「冒険の始まり」
世界一周16日目(7/14)
僕は行き詰まっていた。
モンゴルの首都、ウランバートルに来たものの、都市化したモンゴルの町に
僕が思い描いていたようなモンゴルの気配はあまり感じられなかった。
「どこまでも続く草原や駈ける馬たち、
アクセントを置く様に点在するゲル...」
そういうものを体験するにはツアーに申し込まなきゃいけないようだし、2人以上いないと安くならないシステムなのだ。
そもそも旅とはなんだろう?
世界各地の観光名所を巡ることか?
世界の食べ物を満喫することか?
はたまた異文化交流か?
僕は観光名所巡をめぐるような旅がしたいわけではないということは分かっている。
自分の嗅覚を信じて漫画を描きながら面白い方向へと進んでいく。
それが僕の旅なんだと思う。今のところ。
旅とは何かを定義してしまったら面白くないだろう。世界を一回りするにはまだまだ時間がかかるんだ。色々なものを見て、それから自分なりの旅を作っていけばいい。
自分の旅を彩ってくれるひとつはバスキングだ。
バスキングとは路上パフォーマンスのことを指す。
「バスク(帽子)」というスペイン語起源でそれに現在進行形の「〜ing」がついたらしい。
そのバスキングを世界の路上でやっていこうというのが僕の旅の企画のひとつなのだ。
「ここではどんなレスポンスが返ってくるのだろう?」
僕はギターケースを持って早速ウランバートルの路上に立つことにした。
ギターを構えたのは広場の銅像の前。
30分くらい僕は正面の大型ショッピングモールに向かって唄い続けた。
僕はミュージシャンでもなければ、ギターがうまいわけでもない。唄っているのは日本語のカバー曲だ。
それでもウランバートルの人たちはニコニコしながら僕の歌を聴いてくれた。
アガリは5400トゥグリル。モンゴルはコインがない。金持ち気分でレートを調べたら370円ほどの価値だった。
初心者に毛の生えたような僕が路上に立ってギターを弾いただけでお金という形でレスポンスがもらえる。
やっぱり音楽の力ってすごい。
ここで演る前に近くの公園で練習してきたんだけど、その時も子供達が人懐っこく寄って来ていた。
ストリートライブは僕にとってのささやかな成功体験だった。
お金がもらえると嬉しい。
でも、みんな楽しそうに聴いてくれるの方がよっぽど嬉しい。
漫画を描こうと決めた時も同じ気持ちだった。
読んでくれる人がいることが嬉しく僕は漫画家になろうと思ったのだ。
僕は宿に戻ると次の目的地を考えることにした。
「旅とは何か?」という問いが再び浮かび上がってくる。
やはりガイドブックは必要なのだろうか?
僕はその手のパッケージングされた旅が嫌で今回はガイドブックの類いを一切持ってこなかった。
もし、宿も何もない場所に降り立ってしまったらどうなってしまうんだろう?「遊牧民のお宅にホームステイ!」なんて起こるわけないしな...
不安を抱えながらもホステルのWi-Fiを使って情報収集に励んだ。
自分の旅のプランを立てるのって難しい...。
そんな僕の気持ちをよそに
隣のベッドで出来杉くんとしずかちゃんを演じている2人がいた。
ラトヴィア出身のマリィとシカゴ出身のデイヴィッドだ。
今日、このホステルにやってきたディヴィッドがこの宿のアイドルであるマリィとの距離を一気に詰めていた。
「僕?モンゴルに2年間住んでてね、子供たちに対する教育プログラムについて研究しているんだよ。君はモンゴルの子供たちの教育とGDPの必要性についてどう思う?」
そんな知的な会話を延々と繰り広げているのだ。
のび太くん...今なら君の気持ち、わかるぜ...。
ヤツらがうるさいので僕はキッチンテーブルに場所を移し、モンゴルの旅のルートを調べることにした。
分かったことはウランバートルから国境の町フフホトまで列車があるということだった。その間にある駅に降りてみよう。
僕は他の人の旅ブログを頼りにチョイルという町に行くことに決めた。
「お~い。ピーチティーがあるんだけど、君たちも飲むかい?」
22時過ぎにデイヴィッドが小声で声をかけてきた。
僕とマリィといつも韓国ドラマを見ているおっちゃん意外には他のルームメイトはいない。
まったく、なんてお前は出来杉くんなんだよ...
もう歯を磨いてしまったこともあり断ろうかとも思ったが、僕にはこれがかすかな希望に思えた。
2年もモンゴルに住んでいたデイヴィッドならもしかして僕に何かアドバイスをくれるかもしれない!
ピーチティーをごちそうになりながら僕はデイヴィッドと話した。
「そうかぁ~…、世界一周か。とてもクールだね。それで、モンゴルではどういうプランなんだい?」
「いや、まだ何も決めてないんだよ。とりあえず、ゴビ砂漠で綺麗な星空を見れたらいいなと思うんだけど...」
「じゃあ、チョイルからタクシーとプライベートバス(民間バス)を利用してダランザドガドまで行くといいよ。そこからゴビ砂漠にアクセスできるよ!」
僕には彼のアドバイスから冒険が始まるように思えた。
こういうきっかけってどこからやって来るのか予想できない。
僕は線路からはずれてゴビ砂漠で星空を見ることに決めた。
初めて乗るタクシーやピックポケット(スリ)の巣窟、民間バス。慣れない食事や全く分からないモンゴル語。
そして、バックパックの中には200枚の原稿用紙とPennyとギター。
これを冒険と呼ばずしてなんと呼ぼう?
そう。
これは僕にとっての冒険なのだ。
さあゴビ砂漠へ行こう。
現在、自作キャンピングカー「モバイルハウス」で日本を旅しながら漫画製作を続けております。 サポートしていただけると僕とマトリョーシカさん(彼女)の食事がちょっとだけ豊かになります。 Kindleでも漫画を販売しておりますのでどうぞそちらもよろしくお願いします。