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「旅をしていると会うべくして会う人に巡り会う」

世界一周276日目(3/31)

ここまで長くひとつの宿に留まっていたことはない。

僕がサンタナ・バラナシに来てからまもなく二週間が経とうとしている。僕より長く泊まっている人はバラナシで日本人にインタビューする仕事をしているウェブデザイナーのお兄さんと(いつも自分の部屋でお仕事をされているため、朝食の時間にしか顔を合わせない)インドにシタールを習いにきたという中谷さんという方くらい。気がついたら僕もここの宿で古株(という言い方は少し違う気がするが)になってしまった。

ちなみに僕の次に長く泊まっているのは、日本語の喋れるベルギー人のイヤンだ。

「なんでここに泊まっているの?」と訊いたら「綺麗だから」だそう。老舗ゲストハウスは汚い年期の入ったベッドはもちろんのこと、南京虫が出てきたりする場合もある。そう考えると、安くて綺麗でWi-Fiまでついているサンタナ・バラナシはかなりいい宿なんじゃないかなって思えるのだ。毎日入れ替わり立ち代わり、新しいお客さんたちがサンタナへとやって来る。新しく来た大学生はフレッシュさをまき散らす。きっとここへ来た時の僕はそんな感じだったのかもしれない。

特に避けてるとか人見知りとかそういうのは全然ないんだけど、宿に長く滞在している人間が出す特有のオーラ的なものを感じ取ってか新しく宿に来た者同士旅談義に花を咲かせている。そんな彼らを横目に僕は歯を磨き、寝間着として使っているpatagoniaのボーダーショーツからnudie jeansに履き替え、漫画道具を持ってカフェへと出かけた。



今使わせてもらっているカフェはめったなことではお客さんで満席になることはない。

そのかわり、カフェを経営している家族の子供たちが時折僕の漫画製作の現場に見学にくるのだ。

下描きが終え、さっそくペン入れを始めようかというタイミングでガキんちょたちが僕のテーブルにやって来た。作業は中断されてしまう。頼むよ…。

僕は彼らの注意を逸らすために、インドで買ったHBの鉛筆をガキんちょどもにプレゼントした。鉛筆削りもつけてやった。ほら、なんなら今ならコピー用紙もつけちゃいますよ!この前そこら辺の売店で一本5ルピーで買った鉛筆。僕はBが欲しかったんだけど芯の固さの表記がされておらず、ノリで5本くらい買った後に『あれ?これもしかしてHBじゃね?』と気づくっていう(笑)まぁ、このまま使わないで邪魔になるよりかは、「三枚のお札」みたいに時間稼ぎに使ってしまおうと。この場合、やまんばではなくていたずらっ子だけどね。漫画を描く上では天敵だ。

これでお絵描きに夢中になってくれれば安心して漫画を描けるぞと考えたが、僕の企みは水泡に帰した(笑)

ガキんちょどもが鉛筆を片手にコピー用紙に向かいだしたのは僕のテーブル。漫画製作の道具が珍しいのか、プロッキーや定規を使ってガートやら時計を描いていた。しょうがないか…。今日の作業はここ切り上げることにしよう。

いつも長い時間カフェを使わせてもらっていることだし、僕はしばらくガキんちょたちのお絵描きに付き合い、外の売店でノートと消しゴムを2つ買って彼らにプレゼントした。



漫画道具が入った手提げをぶら下げて行ったことのない路地を通り、僕はもうひとつの火葬へと出た。

宿に泊まっていた誰かが「小さい方の火葬場なら写真撮っても大丈夫でいしたよ」と言っていたのを思い出し燃えている薪にカメラを向けたが、こちらでも注意されてしまった。まぁ、そうっすよね。不謹慎ですものね。

やはりバラナシは大きな街だ。
ゲストハウス周辺のきったない石畳の路地から離れるとコンクリートで舗装された道路、映画館の入ったショッピングモール、アパレル店などを目にした。

僕は漫画を描くために、宿、ゲストハウス周辺のカフェ、メインガートくらいしか行動範囲がなかったが、ちょっと足を伸ばしてみるだけでゲストハウス周辺とは違う雰囲気のバラナシを見ることができる。

それにしても暑い…。最近動かないせいもあってか食欲はないんだけど、水分はすごい摂取する。ガラス瓶入りのジュースを何本も飲み、1リットルの水を買い、5ルピーのカップのフルーツ・ジュースを飲んだ。

2時間くらい写真を撮りながらバラナシ散策を終えた頃にはサンダルの修理した部分が擦れ、赤くなっていた。


僕は町歩きを終えるとそのままの格好でメインガートへと向かった。

今日、漫画を描いていたら相撲お兄さんの一人を発見したのだ。お兄さんの名前が分からないので「相撲おに~さ~ん!」と大声でカフェの入り口から声をかける(笑)

昨日ダンスプログラムの設営をしていたため、てっきりパフォーマンスはないと諦めて宿に引き上げたのだが、ばっちし昨日も尻相撲をやってた。このパフォーマー魂は見習わなくちゃいけないかもしれない…。
そして今日が最後の取り組みなんだとか。それを聞いたら行くっきゃない!僕はすっかりこの尻相撲兄さんたちのファンになってしまった。

4時ぴったしくらいに、昨日と同じ場所に行って待っていたのだが、お兄さんたいが現れる気配はない。近くに座っているヒマそうなインド人に

「「すぅ~~~!もぉ~~~~!」ってアレ知らない?」と尋ねたが、「そんなヤツ見てないよ」と言われてしまった。あんだけ目立つ格好をしているんだ。じゃあまだここには来てないんだろう。僕は日中の日差しを受けて太陽の熱を吸収した階段に座ってウトウトしていた。もうバラナシに来てから連日夜更かしだよ!

この後イランのネット規制でSNSとか使えなさそうだもん!ネットできる時にやっとかなきゃ!ってここでも貧乏性を発揮しております。


「オイ!アイツらだろ?」

階段の斜め後ろに座っていたインド人に肩を叩かれて起こされた。あの奇抜なコスチューム!相撲おにいさんだ!

マザーベイビースクールのスタッフ、リカさん、コハルさんもいる。

「昨日、シミさんのことお兄さんたちが探してましたよ」

「え?」

「カメラ撮るの上手かったって、絶賛してました」

おとといの、iPhone2台持ちの絶妙なアングルから攻めたあの映像が高く評価されたらしい。ふふふ。旅する漫画家をなめてもらっちゃあ困るよ。

「じゃあお願いしますね」

「へ?」

渡されたのはiPhone5Sと4S。てか、コハルさん…、これってまたカメラマンやれってことですか?

「だって、私も一台カメラ持たされてるもん」

相撲お兄さんたちのこのパフォーマンスのクオリティと言ったら、なかなかそうはお目にかかれないだろう。だってキャラ作りのために坊主にしちゃうくらいだ。そこまでやってこそのパフォーマンスなのかもしれない。

ただ、自分たちがパフォーマンスをしている写真や映像は他の人に頼まなければならず、今回はリカさんがインド人の目線から。コハルさんが遠くからというカメラアングルでお願いされたという。

今回の取り組みも最高に面白かった。

観客で人垣ができ、飛び入り参加させられたしたインド人も交えてのバトルロイヤル。てかあんなでっかい日本人に尻相撲挑みたくないよ笑。しかも前回と演出が違うところがあって同じ尻相撲を見ているはずなのに見飽きた感じは全くしなかった。



「個人的な映像作品を作るのを手伝って欲しい」

相撲お兄さんの一人であるフナカワさんにそうお願いされた。一眼レフの連写機能を使って、コマ切れの写真を撮って欲しいとお願いされた。撮った写真のデータをパソコンで編集して映像作品としてまとめるそうだ。

「それってどういう映像作品になるんですか?」

「えっと、カレーの材料を巨大パチンコみたいなので飛ばして、空中で料理ができるっていうー…、ちょっと説明するのは難しいな…」

夕日の色から淡い水色へとグラデーションされていくバラナシの空に向かって、カレーの材料たちが打ち上げられた。


一通りの撮影が終わり、フナカワさんが打ち上げた材料を拾っている。僕はもらったタバコをふかしながらフナカワさんが後片付けする姿を眺めていた。こうやって真剣にバカなことができるってすげえよな。

大学生のとき、早稲田大学に現役合格する様な尊敬すべき友人に誘われて映像作品を作ったことがある。新宿駅前にあるビルの大型スクリーンに流すCMのコンペで、脚本は二人で考えて、僕がアホみたいに演技するというそんな役割分担だった。地元の駅で人の目を気にせず、映像作品作りに取り組む僕を見てその友人はこう言った。

「大人になると、バカができないようになってくる。だけど、「面白いことを仕掛けていくヤツ」ってのはバカができるヤツなんだよ」と。

相撲お兄たちを見ていると、その友人の言葉を思い出した。従来の考え方に捕われていたらできないことが沢山ある。既成概念をぶちこわせ。

片付けが終わると、僕はフナカワさんにあれこれ話を聞いてみることにした。映像作品製作のお手伝いの報酬は、30ルピーとチャイとタバコと旅のインタビューだ。

「2年間世界を旅してたということですが、予算はどれくらいだったんですか?」

「80万かなぁ?」

「は、80万!!!」

待て待て!ちょっと待ってぇぇぇええええ!!!世界一周する資金は一年間で150万円くらいが相場とされているんだぜ?それを2年間で80万、ちょ、フナカワ兄さん、一体どんな旅をしてきたというんですか!!!三年前にアメリカ大陸(南米も含む)以外を旅したというフナカワさん。聞く話全てがスリリングで僕を興奮させてくれた。

鬱で引きこもりになり一年間で映画を400本見ていた時期もあったらしく、その旅のテーマにはロケ地めぐりなども含まれていたそうだ。

「フナカワさんにとっての旅ってなんですか?」

「移動かな?これは僕の考え方なんだけど、世界って根本的なところでは「同じ」だと思うんだ。街も人も食べ物も。変な考え方かもしれないけどね。だから、一つの場所から別の場所へ移動する時の「違い」を生み出してくれるのが旅そのものの行為であり、つまりは移動なんだ」

とここまで書いておいて、フナカワさんの言ったことが正しく再現できているのかは自信が持てない。今までない考え方だったし、こんな旅の常識からかけ離れたところにいた人と初めて会った。っていうか、荷物の重さが60kgあったらしい。その荷物の内容は服が好きということもあり、現地で調達した服に加え、インドで買ったタブラ(15kg)、そして20冊の本。もうぶっ飛び過ぎでしょ!

そんなフナカワさんのお話を聞かせていただくと、自分の旅にまだまだ可能性を感じたし、これから行くまだ見ぬ土地に対してワクワクした。

なんだかんだで、会うべくして僕はこの人に会ったのかもしれない。

フナカワさんと別れた後も、興奮が覚めやらなかった。


現在、自作キャンピングカー「モバイルハウス」で日本を旅しながら漫画製作を続けております。 サポートしていただけると僕とマトリョーシカさん(彼女)の食事がちょっとだけ豊かになります。 Kindleでも漫画を販売しておりますのでどうぞそちらもよろしくお願いします。