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「僕は朝の6時から歩き出す in ジョージア」

世界一周339日目(6/3)

鳥が鳴き始めた。

腕時計を見ると5時前。

ここはグルジア、ウシュグリの村にある
復讐の塔の内部。

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僕は昨日、外で寝ようとしたら
雨に降られここに逃げ込んできたのだ。

外はほんのりと藍色がかったっていた。

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僕は生乾きのサブバッグの中身を
圧縮袋の予備に入れて、濡れたサブバッグにつっこんだ。

濡れたジーンズやスイムタオルも同じようにして
圧縮袋の予備に畳んでいれた。

湿気をたっぷりと吸い込んだ寝袋を
なんとか収納し、ブルーシートを畳んでビニール袋に入れた。

荷物を全て持って外に出ると、雨は止んでいなかった。


そう言えばサブバッグのレインカバーを
昨日設営場所から撤退した時に落としたんだった。

ベトナムのハノイで6ドルで買った
ノースフェイスのパチもののレインカバー。
防水せいはほとんどないけど、
あるとないとでは全然違う。
ここまで旅してきた仲間じゃないか。

探しにいこう。


雨が冷たい風に乗って
僕の顔に叩き付けられた。

外は一面白く曇り、吐く息が白い。

おれは一体なんでったって
こんな修行じみたことをやってるんだ??!!

ウシュグリは天候に左右されると
情報収集をしたブログに書いてあった。

まさにその通りだ。
だが、これほヒドイ天気はないんじゃないか??


風は強かった。

サブバッグのレインカバーなんて吹き飛ばされてしまうだろう。

設営場所まで引き返したが、
レインカバーの姿は見当たらない。

やっぱりダメだったか…。

諦めかけて道を引き返したその時、

あった…!

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「うわ~~~!
あったよ!あった!
お前を捜してたんだよ!」

ついつい声が出てしまう。

雨でぐっしょりした黒いレインカバーは
力なく道の途中で僕に拾われるのを待っていてくれた。

「またよろしくな!」

サブバッグのペットボトルホルダーに
はずれないように結びつけて僕は村に向かって歩いた。

朝から牛を放すおっちゃんを見かけた。

おっちゃんはこんな雨の中を歩く僕の姿を見て、
驚いた顔をしていた。

僕は力なくおっちゃんに笑いかけた。
おっちゃんも大変だよね。
こんな雨の中で仕事だなんてさ。



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「グッモーニン。
メスティアまで帰りたいんだけど、
マルシェとかってあるのかな?」

「マルシェ?8~9時だな。10ラリだよ」

とジェスチャーで僕に教えてくれる。
そうか。メスティアまでだったらマルシェに乗れるんだな。

時刻は6時。あと2時間以上も待っていられない。
こんな朝早くからどこもお店なんてやってないし、
じっとしていると体温が下がる。

僕はメスティアまでの道のりを歩くしかできなかった。

幸いにも雨脚は次第に弱まっていった。
またどこかでヒッチハイクできるだろう。

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自分の体が思っていたよりも丈夫だなと
関心せずにはいられなかった。

一晩凍えて一睡もしなかったっていうのに、
体調の悪さは感じない。

こういう時は母親に感謝すべきかもしれないな。
丈夫に生んでくれてありがとう。

二日前にロザさんの家でしこたま
ご飯を食べたのもよかったのかもしれない。
エネルギーが蓄積されてたんだろう。

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帰りの道のりは景色を楽しむ余裕があった。

低い場所を雲が流れ、山にかかっていた。

むき出しの岸壁は僕を圧倒した。

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わき水は上の方から流れ、
そこを越えた時、僕に冒険心を与えた。

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眼下に流れる川は濁流で覗き込むと僕を畏れさせた。

2時間半くらいぶっ通しであるき続け、
景色が変わるごとに前に進めている実感を僕に与えてくれた。

前からやってきた欧米人のチャリダーの姿を見て
僕は思わず手を振った。

こんな道のりを一人で進む彼に
仲間意識のようなものが湧いた。

「やぁ、ウシュグリ行くんだろ?
僕は朝の6時から歩き始めて
2時間半かかったんだ」

「そうかい。
そっちはメスティアだろ?
あと25kmだ。がんばれよ」
徒歩と自転車じゃ距離の目安とまでは行かないが、
どれくらの時間がかかるかそんな会話を交わした。

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ウシュグリからメスティアまで46km。

ということは僕は11km歩いてきたんだな。
その25kmが僕に勇気をくれた。

けっして辿り着けない距離じゃない。
時刻は9時前。まだまだ時間はある。

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途中にある売店で
おばあちゃんに呼び止められ、
僕はそこで休憩することにした。

おばあちゃんもお客を呼び込むのに成功して
上機嫌なようだった。
ハチャプリと紅茶で朝食を済ませた。

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しばらく歩くと
やっと後ろから車がやって来た。

マルシェルートカだったが
条件反射のようなもので自然と親指をあげてしまった。

運転手に値段を訊くと10ラリだと言う。
ウシュグリから出発するのと同じ料金だ。一律なのかぁ。

「じゃあいいや」と言うと
マルシェは走り出したが。すぐに停車して僕を呼び込んだ。

乗客は一人もいない。
向こうも1ラリでも多くお金を稼ぎたいのだろう。

「10ラリだったら乗らないよ。悪いね」
と僕が言うと、
ドライバーは「わかったわかった」と
ジェスチャーし僕を乗せてくれた。

そこからドライバーと会話することなく、
僕は生暖かい車内で目を閉じた。

左に座っているのはガタイのいいお兄さんだったが
BGMはクラシックのような心地よい音楽だった。

しばらくして目を開ける。

僕の歩くはずだった25kmがいかに
長い距離であったかが分かった。

これはお金払った方がいいな。
もともと払うつもりだったけどー、3~5ラリでいいかな?

メスティアに到着したのは12時半。

運転手の細かいお金がなかったので
お兄さんに10ラリ札を渡して、
「途中まで歩いてきたんだからまけてくれないか?」
と言うと、

お兄さんは「こっちも手持ちがないんだ」と
運転手が使う見え透いた嘘で僕を煙にまいた。

まぁいいさ。

あの「わかったわかった!」っていうサインは
なんだったんだろうと思わなくもないが、
そこまでしつこく食い下がる様なことはしなかった。



荷物を預かってもらった
ロザさんの宿に僕は戻った。

パンを買ってきて、ロザさんにハチミツをいただいた。

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ロザさんは「よかったらスープも飲む?」と
パクチーの効いた温かいスープを僕に振る舞ってくれた。

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ここで出会ったカナダ人のカップルが
僕に「もう戻ってきたの?!」と少し驚いていた。

彼らは僕がハイキングオンリーで
ウシュグリに行ったと思っている。

「ああ、ヒッチハイクが
うまくいったんだよ」

「あぁそうなの。そうよね」

そうだ。46kmも歩き通すなんて
タフもいいとこだ。とりわけ雨の中ではね。

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部屋は満室で離れの別棟に僕は案内された。

別棟は娘さんだか息子さんだかのご夫婦が
一組くらしている家だった。

5歳くらいの娘さんはどこか障害のある女のコだった。
ずっと足でリズムを刻んで
言葉にならない何かをずっと言っていた。

僕はバックパック、サブバッグの荷物を
全て部屋に広げて、ロザさんに洗濯機をお借りして、
雨水をたっぷり吸い込んだ衣類やら寝袋やらを洗濯した。

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明日にはここを出たい。バトゥミに行こう。

ベッドの上で昼寝をし、
洗濯物を宿の暖房器具に乗せて乾かした。
日記も書きたまっていたし、
僕としてはここで一気に日記を書いてしまいたかった。

疲れ切った心を元気にさせるために
パソコンに入れた古いドラマを2話分観て、
僕は日記の下書きをした。

そして夜中の3時にベッドに入った。

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現在、自作キャンピングカー「モバイルハウス」で日本を旅しながら漫画製作を続けております。 サポートしていただけると僕とマトリョーシカさん(彼女)の食事がちょっとだけ豊かになります。 Kindleでも漫画を販売しておりますのでどうぞそちらもよろしくお願いします。