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note28: ヤンゴン(2011.5.29)

【連載小説 28/100】

Uncle Tomいわく「見ると聞くとは大違い」を感じるのがミャンマーの旅になるとのことだった。

人の話やメディアから入手する情報と実際に現地を見ての体験では大きな相違があるということだが、ヤンゴンに到着してからは驚きの連続である。

まずはヤンゴン国際空港。
途上国に見られる混沌とした雰囲気を予想して入国したが、ガラス張りのモダンな空港はすっきりしていて、観光客は少ないといいながらホスピタリティ度の高い観光立国を思わせる玄関口だった。

次に迎えてくれたUncle Tomの友人であるガイドのミンさんの車に乗って向かったヤンゴン市内。
往復6車線の幹線道路には車が溢れ、モータリゼーションはかなり進んでいる。
ほとんどの車が日本の中古車という途上国ではよく見る光景だが、たまにベンツやBMWなどの高級車も見かける。

整然と車が走る市街を見ていてバイクや原付が一台も走っていないことに気付き、ミンさんに聞くとヤンゴン市内では二輪車が禁止されたそうだ。
バイクのけたたましい騒音に包まれていたベトナム、カンボジアからやってくるとヤンゴンの街は洗練されて見える。

次に到着したホテル。
ヤンゴン滞在の拠点として選んだのは伝統的なパゴダ(仏塔)の様式を取り込みながらもモダンな外観の「セドナホテル・ヤンゴン」。
絵画や彫刻が飾られるパブリックスペースはゆったりして、中庭には大きなバーを備えたプールやテニスコート。
客室もスイートからシングルまで366ルームと豊富で室内設備も充実している。

特記しておきたいのがレストラン。
世界各国の料理が楽しめるよう館内には数々のレストランが並んでいるのだが、そのレベルが高い。
各国を旅してきた僕のホテル評価基準はレストラン、それも中華とイタリアンの味をポイントにしているのだが、セドナホテルは共に合格ラインをクリアしていて、特にイタリアンで食べた石釜で焼くピッツァが美味だったことを報告しておく。

と、ここまでのレポートを読んだら、大抵の読者はこう驚いているはずだ。

「それって、テレビや新聞で時々見聞きする、あのミャンマー?」


これほど情報が溢れた時代にあっても「見ると聞くとは大違い」なことは多々ある。

むしろ情報が多すぎるために、僕たちが得る知識が極めて一面的、表層的なものになっていると考えたほうがいいのかもしれない。

例えば「人」がそうではないか。
外見や周囲の評価で「こんな人物だろう」と決めつけていても、何かの縁で付き合いが深まることで全くイメージが変わってしまう、といった経験は誰にでもあるだろう。

国家もまたそうなのだ。
実際にそこを旅して、見聞きしてはじめて理解できる実像というものがある。

ミャンマーの旅ははじまったばかりだが、この「見ると聞くとは大違い」を楽しむことをテーマにしてみようと考えている。

そして、出来ればそのギャップが生まれる背景についても考察してみたい。

バンコクを旅立つ前にミャンマー訪問をメールで連絡したところ、Uncle Tomからのリターンにこう記されていた。

「遠からず君はミャンマーへ行くと見ていたよ。君なら、絶対にミャンマーにはまるはずだ」

どうやら僕は彼の術中にはまっているようだ。

ガイドのミンさんと相談して、今後の行程を【インレー湖→マンダレー→バガン→ヤンゴン】と決めたが、旅行作家ながらこれほどの期待感と興奮を持って旅するのは久しぶりである。



>> to be continued

※この作品はネット小説として2011年5月29日にアップされたものです。

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