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「1ユーロをねだられる in ギリシャ」

世界一周386日目(7/19)

朝方5時に広場のベンチに横になった。

寝袋は使わない方が浮浪者か酔ってそのまま寝てるヤツを演出できるんじゃないかと寝袋も使わずに寝た。

少し寒かったのでバックパックからパタゴニアのアウターを出して羽織る。下はサンダルにジーンズといった格好だ。

お気に入りのnudie jeansの崩壊っぷりがすごい。何度も破れたところを縫ってはまた新しいところが破けてくる感じだ。僕は同じメーカーのジーンズを型違いで他にも3本持っているんだけど、日本で穿いていてここまで破けることはなかった。まさに第二の僕の肌だ。スウェーデンにある本社には絶対に行こうと思う。



ここはギリシャ最後の港町。パトラという町だ。

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イタリアに向かう値段の安いフェリーに乗ることを決めた僕は今日も一日この町に滞在することに決めた。一ヶ月も漫画を描いていないことだ。腕もなまってしまっただろう。漫画も描きたい。

それに今日は土曜日だ。昨日、そこそこの稼ぎができたからバスキングでフェリーのお金を稼げるかもしれない。


僕の一日は漫画を描くための作業場探しから始まった。

朝方の町はまだ全然人が出歩いていない。日曜日ということもあって、みんなの活動も遅いのだろう。

たまたま見つけた雰囲気のいいカフェをこの日の作業場にすることに決めた。

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求めることは丁度いいテーブルとトイレ、iPhoneなどを充電するコンセント、
それにWi-Fiがあれば申し分ない。僕が見つけたカフェはそのどれもを満たしていた。

カフェにはジャズがうるさくない程度に流れ、スタッフのお姉さんがちょっとめんどくさそうに僕の対応をしてくれた。

カプチーノをオーダーし、バックパックから漫画製作の道具をひっぱりだす。作る話は決まっていた。トルコで出会ったクルド人のサジュークを主人公にした話を描こうと思ったのだ。トルコのイスタンブールで彼と別れる時に、「いつかおれを漫画に登場させてくれよな」とサジュークが嬉しそうに言っていた。それならもう描いてしまおう。アイツの喜ぶ顔が目に浮かぶ。アドレスも知っているから、出来上がった漫画をiPhoneで撮影して送ってやろう。うん。きっとアイツ喜ぶぞ!


ただ、なかなか思うように下描きはすすまなかった。

やっぱり僕の漫画には背景が重要だ。

あの時、あの場所で見た風景は頭の中でなんとなくは再現できるんだけど、いざ漫画の背景として描こうとすると細部が思い出せない。あの町はどんな風に標識が立っていてあの建物は何回建てだったっけ?

iPhoneに残った写真をあさったり、ネットでギリシャの写真を見つけてきて自分のストーリーにおとしこんでいく。

二杯目のカプチーノをオーダーした時、僕はタバコが吸いたくなった。だが、物価が上がったトルコ以降、僕はタバコを買っていない。いや、イランくらいからほとんど吸ってないな。

吸わないわけじゃない。ほとんどもらいタバコだ。トルコでヒッチハイクした時なんかドライバーさんから「いる?」と訊かれると「あざっす!」とか言っていつももらってたな。

コーヒーを飲むとタバコが吸いたくなる。あの苦みがタバコの味を引き立てるのだ。カプチーノは全然苦くないけどね笑。


カウンターに座っていたお兄さんについつい「タバコ一本もらえませんか?」と訊いてしまう。こういうふうにねだることがあまり好きじゃない。

だからお返しに僕は名刺を描いてお兄さんにプレゼントした。

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途端、フレンドリーになるお兄さん。

スタッフのお姉さんも含め、周りのギリシャ人たちも僕に好印象を抱いてくれたようだ。次々に友達の名前を僕に紹介してくれる。アイツがなんとかで、あの子がなになにだよ。一度に言われても覚えられない。ギリシャの人の名前はけっこう難しいんだ。みんな二文字くらいのあだ名だったらいいのになと思ってしまう。


漫画製作はいい感じのところで打ち切られた。

スタッフのお姉さんが「そろそろ店をしめるから」と声をかけられた。僕もありがとうございますと、急いで荷物をしまう。

そんな感じでこの日の漫画製作は終了した。



微妙な時間だ。

バスキングでもしてみようかと町をうろついたが、僕は町の異変に気づいた。人の姿が全く見当たらないのだ。

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まるでゴーストタウン。お店のほとんどは閉まっており、通りを歩いているのは僕だけだったりする。

ラマザンか?いや、ここはギリシャだぞ?

町の住人たちがこぞってどこかにでかけてしまったようにも感じる。みんなうちから一歩も外に出ないで、休日を満喫しているのだろうか?それにしても人の姿を見かけない。

かろうじて開いているキオスクのお姉さんは、お店の中でテレビを見て暇そうにしていた。まるでそれが決められた仕事で、「ほんとうは働きたくないんだけどね」とでも言うように。


公園のベンチに座ってアイスクリームをかじった。ギターの練習でもと思ったが、こんな静かな住宅街でギターを弾いているのが後ろめたくも感じる。

そういえばギリシャにやって来たのも一週間前の土曜日だったな。あの時も人通りが少なかったのを覚えている。ギリシャは土曜日が完全なオフの日なのか???

しかたがないのでエベレスト・カフェで安いアイスコーヒーをオーダーしてiPhoneをいじって時間をつぶした。

18時をまわるとどこからともなく焼きトウモロコシ売りのおじちゃんがやって来て、エベレスト・カフェの前に屋台を出し始めた。トウモロコシが皮付きのまま弱火で焼かれていく。それを買うお客さんは一人もやって来ない。一体誰があのトウモロコシを買うのだろうか?売れなかったらおっちゃんの晩ご飯になるのだろうか?

この手持ちぶたさな時間がうまいことやり過ごせなかった。また漫画を描く気分でもない。通りには誰もいない。バスキングもできない。明日向かうイタリアのことも調べる気にもなれない。そんな数時間だった。

20時をまわって目の前にアコーディオンを持ったおっちゃんが横切った。さっきよりかもいくぶんか人の数が増えたような気がしなくもない。ためしにバスキングしてみたが、昨日ほどのレスポンスを得ることはできなかった。それでも昨日の分と合わせてフェリー代くらいにはなった。静かなパトナの町だ。出費も抑えれたんだ。よしとしよう。



昨日と同じように24時間営業のエベレスト・カフェでネットをして時間を過ごした。

どうしても見たい映画があったのでiTunesで初めてレンタルしてみた。400円。映画館で1800円だろ?再生できるのは48時間というリミットつきだが、これを映画館と同じに考えたら安いんじゃないか?

最初に「ダウンロードの完了まで9時間」と表示された時には焦ったが、途中からネットの速度が上がり、3時間ほどでダウンロードを終えることができた。

そして時間をつぶしていた深夜4時にそれは起こった。



「なぁ、1ユーロくれないか?腹が減ってるだよ。サンドイッチが喰いたいんだ

声をかけてきたのは小柄な、だがガタイのいい坊主頭のギリシャ人。

「悪いね。僕もお金ないんだ。明日イタリアに行くんだよ。フェリーボートにお金がいるんだ」

しつこく食い下がる坊主頭。あくまでも下手だ。

途中から坊主頭の仲間のようなヤツが一人現れた。同じように1ユーロをねだる。


「おいおい、なんで僕に頼むんだよ?
ほら、ギリシャ人の友達に頼めよ。
スタッフに言ったら何かくれるかもよ?」

「ギリシャ人なんてクソさ。
なあ頼むよ1ユーロくれよ」


だんだん馴れ馴れしくなっていく坊主頭とその仲間。マジでめんどくせえ。僕はテーブルに広げてあったパソコンをしまい、荷物をまとめた。

僕の私物に触れようとしてきたので「やめろよ」と手を軽くはたくと、態度が少し威圧的になった。あぁ、ナメられてるなって感じて怒っちゃったのか。こっちも「お金ない」でゴネ通せばよかったなと、冷静に今自分の置かれているシチュエーションの反省をする。すみやかにカフェのカウンター側に避難する僕。


「そんなところに言ってどうしたってんだ?」

「ん?お店のスタッフが君たちのこと見てるよ。
なぁ、コイツらサンドイッチが欲しいんだってさ」


ギリシャ語で二言三言もめると、カフェのお兄さんの一人はスマートフォンでどこかに電話をかける素振りをした。ダッシュで逃げる坊主頭たち。ははは。

カフェの深夜番のスタッフたちは、「もう少しここにいていいぞ」と僕に声をかけてくれた。深夜一人でパソコン広げてるのもちょっと問題かもな。まぁ、ここはオープンテラスのカフェだけどね。


めんどくさい事態だった。

15分くらいお店でぼっとして、カフェのお兄さんたちにお礼を言って僕は坊主頭たちが逃げていった方向とは逆方向に寝床を探しにいった。

お金をせびられるくらいで別に怖いようなことはなかったが、深夜の町で人の姿が目に入ると無意識のうちに身構えるようになっていた。

別の公園のベンチの上に寝袋を出して寝転がる。

やれやれ。


現在、自作キャンピングカー「モバイルハウス」で日本を旅しながら漫画製作を続けております。 サポートしていただけると僕とマトリョーシカさん(彼女)の食事がちょっとだけ豊かになります。 Kindleでも漫画を販売しておりますのでどうぞそちらもよろしくお願いします。