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045.優秀な観光ガイド

真名哲也

2002.12.24
【連載小説45/260】


この島に来るまで、僕は各地を転々と取材する旅の生活を重ねていた。
そして、そこで獲得する知識の質量、さらには旅先の日々が有意義であるか否かは、全て出会うガイド達次第だったといえる。

言葉の全く通じない島で、生死の境目のごとき危険地帯で、数メートル先の視界さえ不確かな密林の地で…、優秀なガイドの存在が僕に希少な体験と優れた創作モチーフを与えてくれてきた。

ガイドはまず、その地のあらゆる分野にわたる情報に精通していなければならない。
相手が僕のような文筆業を営む者やジャーナリストの場合、望む情報は表層的なものに留まらないから、特にガイドのクオリティが問われることになる。

加えて、ガイドというのは全面的信頼を得ながらもクライアントに介入し過ぎず、でしゃばらずといった人間関係の間合いのようなものを心得ていなければならないから、知識に先行する人的コミュニケーション能力が求められる。

つまりは、ガイドとは旅人にとってコンパスなのだ。
正確であることはもちろんのこと、負担なき適度な存在感が求められるということ。

で、トランスアイランドの観光ガイドである。
ここには、既に優秀なガイドが存在する。
そう、「nesia」だ。
(詳細は第5話)

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トランスアイランドへの観光は、現在、ハワイからの飛行艇の直行便のみで展開されている。
ツアーは事前申込制で、この島プロジェクトのコンセプトへの共感が前提となり、テクノロジーと自然が共存可能な人類の未来を夢見る人々のみが来島することになっている。

よって、通常の南国オプションツアーのような、ある意味でお気楽な物見遊山気分のツーリストは皆無で、各種分野の研究者やエコロジストなど熱心な旅人が多い。

そんな彼らの優秀なガイドとして活躍しているのが、島の専用携帯端末「nesia」だ。
全ての来島者は、到着後すぐに出迎えたコミッティメンバーから、滞在時間内の専属ガイドとして、一台ずつ「nesia」のツーリスト・ヴァージョンを受け取る。
(島民の所有する「nesia」はアイランダー・ヴァージョンで、主に生活支援系ソフトがバンドルされている。)

「nesia」を手にしたツーリストは、まず導入画面に表示されるアンケートにタップ操作で答えていくことで、志向別にいくつかの周遊プランが提示されることになる。
このプランにそって、滞在者は未来研究所や環境博物館、ギャラリーなどの施設を核に、島の自然や住民達と交流できるスポットを行き来することが可能になるわけだ。

また、「nesia」にはGPS機能が内蔵されているから、利用者は音声ガイドにしたがって目的地を目指すことができるし、足の不自由なツーリストはソーラーエネルギーで走る無人タクシーを利用して、車載クレードルに「nesia」をシンクさせるだけで自動誘導してもらうこともできる。

もちろん、ナビゲーション機能だけではない。
各種施設はローインパクト運営を基本としているから、現地での解説は全て「nesia」に委ねられていて、様々な展示資料の詳細解説は言語別の文字情報と音声解説を選んで入手することができる。
加えて、コミッティのホストコンピュータのAIプログラムに無線で常時接続された「nesia」は、ツーリストの各種質問に対しても、かなりのレベルで答えることが可能となっており好評だ。

ところで、気になるのが、この「nesia」上の観光オペレーションシステムのリソースとしてのデータベースではないだろうか?
そこを解説しておこう。

実は、このシステムは全てエージェントの活動と直結しているのだ。

太平洋上の島嶼国家群におけるトランスアイランドの位置づけや、地理学的特性、文化人類学的アプローチは全て海野航氏の豊富な研究データ。

島の自然や動植物に関するビジュアル性豊かな解説と、地球レベルでの環境問題との関係はナタリーのデータ。

テクノロジーと自然の融合を目指す斬新なプログラムはスタンのディレクションにより構築されたもの。

そして、島へのツーリスト誘致を含めたトータルオペレーションはボブの仕事の成果といった具合である。

ちなみに、僕が島への思いをまとめた雑文や詩も情操系のプログラムで活用されている。
島東部の散策用ヒーリングBGMのオプションプログラムで聞くことができるはずだ。
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「nesia」の観光ガイドとしての優秀な要素を列記しておこう。

ローインパクトであること。
優れた携帯性。
情報更新性が高いこと。
インタラクティブであること。
バリアフリーの実現。

どうだろう?
「nesia」は、現代に求められる各種のキーワードを包含しながら、さらなる進化の可能性を柔軟に持つ一種の知的コンパスだ。

そして、島を訪れてこの優秀なガイドを手にした人は、もうひとつの重要な要素に気付くはずだ。
そう、「nesia」の存在自体が人類を未来へとナビゲートするガイド、若しくは羅針盤の役割をも果たしているということを。

------ To be continued ------


※この作品はネット小説として20年前にアップされたものです。

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【回顧録】

この作品を執筆し続けた2002年からの5年間はスマートフォンの概念が実現化に向かう黎明期で「iPhone」登場前です。

マイクロソフト社のオフィシャルコンテンツとしてスタートしたプロジェクトで立ち上げき期は関係者と様々な議論を行いました。

SDGs思考の現在で言えば、目指す未来を固定してそこから逆算して為すべき今を模索する「バックキャスト」のアプローチですが、当時としては異例の創作活動だったと思います。

20年前の自分は「nesia」というガジェットの背景にAI活用プログラムを考えていたのだ…
と不思議な感覚で更新しました。
/江藤誠晃




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