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旅とレピドライト
2020年7月11日 16:17
桜日和子は気が立っていた。 特にこれと言った理由はなく、様々あるその小さな一つ一つも、つまみ上げてよく見て、ようやく名前が分かる程度のものであった。セットしていたはずの目覚まし時計が鳴らなかったり、焼いていた目玉焼きを焦がしてしまったり、それを妹に「すごいね」と茶化されたり、いつもより一本遅い電車が満員だったり、そもそも夏を目前にしてかなり暑かったり、そんな程度のものだった。「おー、おはよう
2020年5月6日 20:54
光一つも射さない暗がりで、男が喋った。逃げ場所のないそこでは、声はとてもよく響いた。 「今日も、いい具合だった。完璧に、敷地の外に煤の一欠片も出さないで燃やしてやったよ」 「…………」 「なんだなんだ? 黙りこくって。完璧な仕事ぶりに嫉妬したか?」 男は上機嫌であった。子供が自慢するみたいな口ぶりで話している。ライターを取り出して、タバコに火をつけ始めた。 今日は特に完璧だった。男はそ