できましたよ。
好きなショットを選んでくださいね」
って選んでもらうスタイルだ。



そのまま僕は運河にかかる橋を渡り、
観光客たちが歩いていく方向とは別の方向に歩いて行った。

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街並はイタリアの中でも素晴らしいものだった。

「ヴェネツィア」と聞くと、
あまりにメジャー過ぎて、
観光客しかいないんだろうなと思っていたが、
ここで生活を営む人もいるのだ。

誰もいない広場にあった水場で
4日ぶりに頭を洗い、さっぱりする。

明け方はあんなにひんやりしてたのに、
今では日差しの中にいると
じんわりと汗をかくくらいだった。

頭をブンブン降って水を切り、
しばらく路地を歩いていると
あっと間に髪の毛は乾いた。

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午前中は気持ちのいいカフェで作業をしよう。

動き回るのはもう少し涼しくなってからでいい。
次の街へ向かうための情報も調べておきたい。

見つけたカフェで3ユーロ(411yen)のカフェラテを注文した。
トイレも済ませるとさらに清々しい気持ちになる。
観光地だからWi-Fiもあるし、速度も申し分なかった。
いい一日になりそうだ♪

外のテーブルでパソコンを開いて作業していると
お店のおっちゃんから声がかかった。

「悪いんだけど、
一時間で出て行ってくれないか?」

周りの席も他の客で埋まってきていた。
仕方ない。僕は荷物をまとめた。

ほんの真横にあるお土産屋さんの
ショウウィンドウの前でバックパックに腰掛け、
情報収集の続きをやっていたのだが、
すぐにお店のおばちゃんから
ここに座らないで欲しいと言われてしまった。

むう。今は次の国に行くための情報収集を済ませおきたい。

お店でもなんでもないカフェの近くで
同じようにパソコンを広げた。


「~~~~~!!!
Wi-Fi~~~~~!!!」

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間髪入れずに、イタリア語でまくしたててくる別のオヤジ。

ヨーロピアンに流行だかなんだかしらねえけど、
モヒカンみたいに見えるツーブロック。
ノースリーブから出た太い二の腕からは
タトゥーが見えた。

いや、何言ってんのかは分かるよ。

「客でもねえのにここで
Wi-Fiつかってんじゃねえよ!」
ってことだろ?

まぁ僕だって悪いとは思うぜ。
だけど、まだたった一時間だろ?
それに近くでWi-Fiを使わせて
もらったところで何も迷惑にはなるまい。
だって、必要なのは
他の客がカフェに座るスペースなんだから。

そして、アンタは誰だ???
なぜそんなに怒っている??

次第にモヒカンオヤジは
声を荒げヒートアップしていく。
何事だと、後ろを振り返るカフェのお客さんたち。


僕の頭は冷静に回転する。

ここで抗議したって、
こういう頭に血の登ったバカは
何を言っても逆効果だ。

こっちはできるだけ平静で
「やれやれ」といった仕草で
その場をスマートに立ち去った。

駅から追い出されるジプシーのように。

ちなみにここは僕がWi-Fiを使ってた場所。
犬のたまり場じゃねえか。
どちっも似た様なもんだね。

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街は綺麗だった。

水路に小型のモーターが浮かび、
それがここに住む人々の足であることがわかった。

家の作りも、僕がイメージしてきた
それとぴったしだった。

街は良い。


だが、Wi-Fiは今までと同じように、
電話番号がなくては使えない仕様。

場所を代えてはiPhoneでWi-Fiを探したが、
使えるようなものは見つけることができなかった。

僕の姿はもちろんフル装備だ。
バックパックにサブバッグ、手にはギターを持っている。

休憩を繰り返し、気持ちを切り替えるために
3ドルのピザを食べる。

周りでは観光客たちが楽しそうにお土産を物色したり、
アイスクリームを食べてこの街を楽しんでいた。

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そうだー。両替もしておかなきゃな。

僕の財布の中には
スイスフランが2万円分入っていた。180フランだ。
観光地だったら両替できるだろう。ユーロに替えてしまおう。

見つけた両替所で自分の順番を待つ。
ブースの中にいた眼鏡をかけたお姉さんは
ニコニコしながら観光客の相手をしている。
無愛想なヤツよりはよっぽどいい。

書類に名前を書いて、僕はユーロを手に入れた。

105ユーロ。

「あれ?」

iPhoneのレートアプリで計算する。

「14,371yen」

おいおい。そんなにスイス・フランって
弱かったのか????そんなわけないだろ?

一瞬の出来事になにがなんだか分からない。

さっきごみ箱にぶち込んだ書類を
取り出して何が起こったのかを確認する。



「%FEE(手数料) 19.90」

はっっっ???!!!!



マジでアリエネエ…。

5分の1が手数料ってどんなだよ?
両替すればするほど損する仕組みじゃねえか。
何?ほんとうにマフィアかなんかがバックにいるの?

観光客ナメてるにもほどがある!!!

『観光地だから』と安心しきったのが、ダメだった。

一瞬で僕の50ドルがもってかれた。
赤子の手をひねるのも同然に。

念のため、他の両替所でもレートを確認したが、
レート自体はどこもおかしいところがなかった。

他の両替所の方が、
さっきの所よりレートが悪いところさえあった。

僕が泣き寝入りするほかなかった。

今から「やっぱりスイス・フラン返してください!」
なんて言えないのは分かりきったことだ。

なんのためのサインだ?

「私はこの取引に一切文句を垂れません」
ってサインだろ。くそ…。



トイレに行きたかった。

カフェでニコニコしながら
「トイレ貸してもらえます?」と
アジア人顔のスタッフに尋ねると、

若いヤツは「ボスに訊いてみます」と言い、
その横で作業していたアジア人顔の女ボスは
「ノー」と言った。

はっ?なんなの?トイレくらいいいじゃねえか。
バックパッカーには使わせないってことですか。
悪かったね。

次の店で運良くトイレを
使わせてもらうことができたが、
僕が用を足している途中に個室の電気が消えた。
示し合わせたかのように。

焦らないようにポケットからiPhoneを取り出し、
LEDライトを照らす。

タバコが吸いたかった。
巻きたばこを切らしてしまったので、
売店で6ユーロ近い30gのアメリカンスピリットを買う。

石段に座って疲れ切った
肉体労働者みたいにタバコを吹かした。



「もう、この街嫌いだ」

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僕の出した結論はそうだった。

いくらなんでも嫌なことが
立て続けに起こり過ぎている。
ここはすぐに脱出した方がいい。

観光地ってなんだ?
地域の特色を売り物にした大人のテーマパークだ。
それがあれば外貨を稼げるし、
人々はその国の建造物だったり、
考古遺跡だったりに惹かれて次々にやってくる。
興味や知的好奇心を満たすために。
僕もそのうちの一人だ。

「あの街はこんなに素晴らしい」
っていうテレビやらブログやら人の話を
聞いてここまでやってっきた。

確かに綺麗で面白い街だった。
街自体はね。

ベタな雑貨の中から、
メイドイン・イタリアの雑貨を仕入れ、

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フリーハグにちょっと慰めてもらい、

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バスキングをかまして食費分稼ぐと
僕はさっさと駅に戻り、
電車にタダ乗りしてMestre駅で降りた。

電車に無賃乗車するために、
わざわざ5km離れたローカル駅から電車に乗り込んだ。

様子を見るために、その3つか4つ先のローカル駅で降りた。

ローカル駅なので電車はなかなかやってこない。

たったふたつしかないプラットフォームの
向こう側ではサリーを来たインド人だか
バングラディッシュ人だかの家族が
ヴェネツィア・サンタ・ノベラ駅方面の電車を待っていた。

僕と同じホームで電車を待つ
トルコ人のおっちゃんとお喋りをした。

イタリアは財政に問題があるよという
おっちゃんの一言がよく理解できた。

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やってきた電車に同じようにタダ乗りする。

おっちゃんはその2つ先の駅で降りた。
きっとおっちゃんも無賃乗車だったに違いない。

僕は窓の外を眺めていると、
駅員がチケットの確認にやってきて、
僕のモクロミはあっさりと破られる。
しかも車内でチケット買う方が高いってなんだよ。くそ。
やっぱり僕にこういう真似はできないのだ。

次の乗換駅で渋々、次の駅のチケットを買う。

ヴェネツィアから買った方が
500円くらいも得だった。もうわけわかんねぇ。

チケットを買った安心感で、
「いつでもチケットを確認しに来い!」
と構えていたが、こういう時限って駅員は現れなかった。

だからなんなんだよ!
せっかくチケット買ったのに!!!


ただ、電車の窓から見る夕日は
なんだか壮大だったな。

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降りた駅はスロヴェニアの国境に近い
トリエステという街。

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日が沈むとバーくらいしか開いてるお店がなく、
建物はバカみたいに高い。

僕は食糧を求めてさまよい、
かろうじて見つけたピザ屋で買ったのは
2.5ユーロの6個入りのコロッケみたいなヤツ。

気づかなかったけど、そのすぐ隣りがスーパー。
あー、もう。無駄な出費…。

手に入れたのは特売のトマトとプラム。
安いフランスパンを買って近くのベンチに座って食べる。


今日の寝床はキッズコート。

23時を過ぎても子供たちが遊んでいる。


現在、自作キャンピングカー「モバイルハウス」で日本を旅しながら漫画製作を続けております。 サポートしていただけると僕とマトリョーシカさん(彼女)の食事がちょっとだけ豊かになります。 Kindleでも漫画を販売しておりますのでどうぞそちらもよろしくお願いします。