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081.再び島から見る文明

2003.9.2
【連載小説81/260】


夜明けの気配に目を覚まし、小さな小屋の前にイージーチェアを持ち出す。

濃厚な香りのコナコーヒーを入れたマグカップを片手に、朝焼けに光る波を見つめ、寄せる波の音に聞き入る。

旅の日々が異質な時間と空間の中に自らを置き続ける緊張の営みであったなら、島の日々は周囲の自然に自らを同化させる弛緩の時。

旅が長かった分、戻った島で開放する心身の快適さは格別だ。

しばらくすると、眠りから覚めて活性する僕のリズムが自然のリズムに追いついてくる。

取り出したノートPCを膝の上に置き、キーボードに指をのせると、脳裏に浮かぶ言葉たちが、指先まで降りてきて、リズミカルなキータッチと共に文章化され、ディスプレイに姿を現す…

そう、貴方が今、目にしているこの文面。

久しぶりにトランスアイランドへ戻った『儚き島』をお届けしよう。

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静かな朝の時間とは打って変わって、帰島以来、昼間は多忙である。

忙しいといっても、仕事に追われているのではない。

仕事ができないほどプライベートライフが賑やかなのである。

たまたま島に戻ってきた日が第7回のクロスミーティングの開催日で、「外から見るトランスアイランド」なるテーマだったものだから、飛び入り的な基調講演の機会をコミッティから求められた。

そこで話したあれこれが影響してか、その後毎日のようにたくさんの島民が訪ねてきてくれる。
(クロスミーティングについては第57話

僕自身が会話好き、議論好きなものだから、あれこれと話に花が咲く。

さらに来客が重なると、話の輪が広がって、宴会のような時間が夜まで続く。

旅から戻った者の優越感のような気分もあって、結構この多忙さを楽しんでいる。

で、どんな話題で盛り上がっているか?

大きく3種類に分かれる来客層を順に紹介しよう。

まずは、開拓期から島の時間を共有してきた旧知の友人たち。

トランスプロジェクトのコンセプトに深い部分で共感し、外地に出ること少なく島の生活を重ねてきた彼らにとって、僕の客観観察はおおいに興味深いらしい。

「文明と自然はどこまで融合可能か?」

「トランスアイランドは、外部から見て持続可能なモデルか?」

「再び過剰文明に浸る中に、帰巣誘惑はなかったか?」

等々、根源的なテーマによる議論が繰り返されている。

次が、新たに島民となった人々の訪問。

5月に僕が島を発ってから、新たに島民に加わった人がひとりふたりと挨拶を兼ねて訪ねてくれるのだ。

おもしろいのは、そこに女性が目立つこと。

開島時に比べて女性比率が増えたといってもまだまだ23.4%なのだが、2年目に入ってからの入植者だけを抽出すればその比率は40%を超えている。

小さなコミュニティの成熟に求められるバランス上、女性比率の増加は島の大きな命題であったからこれは歓迎すべきことである。

実際何人かの女性と話してみると、とても楽しく、刺激を受けると同時に勇気付けられた。
個々が未来に確かな夢を持ち、自立した女性たちだったからだ。

最後は、この『儚き島』を愛読してくれる人々。

旅立つ前も、毎週手記がアップされると、その時々のテーマに応じて、様々な人が僕を訪ねてきてくれていたが、今はそれが3ヶ月分集中した状態なのだ。

特に読者の興味を集めたのは、竹富島とカムナプロジェクトのようだ。

前者は、八重山諸島を訪ねた経験のある人の思い出話から、民謡や祭りに関する知識交換、琉球の歴史考察…とテーマが多岐にわたり、改めて同エリアの魅力とファンの潜在性を思い知らされた。

後者に関しては島を挙げて取り組むマーシャルとの環境プログラムTWC参加者に大きなインパクトを与えたようだ。

珊瑚礁へとアクセスするエコロジカルな海上移動手段として葦船が注目されたのはもちろん、島のコンセプトワードでもある「BLUEISM」に通じるプロジェクトとして興味津々なのである。

さて、今日も特に約束はないが、朝のひとときが一段落したら、きっと誰かが訪ねてくるだろう。
忙しくなる昼の時間が楽しみな朝のコーヒータイムである。

PS.当分は島に留まってのんびり過ごすつもりだし、どんな会話や議論も僕の創作にとっては大きな糧となるから、この手記を読んでの訪問は大歓迎だ。

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この島の住民になって1年半が過ぎた。

長旅に出る前の段階でも、文明から距離を置いてみたことで、それまで見えなかったものがよく見えるようになっていた。

が、今回主観から客観に身を置き直す旅に出て再び島へ戻ったことで、さらに高きところから文明観察が可能になったとの確かな感触を得ている。

多分、「島」と「旅」、「定住」と「放浪」の日々を重ねることで、見える世界は大きく深く変わっていく。

今度は、再びこの島から文明をじっくり観察することにしよう。

こうやって朝の浜辺で眼前の景色に精神を委ね、波打ち際から遥か先の水平線までを感じるように。

------ To be continued ------


※この作品はネット小説として20年前にアップされたものです。

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【回顧録】

『儚き島』という連載小説は20話をひとつのユニットとして物語を重ねながら、主人公の真名哲也が生きる架空の島の生活と現実社会の時事をシンクロさせていくかなり構造的な仕組みを持っていました。

週刊連載の20話は約5ヶ月なので、かなり先の着地点を見据えながら編集していく作業だった訳ですが、4つのユニットを終えたこのあたりから、その後の創作が結構リズムに乗った記憶があります。

コンパスポイントとでもいうべき物語のハブが空間的には南洋の小さな島で、そこを起点にユニットごとに行動半径としての距離を変化させながら全編モノローグの作品にリズムを付けた感じです。

ロケットに例えるなら、打ち上げた後に宇宙空間に達した時点で衛星を切り離し、軌道に乗って自走し続ける感じ…
なにやら無重力空間の創作活動のような気分を味わいながら260話の旅を続けることになりました。
/江藤誠晃



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