「GO TO イラン」
世界一周286日目(4/11)
朝4時頃にトイレで髪を洗っていると、掃除のお兄さんに背中をぽんっと叩かれた。ここはアラブ首長国連邦にあるシャルジャ空港。
ここにいる人たちのほとんどは海外から働きに出てきた人たちのようだ。みんなどことなくフレンドリーで、物価の高いこの国にいても、僕を少し安心させてくれた。
ベンチで最後に一眠りをかますと僕は早々にチェックインカウンターに向かった。さっきダンキン・ドーナッツのお兄さんにフリーWi-Fiがないものかと尋ねたら、搭乗ゲートの前ならあるかもよと言われたからだ。いくらお金持ち国家のドバイと言えども、や、ここはシャルジャなんだっけ?フリーのWi-Fiにはありつけていない。かろうじて昨日行ったドバイ・モールにフリーWi-Fiは飛んでいたのだが、いくら試しても接続できなかった。
まあいい。まずはチェックインだ。プリントアウトしたEチケットを見せると、
お姉さんは僕に「お金は持っているのか?」と確認してきた。イランでATMが使えないのは有名な話。
「大丈夫です。300ドル持ってますから!」と少し少なめに申告しておく。「これ何ですか?」
お姉さんはバックパックから突き出たギターケースを指差して僕に尋ねてきた。またか…。
「えっと、ギターですけど、何か?」
「あ~、こういう壊れやすい物は梱包していただかないとダメなんですよねぇ…
僕は素直に20ディルハム(555yen)払いバックパックをラッピングした。梱包をしてくれたお兄さんは
「これで大丈夫だぜ!」と自信満々で僕に言ってきたが、僕としてはまた無駄な出費がかかってしまったことが気を重くさせた。これでロスト・バゲッジでもしたらー…、僕は誰を呪っていいやら
各搭乗ゲートへと続く通路で僕はさっそくiPhoneを取り出しWi-Fiがあるかチェックをしたのだが、フリーのWi-Fiなんてどこにもなかった。
見つけたラウンジの有料Wi-Fiは一時間100ディルハム(2772yen)という驚愕の価格設定。誰がそんな大金払ってWi-Fiなんか使うかよ!ばかぁ!
仕方なしに細かいお金も崩す目的でカフェでチョコデニッシュパンをたべながら日記を書いた。
搭乗の時間になりると僕はイラン、シーラーズ行きのエア・アラビアに乗り込んだ。隣りに座るおっちゃんは頭にターバンを巻いている。いよいよだ。
あっという間に飛行機は離陸し、アラブ首長国連邦は遠ざかってく。
飛行機は海を越え、どこの国だろうか?地球の表面上でうねる山脈を見ると、地上からじゃ絶対この景色は見れないなと思った。
飛行機はシーラーズにさしかかると高度を落とした。
そこで見えたのがピンク色の湖。
なんだこりゃ…。
窓際の席からずっとその湖を見ていた。これってガイドブックに載っているんだろうか?前の生に座っていた子供も、僕と同じように食い入るようにピンク色の湖を見ていた。
シーラーズ空港では飛行機から滑走路に降り、入国管理局まではバスで移動する。
僕が乗って来たエア・アラビアの機体の写真を撮ろうとしたら、ノリのいいお兄さんがポーズを決めてくれた。あれ…?なんだこの感じ?
次はビザの取得だ。僕はイラン入国のビザを持っていない。空港でアライバルビザを取らなければならない。なぜ、このシーラーズ空港を選んだのかと言うと、アライバルビザが簡単に取れるという情報を入手したからだ。
アライバルビザ申請の人たちが窓口に並ぶ。僕の目の前にはアジア人のおっちゃんが二人。
「アライバルビザってここでいいんですよね?僕、ビザ取れるでしょうか?」
不安をまぎらわすためについつい訊いてしまう。
「あぁ、そうだよ。シーラーズで取るのは簡単だよ」
ニコニコしてリラックスした雰囲気の二人は台湾出身だった。やっぱり僕は彼らのことが好きだ。
窓口で渡された用紙に必要事項を記入して、別の窓口に申請しにいく。
ビザ申請の費用は15日で40ユーロ。55ドルだ。あれ?ユーロだと?ドルしか持ってないよ。
窓口のおっちゃんは他の申請書をさばきながら、あたふたとしている。
僕が100ドルを支払うと「それじゃ銀行にこれ出してきて!」と僕に差額を返そうとしない。
「えっ?ちょっと待って下さいよ。今100ドル渡しましたよね?ほらレートだとあと45ドル返してもらえるはずですが?」
「え?あぁ、そうだったね!え~と…ごめん。今手持ちのドルがないな。とりあえず銀行に行って来て」
こんなやり取りを三回ほど繰り返す。
一時的な業務にキャパオーバーしているのか、それとも慌てたフリをした確信犯なのか。
いずれにせよ、レートアプリでいくら返ってくるのか分かっていてよかった。
45ドルも損するなんてシャレになんねえよ。
空港内にある銀行窓口で領収書をもらい、それをさっきのあわてんぼうおじさんのいる場所で書類を書いてもらい、申請用紙をもらった窓口に提出するというこんな流れだ。なんで一括でやってしまわないんだろう?
ここでずいぶんと待たされる。何枚かまとめて申請用紙を受理すると、窓口のおっちゃんはどこかへ行ってしまう。どうやらパスポートのコピーを取っているようだ。
ようやく僕の番がまわってきて言われたことは「ホテルの名前がない」だった。僕はホテルの予約なんかしていない。とりあえずビザ申請のために住所だけおさえておいたのだが、宿の名前をメモしておくことをすっかり忘れていた。急いでマップアプリでシーラーズの地図をピンチで拡大し、適当なホテルの名前を見つけてそれを記入した。宿の名前と住所は合っていない。調べられたらめんどくさいことになるぞ…。
そこからの10分はアホみたいに長く感じた。アライバルビザを取得した人たちがどんどん周りからいなくなっていく。さっきの台湾人の二人はとっくに入国審査を終えてどこかに行ってしまった。
「YOSUKE!!!」
投げつけられるように窓口に置かれた僕のパスポートにはイランビザがばっちし貼り付けてあった。
「おぉおおお~~~!!!」
思わずガッツポーズをとる僕。こ、これでイラン入国だよ!やったよ!
世の中にはこれよりも数段入国審査が厳しい国があるだろう。それに比べたらイラン入国なんてお茶の子さいさいだと思う。簡単にアライバルビザが取れると聞いて僕はここへやって来たわけだし。徐々にそのレベルを上げていけばいいのだ。最初っからエベレストにトライする必要はない。
空港の外に出るとエアポートタクシーの運転手たちが声をかけてきた。
イマイチ相場が分からない。運転手たちは最初米ドルで7ドルだと言い、僕が相手にしないと5ドルまで落としてきた。もっと安いと思うんだよね。
マップアプリを頼りにシーラーズの中心地へと歩き出す。
空港の敷地から車道へと続く道。花壇にはパンジーの花が風に揺れる。遠くの方に見たことのないような山が見え、空にはデカい雲が浮かんでいた。むこうからやって来た大型トラックの運転手は僕の姿を見ると手を振ってくれた。迷彩色の制服を着て、銃を手荷物警備員はその格好に似つかわしくない笑顔をくれた。
バックパックを背負って車道に出る。
目の合う人たちはだいたいニコニコしている。
これがイランなのか?想像してたのと全然違うぞ。
しばらく歩いたところで僕の横に車が停まった。
「どこまで行くんだい?」
3人ほどの若者が乗った自家用車。たどたどしい英語で僕に尋ねる。
「シーラーズまで行きたいんだ」
「じゃあ乗っけてってやるよ!」
車は時速70キロを越えて道路を走り出した。音楽を爆音でかけたり、僕が喋るとすぐに後ろを振り向く運転手。コイツ…いつか死ぬぞ!
車はあっという間に目的地についた。運転手のお兄さんは「おれはタクシーの運転手だからさ。なんかあったら電話してくれよな」と行って僕に電話番号を教えてくれた。ここまで1.7ドルくらい。
さて、どうしようかな?一体どこに行けば宿があるんだろう?
マップを見て、タクシーに乗ってみて分かったことはこの街はかなり広いってことだ。歩いて回るのは骨が折れるだろう。ぐちゃぐちゃで汚くて、それでいていたるところに売店があって、宿がある場所はだいたい決まってるそんなインドとは大違いだ。道路はだいたいまっすぐに伸びていて、コンクリートで舗装してある。もちろん野良犬犬なんていない。
てかシーラーズ何があるんだ?調べてねーや。
もうエスファハーン行っちまうか!
どこかテーブルのあるカフェかなんかで一人作戦会議をしようかとぼっとつっ立っていると、メシ屋の前に出されたテーブルで食事をとっていたおっちゃんが僕に声をかけてきた。
「何を探しているんだ?」
「う~んと、エスファハーンに夜行バスで行こうかなと考えているんだけどさ、バスターミナルってどっちかな?」
「お前さんがやって来た方向とは逆だよ」
教えられた方角はついさっきまであんちゃんたちとかっとばしてきた逆の方角。
バスターミナルもすっ飛ばしてきてしまったわけだ。
「あちゃ~…通り過ぎちゃったわけだ。じゃあ歩いていこうかな?」
「歩いていくのは時間がかかるぞ!待ってろ!タクシーを呼んでやるから!」
おっちゃんは食事中にも関わらずタクシーを呼び止めて値段交渉までしてくれた。
「Five thousand(5,000)」とタクシーのおっちゃんは言う。レートアプリで確認する僕。
『0.2ドル!安っっ!』
バスターミナルに到着すると僕は言われた通りに5,000リエルをおっちゃんに差し出した。
「?何言ってるんだ?」
まぁ、なんとなくわかってましたけどね。ベトナムとかでも千の桁なしで言うこととかあったからね。きっとイランでは一桁少なくいうのがフツーなんだろう。
20,000リエル札2枚と10,000リエル札で支払った。
1,96ドル。まぁそんなもんなのかなぁ?
バスターミナルではいくつものバス会社がしのぎを削っていた。
「エスファハーンに行きたいんだけど」と僕が言うとカウンター越しに「こっちに来い!」としきりに僕を呼び寄せようとする。
提示された金額は25万リエル(9.8ドル)。あれ?そんな高かったっけ?胡散臭いヤツは信用できないので、念のため隣りのバス会社にも値段を確認してみるとこちらは125,000リエル(4.5ドル)だった。この国でもボられないように気をつけなくちゃあいけないのかぁ。やれやれ。
イランではインドのように英語がスムーズに伝わることはない。値段を訊いても「?」と眉毛を上げられたりすることだってある。チケット売り場の外でタバコを一本買おうとしたのだが、お店の男の子は英語を解せず、タバコを一本だけ売ってもらうことに苦労した。試しに買ってみたKENTは一本5,000リエル(0.2ドル)だったが、英語の喋れる大人たちがやって来ると2本出てきた。よくわからない。
「英語がな、ちょっとだけだったら分かるんじゃよ」
ターミナルで働くアクーヴァおじさんと少しお喋りをした。細長いESSEを二本ほど僕に分け与えてくれた。
バスの時間までそこら辺を歩き回ってくるよと言うと僕のバックパックも預かってくれた。や、優しいぞ!
シーラーズの街を適当に歩き、たまたま声をかけてきた気のいい兄さんたちの横に座ってギターを弾く。ここでバスキングするつもりなんて全然なかったけど、何曲か終わる頃にはホメイニーさんがイランのみなさんの手から受け渡された。目の前がアイスクリーム屋さんだったこともある。イランでもバスキングはできそうじゃないか!僕は気分良くバスターミナルに戻った。
エスファハーン行きのバスが出るのは23時。現在8時。
あと3時間ほどあることだしそれまでいっちょ唄ってみるか!
チューニングの段階でめんどくさい絡みのイラン人お兄やんズが出現し、それでも気にせず2曲唄うと彼らは陽気に去っていった。
そして、二人の警察が現れた。
「あんた何やってるの?」
「あ~、はいはい。すいません。こんな場所で演奏したらダメっすよね。すぐに片付けますね!」
ギターをしまおうとすると警察が僕にストップをかける。
「ちょっと署まで来てもらおうか」
はぁあああっっっ!!??
ちっ、まぁいい。どうせあと3時間待たなくちゃいけないんだ。いい時間つぶしになったよ。
バスターミナル内にある警備員のオフィスまで僕は連れて行かれた。
「だから、すいませんって言ってるじゃないですか。5分くらいしかやってませんよ?」
「パスポートを見せろ!」
「はいはい。ほらエスファハーン行きのバスのチケットだって持ってますよ?何か問題でもあるんですか?」
「ここでの路上演奏は禁止されている。場合によっては警察署まで連れて行くぞ」
一人はポケットから手錠を出し、いやらしくチラつかせた。
「はぁあぁあ~~~!!??いや、マジ意味わからんですって!たかだか唄ってただけじゃないですか?それも5分くらい!別に誰かを傷つけたわけでもないでしょう?それはありえないですって!」
事務所の中には制服を着た威圧的な二人の警官(警備員?)。迷彩色の服とブーツを履いたのっぽのアーミーの青年二人。彼らは眼鏡をかけた大人しそうなアーミーの青年を僕の見張り番として事務所に残し、どこかへ行ってしまった。おいおい。イラン初日でこれかよ?いままで路上演奏を注意されたことがあっても、捕まることはなかったぞ!!??てかバス間に合うのか?
「なぁ、いくらなんでもやりすぎじゃないか?僕はそんな悪いことしたのかなぁ?」
と眼鏡の青年に話かけるが、その子は英語をあまり解さないようだった。
「大丈夫だって」
とは言ってくれるものの、やはり不安だ。
「ねえ、君、音楽は好き?」
「…好きじゃない」
はぁ…
事務所の中にあるトランシーバーの受信機からは途切れることなくペルシャ語の報告が流れてくる。
青年はおもむろにテレビをつけ、サッカー中継にチャンネルを合わせた。
僕は目を瞑り、椅子に深く腰掛け警官がが返ってくるのをじっと待った。
30分ほどして帰ってきた警官は僕に言った。
「さぁ、ほら出てけ!」
「すいませんでした」
ギターを持とうとするとまたもやストップがかかる。
「23時まで我々が預かっておく!」
「いや!待って下さいよ!だって僕のバスは23時出発なんですよ?22時にしてください!」
バスターミナル内のベンチに座って僕は約束の時間を待った。
ターミナル内のテレビ中継には人だかりができていた。きっとイラン人はテレビが好きなんだろう。
ベンチに座って時間がすぎるのを待っていると大学生の男の子が人懐っこく絡んできて、慣れない英語で「I LOVE YOU!」と言われた時には苦笑するしかなかった。
ギターは無事に戻ってくるのだろうか?22時をちょっと過ぎたころ、今度は自分から再び事務所へと向かう。波風たてないように反省し切った弱々しい感じでギターを回収する
「I'm sorry…」
補導された不良になりきれない中学生の用に頭を下げると、警備員は満足したような顔をしていた。
そうだよ。
バスキングやったくらいだって捕まってたまるかっつーの!
禁煙のターミナル内でタバコふかしてるようなヤツがいるんだぜ?そっちをとりしまれよな!
心の中で捨て台詞を残した。
預かってもらったバックパックを返してもらい、アクーヴァおじさんにお礼を言って僕は23時エスファハーン行きのバスに乗り込んだ。
いろいろあって疲れたよ。
現在、自作キャンピングカー「モバイルハウス」で日本を旅しながら漫画製作を続けております。 サポートしていただけると僕とマトリョーシカさん(彼女)の食事がちょっとだけ豊かになります。 Kindleでも漫画を販売しておりますのでどうぞそちらもよろしくお願いします。