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「歴史の上に花が咲くよ」

世界一周72日目(9/8)

前日、キリングフィールドに連れて行ってくれると約束を取り付けたヴァンタンと宿の前で待ち合わせをしていた。

宿の外に出てみると、そこには似た様なバイタクのおっちゃんたちが待ち構えていた。僕は危うく違うおっちゃんに着いていきそうになった。

えっと…、ヴァンタンはエラのところに変な髭が生えているはずなんだけどな。

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どういうわけだかここら辺のおっちゃんたちはみんな変なところ(主にエラ近辺)に「副髭」とでも言うのだろうか?特殊な毛を生やしているのだ。

約束通り9時にやって来たヴァンタンに念のためもう一度値段を確認すると「キリングフィールドは遠いんだよ。しかもトゥクトゥクだからな。片道5ドル。往復10ドルだ。」なんて言い始めた。これだからバイタクは信用できない。ていうかバイクじゃないのかよ!

「あっそう。じゃあ乗らないよ。他のドライバー探すから!」とこっちも強気に出ると、ヴァンタンは普通のバイクなら往復5ドルで大丈夫だと兄弟(?)のバイタクを紹介してくれた。

ここまでの旅で何度か痛い目を見ている僕はいくらか強気になっていた。日本みたいな気遣いをしたら舐めてかかられる。言った言わないの確認はしつこいくらいがちょうどいい。

オンボロのHONDAのバイクの後ろにまたがってプノンペンの街を出発した。

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バイクを走らせること20分。連れて来てもらったのは自然公園のような場所だった。

「これがキリングフィールド?」

殺伐とした原っぱみたいな場所を想像していたが、そこにあったのは静かな公園のような場所だった。
「じゃあおれはここら辺で待ってるから」とヴァンタン(兄)はどっかに消えた。

僕は6ドルのチケットを支払って日本語の音声ガイドを借りた。物静かな男性のナレーションが入りキリングフィールド内の案内標識に書かれた番号をプッシュすると説明の音声が流れるしくみだ。そこから聞こえてくるのは淡々とした説明だったが、昨日行ったトゥール・スレーン博物館同様大量虐殺の生々しさが伝わってきた。

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キリングフィールドってさ、ここひとつだけではないということも初めて知った。

カンボジア各地に300ものキリングフィールドがあってチュンエク村という場所が歴史を語るための施設となっている。多くの人がこの場所を訪れその想像を絶するような歴史を目の当たりにして様々な感想を持つんだろう。

僕がこの場所に来て一番印象深かったのは過去と現在の対比だった。

ヘッドホンから流れてくるおぞましい史実とは裏腹に今のキリングフィールドはほんとうに静かな場所なのだ。天気さえよければ芝生の上に座ってランチを食べている家族がいるんじゃないかっていうくらいに。

管理が行き届いているのだろう。草花が生い茂り、おとなしそうな野良犬が目の前を横切る。草をついばむ鶏の親子の姿が見えた。施設の向こうには池が広がっており、池に浮く水草を眺めていると少しのどかな気持ちになった。

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ガイドの音声と展示される被害者たちの遺品がなければここは気持ちのいい公園になっていたかもしれない。キリングフィールドに広がる自然に触れ、かつて犯した人間の過ちを広大な自然が癒してくれるようなそんな気がした。

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それでもここを負の遺産たらしめているのは、キリングフィールドの中心に大きな慰霊塔があるからだろう。

数十年前に自分の意思とは関係くこの世を去っていかねばならなかった人間たちのぬけがらが何かを語りかけているように思えた。

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「歴史を忘れるな」そんな言葉が頭に浮かんだ。

僕らは過ちを犯す。人間の歴史は失敗の連続だ。きっと現在進行形で何らかの失敗を重ねているかもしれない。

だが、失敗から学び前へ進むことができる。

今でも争いはなくならないが歴史を学び同じことは繰り返されないことを肝に銘じ、平和を願う倫理観に従って自分のできる範囲から行動を起こすこともできるはずだ。

自分の旅は正しい道を辿って来ただろうか?

それは分からない。

大事なのは平和を願う心だ。

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現在、自作キャンピングカー「モバイルハウス」で日本を旅しながら漫画製作を続けております。 サポートしていただけると僕とマトリョーシカさん(彼女)の食事がちょっとだけ豊かになります。 Kindleでも漫画を販売しておりますのでどうぞそちらもよろしくお願いします。