「地下道で歌う」
世界一周307日目(5/1)
「スケート?」
「はいはい。わかったわかった」
いつもと同じようにアランが僕に声をかけてくる。
せっかくスケートボードが活躍する国にやって来たというのに、僕はここ数日Penny Boardに乗れていない。『よしっ!今日こそはアイツらにスケボーは貸さんぞ!』と前の日に心を決めても、アランのぽちゃぽちゃスマイルを見るとついつい貸してしまうのだ。
最初は貸すことに抵抗があった。もしかしたら雑に扱われて大破して戻ってくるんじゃないか?「車に轢かれてまっぷたつ」みたななことになったりしてね。
だけど、ここまで3年、僕にクルージングの楽しみを教えてくれたPenny Board。いやぁ、コイツと色んなところに言ったよ。中でも下北沢~代々木公園~渋谷~日比谷公園までのスケートリップはかなりのアドベンチャーだったと思う。日本にいる時はどこへ行くにしてもコイツを持って行った。そのくらいPennyには愛着を持って使っている。
だからここでアランたちに壊されてしまったとしても、それはPennyとしては本望なんじゃないかと思うようになったのだ。幸い、アランたちは無理に乗るようなことはしていない。今日は二人はリダさんちの狭い敷地の中でPenny Boardに乗っていた。
朝市で食事を済ませると僕はいつものようにメトロに乗って街の中心地へと向かった。
ここでの生活もリズムができあがってきた。
今日はそのままバーガー屋には直行せずに、エレバンの地下道の中でも一番人通りのある場所でギターケースを置いた。時刻は11:20。昼前からのバスキングってどうなるんだろう?そんな興味本位で開始した路上演奏。
この時間だとまだ人通りも少ない。
10分くらいしてやって来たのは地下道でお店を構えるお兄さん。
「悪いんだけどさぁ、おれら、働いてるんだよね」両耳に手を当てて「耳障りなんだ」とクレームを受けてしまった。別にそんな大きな声で唄っていたわけじゃないのになぁ…
分かったことは、昼前からのバスキングはそんなによくないってことだ。まぁ、地下道はほとんど暇だったけどね。お兄さんたちの平穏を乱したってことなんだろう?すんませーん。
まぁいいさ。バスキングなんてしょせんそんなもの。騒音おばさんと紙一重だろう?
バスキングを中止にして次に向かった先は気になっていた雑貨屋さんだ。
ちょっと高そうだけど、しっかりしたものが手に入りそうだ。なんて名前なんだろう?すごい雰囲気のあるお店だ。なかにはところせましとアルメニアの雑貨たちが散りばめられていた。
照明具合も温かさを演出している。
店内にギターを持って入ると、お店の人は「ギターはお預かりしますね」と僕に声をかけてきた。細かいところに配慮がいくお店なのだ。自分たちのお店で扱っている雑貨たちへの気持ちも伺えた。や、違うか。お店を冷やかしに来たようなヤツに釘を刺しておいたと考える方が正しいかもしれない。
この雑貨屋でとりわけ目を引いたのがお店の中心にある、この奇妙なオブジェだった。
僕が食い入るようこのオブジェを見ていると、モデル体系の美人のスタッフはオブジェの裏側にあるスイッチを押してくれた。
輪切りになった部分が回転しだす。
回る方向や速度も違う。
な、なにこれっ!?キモイ!
どうやらこの雑貨屋さんではこういったアート作品も展示してあるようだ。店内の外にはそういうギャラリーがあった。
個展のようなスペースもあり、ここに足を運ぶだけでも楽しむことができるだろう。
雑貨をチェックし終えた僕はそのままクインーンバーガーへと向かった。
最近僕の中でアツいのが昭和タッチの画風で1ページ漫画をTwitterで公開する「史群アル仙」さんという女性の方だ。23歳だそうで僕より歳下。クレパス画家でもあるそうで、ホームページで公開されている作品をみるだけでも、もうすげぇ…。
この漫画家さんを相棒から教えてもらったんだけど、1ページで心を揺さぶる漫画が描けるのはすごいなぁと思った。しかも1ページ漫画を描き始めたのが2014年からだってんだから驚きだ。その完成された世界観に自分の漫画のレベルの至らなさを感じる。まだまだだぜ。そろそろ漫画を描こう。
日記を書いたり、ネットサーフィンしたり、
ここはほんとうにいい作業場だ。だけど、もちろんここで一日を終える気は僕にはさらさらない。時刻は17時。そろそろバスキングに行こう。
アルメニアは日が長い。
20時くらいまで太陽が昇っている。
だが、この日は天候が悪かった。風は吹き、雨も降ったり止んだり。
晴れている時と比べると人通りはイマイチ。レスポンスもそれに比例する。世界一周の資金を集めるためにバイトした串焼き屋さんももこんな感じだった。僕が働いたお店に関わらず他の飲食店もそうだけど、天候が悪い時はお客さんが全然こないのだ。雨なんか降るとそれは顕著だ。
「商売あがったりだぜ」というのは僕だけじゃないだろう。
こんな微妙な日でも路上で歌っていると声をかけてくれる人もいる。
「それギターかい?」と声をかけてきたおじさんは僕にパンとジュースをくれた。
「Facebookやってる?」と話しかけてくれた女のコはしらばく僕の演奏を聴いていてくれた。どっちかっていうと素通りする人の方が多いからその場で聴いてくれる人がいるとちょっとは恥ずかしい。でもありがとう♪
外で歌うのはどうにもテンションがあがらなかった僕は、ブスブスと不完全燃焼のままエレバン駅の地下道でギターを構えた。こういう風に雨風をしのげて唄える場所がありがたかった。
15分ほど唄っていると、おっちゃんから声がかかった。英語は全く喋れず、手でバッテンを作り「ここではやるな」みたいなジェスチャーをしている。そして「ついて来い」と言う。
あぁ、もしかしてお説教かな~…隙を見てトンズラかまそう。
「ここで唄ってくれ」と案内されたのは同じく地下通路内の花屋さんの前。
時々暇な店員さんがこういうふうにお店の前で唄ってよとお願いしてくる時がある。そう言う時はだいたい2~3曲で「もういいよ」と言われてしまうんだけど笑。花屋の周りにおっちゃん以外にも何人かの人がいた。妙にテンションが上がっていて、僕が唄っていてもキャッキャと笑っている。からかわれてんのかなぁ?まぁ、いいさ。
そんなこともお構いなしに僕が淡々と唄っていると、演奏中にも関わらずおっちゃんが絡んでくる。
「今日コイツがバースデーなんだ。ハッピーバースデーを唄ってくれ!」
「あぁなるほどね!」
でも、僕、バースデーソングなんて唄えないよ。
コードもよくわからないけど、デタラメにそれらしいコードで弾いていたらそこそこにウケた。
ギターケースに放り込まれる1,000ドラム札2枚と一本のバラ。
ちょっ…、おっちゃん、気前よすぎるよっ!
思わず涙が出そうになる。
「さあさあ!おれたちと一緒にメシを喰おう!」
「えっ?あっ?」
言われるがままに花屋さんの中に案内される僕。
営業終了した花屋さんにはバースデーを祝うご家族たちがテーブルを囲んでいた。
テーブルの上にはパンや骨つきの分厚い肉やお酒が並んでいた。
「ほら、座って!」と椅子を用意される。
「ほら!食べて食べて!」
「あっ、あざっす…!!」
渡されるパンと肉。
「ほら!飲んで飲んで!」
「あっ、あざー…これなんすか?」
「ウォッカだ」
僕はお酒が弱い。ここで「うひょーーーいっっっ!」ってショットグラスをあおることもできるけど、それじゃあ今日の日記は書けなくなってしまうだろう。でも、ここで口をつけないのは失礼…。演技力が求められるシチュエーションだ。
「クイっ」とグラスを傾け、ほんの少しだけ口に含む。か、かれぇ~~~~…。
「う”っ…!!!なんすか!!??めっちゃ辛いじゃないですか!」
オーバーリアクションで、お酒が全然飲めないことをアピールする。爆笑するアルセさん(おっちゃんの名前だ)。
ことあるごとに、おっちゃん同士「かんぱーい!」ってなかんじで陽気にショットグラスをぶつけあう。それにつき合う奥さんたち。今日はアルセさんの奥さんの誕生日みたいだ。その後も、適度にお酒をかわしつつ、楽しいひと時は過ぎた。
まさか、最後の最後でこんな楽しいイベントが待っているだなんて。
幸せな気分に浸りながら僕は宿に戻った。
現在、自作キャンピングカー「モバイルハウス」で日本を旅しながら漫画製作を続けております。 サポートしていただけると僕とマトリョーシカさん(彼女)の食事がちょっとだけ豊かになります。 Kindleでも漫画を販売しておりますのでどうぞそちらもよろしくお願いします。