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057.未来を語る円卓会議

2003.3.18
【連載小説57/260】


オプショナルツアー(5)

コミッティハウスに入ったことのある島民はどれくらいいるだろう?
島民登録やその更新作業、各種提言の窓口といったところが島民向けのサービスとしてあるが、全てはネットワーク上でも対応可能だから、足を運んだことのない人も多数いるのではないだろうか。

島政の中枢にして、諸外国との連携窓口。
機会があれば、是非、トランスプロジェクトに関する多くを担っているこの建物を訪ねてみるといい。
スタッフの面々は皆とてもフランクだし、各種の興味深い資料を閲覧することも可能だ。

そんなコミッティハウスで行われるオプショナルツアーが開始されている。
「クロスミーティング」と呼ばれるのがそれだ。

島民とツーリストが一堂に会して、この島、さらにはグローバルレベルでの豊かな未来を議論し合おうというのが目的で、その第1回が2月に開催された。

特にテーマは定めずに参加者をネットで募ったところ、島へのリピーターを中心に10名の定員が即予約で埋まったことから、今後は事前にテーマを告知しながら月1回ペースで続行していく予定だという。

第1回は僕も参加したので、その概略を報告しておこう。

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クロスミーティングはコミッティハウスにひとつだけある会議室の円卓で開催されるが、注目すべきがそのユニークなテーブルだ。
円卓とはいうものの、それはいびつな形をしていて、実はトランスアイランドを上空から見たままの島形なのである。

会議参加者は、島民についてはそれぞれの住むエリアの付近に席を取り、オプショナル参加のツーリストもそれぞれの志向に応じて、テクノロジー・文学・アート・環境の4テーマ村の近くに着席してもらう。

このスタイルでのミーティングの有効性は、各ヴィレッジが明確なテーマを持っているから、会合におけるグルーピングがあらかじめなされていることになり、議事も東西、南北の2軸と4つのテーマから合理的に進行可能なのだ。
(トランスアイランドのコンセプト設計にも通じる2軸に関する解説は、第21話に記した)

加えて、このテーブルは複合モニターシステムを内蔵していて、各着席者の眼前に個別モニターが現れる他、ジオラマチャンネルに切り替えることで、島の道路や建造物、植生などを関連データと共に俯瞰して見せることも可能なのである。

さて、第1回のクロスミーティングだが、ツーリストも参加可能な最初の島政会議ということもあり、内外の人的交流活動としての観光について「楽園の可能性」をテーマに半日に及ぶ意見交換を行った。
(『儚き島』第41話のタイトルと同じだが、これは僕がコミッティにお願いするかたちで実現してもらった)

10名の参加ツーリストとコミッティメンバー、全エージェントによるミーティングは充実した内容で、島の運営上大いに役立つ意見も数多く出た。
今週行われる第2回も継続して同テーマで開催されることになっている。
詳しい中身に関しては、改めてこの手記を通じて報告することにしよう。

ところで、インドアにおける会議など、本来であれば「楽園」と対極にあるアクティビティである。
が、この島は住む人も訪れる人も、元来議論が好きな人たちなのだろう。
所定の時間は瞬く間に過ぎ、参加者全員が充実感とともにプログラムを終えることができたようだ。

文明から離れた南の島で、人類の未来を大いに語り合う…
そんな時間がかえって「楽園」的であるのが不思議なところだ。

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円卓会議というスタイルは、この島の基本思想に通じている。
そこに、コーディネーターはいても、コンダクターはいない。
つまり、そこに文明国的なヒエラルキー構造はなく、集う者全てが平等な権利を持ってフラットに結ばれるのだ。

この1年、何度かのコミッティ会議に参加してきたが、当初の島政計画の中では、「テーマ別の会合を増やしていこうか?」とか、「島民が増えれば村別代表を選出しての横断会議が必要か?」等の議論がなされていた。

が、結果としてそれらは実現していない。
というよりは、その必要がなかったのだ。

島民は日々、それぞれの生活の中で近隣者と様々なことを語り合うし、ヴァーチャル版円卓会議として機能するウェブプログラムもある。

島民は200名強の規模だから、その中身はクチコミやBBSで自然と全体に浸透していくのである。
きっと、クロスミーティングの中身に関しても、早い段階で情報入手した人は少なからずいるはずだ。

フラクタル(Fractal)という概念がある。
「任意の一部が、全体と相似して存在する」というような意味だ。

コミッティハウスの島形のデスクと、島そのものはフラクタルだ。
そして、おそらく、特定メンバーによる議論の内容と、島のあちこちで日々交わされる会話の中身もフラクタルだ。

今日もトランスアイランドは穏やかで平和である。
いつかこの島と世界はフラクタルな関係性を持つに至るのだろうか?

------ To be continued ------


※この作品はネット小説として20年前にアップされたものです。

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【回顧録】

コーディネーターはいても、コンダクターはいないという会議進行システム。
20年前の僕の仕事は結構それで成り立っていました。

ところが今、僕が日々重ねる会合はそこにほど遠く、縦割り組織の弊害やメンバー間の意識差から思うように動かせないものが多いのが現実。
その理由は取り扱うプロジェクトの規模が大きくなってきたところにあります。

インターネットやSNSのテクノロジーが実現するのは、小規模コミュニティの分散型社会か中央集権的ヒエラルキー社会か?
そんな議論も結構行なってきましたが、まだまだ「質」より「量」重視の世の中傾向は強く、そのフラクタルとして僕の周囲も動いています。
/江藤誠晃


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