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note64: ニューヨーク(2011.9.19)

【連載小説 64/100】

マンハッタンから地下鉄に乗ってEAST TRIMONT AVE.駅で下車、徒歩5分でブロンクス動物園に到着する。

ビジネス街ニューヨークに動物園と記せば意外に思われる人が多いかもしれないが、このブロンクス動物園はロンドン動物園に次いで世界第2位の規模をほこる動物園なのだ。

1899年の開園で1世紀以上の歴史を持ち、広大な敷地は265エーカー。
園内はサバンナやジャングルなど生態系別にゾーニングされ、動物個体数は4000頭に及ぶという。
加えて子供向け動物園や4Dシアター、園内を走るシャトルなどのエンターテインメント性の高い要素も整備され、1日で全てを体験することなど到底できない充実した動物園なのである。

そして、ブロンクス動物園を語る上で外せないのが運営母体であるWCS(野生生物保護協会)の存在だ。

Wild-Life
Conservation
Society
の頭文字をとったWCSの歴史は古く、前身となるニューヨーク動物学会の誕生はブロンクス動物園開園の4年前にあたる1895年で、ブロンクスを本部に世界中の野生動物や原生自然を守る活動拠点を世界50カ国以上に広げ、今では数百単位の調査活動や保護活動を展開している。

ちなみにWCSはブロンクス動物園の他、ニューヨーク水族館・セントラルパーク野生生物センター・クィーンズ公園・プロスペクト公園の4施設をニューヨークで運営している。

と、初めてブロンクス動物園を訪れた僕が詳しい解説を記すのには訳がある。

実は2004年にマレーシアの熱帯雨林保護活動を取材したことがあって、その際にWCSの国際自然保護プログラムについて関係者にインタビューしたことがあるのである。

今でもはっきりと覚えているが、そこで僕は1980年に国際自然保護連合(IUCN)が発表した「世界環境保全戦略」に示された動物園の担うべき役割を知り、深く感銘を受けた。
そこには「野生動物の繁殖」と「環境教育」の2点が動物園に与えられたミッションであると定義されていた。

つまり、かつては「見世物小屋」として営利が優先され、ともすれば動物虐待や絶滅危機に加担する立場にあった動物園が31年前に自然保護や環境問題解決の側に軸足を移し“文明と自然の共生”を推進する役割を担ってきたのであり、その先頭を走ってきたのがWCSなのである。

ということで、WCS関連施設を巡ることは今回のニューヨーク訪問における僕の大きな目的だった。
今日、ブロンクス動物園を一通り見て回ったが、当然のごとく全てを見ることはできなかったので、滞在中に再度1日かけて訪れるつもりだ。

そういえば4月にシンガポール動物園&ナイト・サファリを訪れた際に[note15]で僕の持論である“地球ZOO”について記した。

「21世紀における動物園は檻や塀の中に再現する見せかけの自然を“観察”する場所ではなく、文明という少し窮屈な檻から自らを解放し自然の中へ分け入って地球を“体感”できる空間であるべきだ」という考え方だったが、これは2004年の仕事にインスパイアされてのものだったと言っていい。

長い旅は、常に“気付き”を与えてくれる。

マンハッタンの摩天楼の中にいても、目を閉じれば旅してきたボルネオのジャングルやアフリカのサバンナを脳裏に浮かべることができ、雑踏の喧噪の中に野生動物の遠吠えや息づかいを思い出すことができる。

遠く離れていても文明と自然は共に地球にあるのだ。


>> to be continued

※この作品はネット小説として2011年9月19日にアップされたものです。

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