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「バラナシ・ラスト・デイ」
世界一周279日目(4/3)
お腹がゴロゴロ言っている朝6時。
二段ベッドからゆっくり起きだし便座に腰掛けると、水だった。
えっ?何が「水」だったって?それはご想像にお任せします(笑)
おかしいな。ここに来てからそんな変な物食べてないはずなんだけど。毎日ローカルなご飯とラッシー飲んでててもなんともなかったし、ガンジス川で沐浴してから潜伏期間と呼ばれる2日間もなんともなかった。これは漫画を完成させたことでお腹がゆるんだのかもしれない…。
いずれにせよ漫画を完成させてなんだかホッとしているのは事実だ。バックパックからインドの薬を半錠取り出し、水と一緒に胃袋に流し込んで再びベッドに横になった。
去年の12月にタイからコルカタに来た時に12錠入りの下痢止めを購入してはや3ヶ月。1錠だと効き過ぎるので半錠に噛み砕いて飲んだり、下痢に苦しんでいる人に分けたりしてきたけど、残す所あと一錠だ。買い足そうかな?そのくらい信頼のおけるオレンジ色の薬だ。色はあれだけど…。
薄暗い部屋の中、6台ベッドのあるドミトリーに泊まっているのは僕一人だ。
昨日まで日本語が喋れるベルギー人のイヤンもいたんだけど、彼は連れ去られてしまった。同じくこの宿の女子ドミに泊まっている英語がネイティヴ並みに喋れる、台湾人の旅行ライターの女のコがいるんだけど、まぁ、イヤンにロックオンだったわけですよ。パソコン開いて二人で映画なんて見たりしててさー。まぁ、いい感じだったわけ。ていうかいちゃいちゃし過ぎて、台湾人の女のコなんてフツーに男子ドミに入ってくるし、僕としてはかなり気ぃ使ったよね。
それで昨日、ついに二人はどこかへしっぽりと消えてしまった。外泊だよ…。「"台湾肉食系巨乳旅行ライター"だね」と宿の誰かが言っていた。まさしく。
『やべぇ、何もする気がおきねえ…』
再来したお腹ホーリーのせいもあってか、僕はちょっとした脱力感に苛まれていた。明日にはデリー行きの列車に乗ることになっている。バラナシで自由に動けるのは今日だけだ。雑貨もいくつか仕入れておきたい。
朝食の時間にはいくらかお腹の方も落ち着いてきので、野菜スープとトースト三昧、チャイの朝食をいただいた。
それと、お金もある程度おろしておかなくちゃな。
ゲストハウス近くのATMに行ったものの、ATMのお金は利用者が多いために底をついていた。警備員のおっちゃんがヒラヒラと手を返す。ゴードリア へ出てお金をおろすことができた。
部屋の片隅にまとめておいた荷物をある程度パッキングしておく。
自然光が入ってくる共有スペースで日記を書いて、昼寝をして僕はその日の午前中を過ごした。こういうまったりした一日もいい。
昨日外泊したベルギーと台湾の二人も猫の様にいつの間にか宿に戻ってきていた。
シタールを習いにインドにやって来たナカタニさんは、ドラムの巻きたばこを上手に巻いて、ゆっくり吹かしながら僕にこう言った。
「シミズくんが一番バラナシ楽しんでたよねぇ…」
毎日毎日外へ出て漫画を描いて、それでも沢山の人たちと出会ってきた。時には何かのチャンスを逃してしまっているんじゃないかと不安になったが、その一言が嬉しかった。
そろそろ「サフー・ティー」に行く時間だ。
14時にスタッフのバダイに起こされた。
「地球の歩き方」にも載っているらしい有名な紅茶屋さんがバラナシにある。(ガイドブック持っとらんからよくわからないけど)
四年前に一緒にインドに行った友達もサフー・ティーに行ったこともあり、「是非行ってみてよ!」とオススメされので、バダイにお店の人を呼んでもらい、連れて行ってもらうことにしたのだ。日本にいる別の友達からは「チャイが作りたい!」とお願いされたこともある。ローカルな材料でチャイを作るなんて面白そうだ。宿の他の人と一緒にサフー・ティーを目指した。
バラナシに張り巡らされた路地を抜け、案内されたお店の中には茶葉が詰まった袋が山積みになっていた。お店のご主人は僕たちにアッサムの茶葉で作ったチャイを試飲させてくれた。
チャイの作り方は至って簡単だ。
お店によってどんな香辛料を入れるかに違いはあるが、基本は水、茶葉、ミルク、その他お好みでジンジャーなどの香辛料の材料をぶち込んで沸騰させて、あとは茶こしでコップに移せば完成。ね、簡単でしょ?
カルダモンやシナモンが効いているチャイもあれば、超絶どシンプルのチャイもある。
たぶん露店のチャイ屋は一番安い茶葉を使っているんだろう。そうじゃなかったらあんなに安い値段でチャイを売れないからね。
サフー・ティーのご主人はやはり商売人だ。
僕たちにできるだけ良い物を買ってもらおうとセールストークをしかけてくる。
「こっちの葉はすぐに味が落ちてしまうからダメだね。買うんなら100g、300ルピーの茶葉とかの方がいいよ」
だが、僕たち(一緒に来た二人は大学生だった)はそんなに高い物を買っても味の違いが分からないようなヤツら。かろうじて最後に加えたチャイ用のマサラは美味しいと思えた。
「ねえ、もっとシンプルなヤツないの?インスタントみたいに混ぜれば出来上がるヤツ」うっかり僕は訊いてしまったが、この質問自体、ブランド物を扱っているサフー・ティーではナンセンスだ。
「そういうのはうちでは扱っていない」
だんだん不機嫌になってきたご主人が応える。『ゴネてないでさっさと買えよ!』という心の声が聞こえてきそうだ。
高い買い物をする時のコツはすぐには、すぐには買わないことだと僕は思う。
今回のなんて仲間にお願いされた物だから、下手に高い物を買って向こうの欲しかった物とマッチングしなかった時のことを考え、僕は購買決定を先延ばしすることに決めた。
「種類が沢山あって何を買ったらいいかよく分からないから、一回友達に訊いてみるね」僕はお店のご主人にそう言った。
二人の大学生も一体何をお土産に買ったらいいのか分からなかったらしく、僕と同じように何も購買しないままサフー・ティーを後にした。
お店の人からしてみたらせっかく試飲までさせてやったのになんだよ!?という気持ちだろう。だけど、僕たちにも考える時間が必要なのだ。
僕は宿に戻ってさっそく仲間に連絡を取った。各茶葉の種類と香辛料を含めた値段を伝える。「や~、そんな高くなくていいよ。ローカルなので大丈夫」と返信するともだち。うん。ごめんねサフー・ティー。
宿に戻った僕はドミトリーにいつまでも置いてある荷物の仕分けに取りかかった。
今泊まっているのはイヤンと僕の二人だけ。また新しいお客さんが来る前に、きちっと不要な荷物は片付けておかなくちゃね。
「これ、イヤンの?」
「いや、違うなぁ」
たぶん誰かが必要ない物をここに捨てていったのだろう。確信犯的に。でも、宿のひと人たちしてみたらどれが誰のかなんて分からない。不用意に捨ててしまったら、後で厄介な問題になりかねない。
整理し終わった荷物を部屋の一角にまとめて宿のスタッフ、ユキさんに声をかけて、荷物の処理をお願いした。
ここで持ち主に置いていかれてしまった荷物たち(そのほとんどは衣類だ)は「エクスチェンジ・ボックス」に入れられることになる。
ユニクロのロンTやパンツ。ネパールで活躍したであろう保温性抜群のジャケット(まずインドでは使わない)、ブランケット、そして写真。現像されたネガと写真にはこの前まで泊まっていたイギリス人のマーカスがバッチし写っていたあんにゃろ~…大人しそうな顔してしれっと置いてったな!マーカスはプリーに行ってしまったとのことなので、一応プリーにあるサンタナに連絡をとるみたいだ。
夕飯は初めて宿の物を食べた鳥からとトマトのパスタ。パスタが太くてボリュームがある。
昼飯を食べていなかったのでモリモリとパスタをかっこんでいたら、あまったパスタが僕の方へとまわってきた。
もったいない。ありがたくいただきます♪いやぁ、お腹にたまるね。それをモリモリ食べていたら、横で神妙な顔つきのお姉さんが「これー、食べます?」と僕に訊いた。う”…。正直お腹いっぱいだ。『コイツなら喰えるんじゃね?』と僕に期待がかけられていることは察知できた。
「男には女のコの期待に応えなくちゃいけない時があるんですよ!ごっつあんです!」と言って僕は女のコの残したパスタをなんとか完食することができたのだが、食べ終わると僕はその場から動けなくなってしまった。100%のキャパシティーまで食べちゃダメだってつくづく思う。
無駄に共有スペースでゴロゴロして休んだ後、僕は屋上でギターを弾いた。腹いっぱいだと声もでやしない。
その後、宿にの本棚で偶然見つけたインドのスラムを書いたルポタージュ「レンタルチャイルド」を一章読み、夜中の2時までおっちゃんたちに「宗教」の話を聞かせてもらった。
「ねえ、君にとって「信じる」ってどういうこと?「信じる」って一種の思考停止なんじゃないかと私は思うわけ。だから私にはそれがどういう状態であることなのかイマイチ分からないんだよ」
とか哲学じみた質問をされて僕は『ったくめんどくせー質問だなぁ』と思いながらも、その質問の意味を頭の中でウダウダと考えていたのだ。
そんな風にして僕のバラナシでの最後の夜は終わった。
夜風が気持ちいい。
現在、自作キャンピングカー「モバイルハウス」で日本を旅しながら漫画製作を続けております。 サポートしていただけると僕とマトリョーシカさん(彼女)の食事がちょっとだけ豊かになります。 Kindleでも漫画を販売しておりますのでどうぞそちらもよろしくお願いします。