見出し画像

note81: クスコ(2011.11.8)

【連載小説 81/100】

「ナスカの地上絵」を見るためには“鳥の視点”が必要になる。

「世界遺産」は1972年のユネスコ総会で採択された「世界の文化遺産及び自然遺産の保護に関する条約」に基づく人類が共有すべき「顕著な普遍的価値」をもつ数々のスポットで、世界中から多くの観光客を集めている。

遺産の総数は今や1000に届くそうだが、基本的にそれらは全て人が地上で訪れて見学することができるものであるはず。
しかし「ナスカの地上絵」は、現地を訪れて広大な乾燥地を見ても意味はなく、
感動を得るには空へ飛ばなければならないのだ。

そこで一昨日、僕とATJ3人組の冒険隊はリマ発着のセスナ観光に参加した。

早朝にリマを出て4時間のバスドライブの後にセスナに搭乗しての観光はわずか1時間だったが、地上絵をライブに見る体験は貴重なもので、パイロットが「ハチドリ!」「サル!」「クモ!」と大声で地表の絵を示してくれるたびに男4人で奇声をあげて喜んだ。

ナスカの地上絵は1939年に米国の考古学者ポール・コソックによって発見され、その後ドイツ人の女性考古学者マリア・ライヒェがこの地に住み着いて解明作業を行った。
巨大な地上絵は紀元前2世紀から6世紀のものと推定されるが、誰が何のために描いたのかは謎のままだという。

中空からそれらを見た僕が思い出したのはポリネシアで見られる岩に描かれた「ペトログリフ」だ。

ペトログリフは文字を持たなかった南海の島々の先住民族が幾何学アートの象形文字を使って神話の世界を伝えた文化だが、「ナスカの地上絵」もまたラテンアメリカの先住民族によって何がしかの物語が表現されているのだろう。

さて、今回はラテンアメリカを共に旅するATJの学生たちを紹介することになっていた。

PASSPOT社からの10/26付けDice Roll ⑰メールに記されていたように、ロスからリマへ移動した僕の「SUGO6」の行程は現地に滞在するATJスタッフがコーディネートしてくれることになっていた。

こちらにつくと同時にiPhoneの「SUGO6」アプリで「check in!」して連絡を取り合い、出会った3人組は日本でソーシャルネットワークを活用して活動するインターカレッジサークル「WHハンター」のメンバー。

「WH」は「World Heritage=世界遺産」の略で、その狩人ということになるから“世界遺産ハンター”を意味する彼らの活動は「生涯をかけて世界遺産の全てを見て回る」という壮大なテーマだ。

今年の夏休みに立ち上げたサークルには既に100人を超える若者が登録し、世界遺産を訪ね歩く旅をシェアするfacebookアプリを公開すると同時に3人は5ヶ月間の旅に出たという。

来年3月の卒業までに主要な世界遺産を巡る世界一周の旅をこなし、社会人になったあとも計画的に残りの遺産を訪ね続けるライフワークを模索しているというからおもしろい。

そんな彼らのすごいところは“ハイテク武装冒険団”とでもいうべき装備と活動内容だ。

iPhone、iPadとGPSユニットを連携させて行く先々で撮影する写真や動画を次々とパソコンに取り込んではYouTubeやFlickrにアップロードし、facebookやtwitterで拡散させて多くのファンを獲得している。

冒険家であれトラベルライターであれ、かつてはその活動を旅から戻った後にまとめて“報告”したものだが、彼らの活動はライブアーティストのようなものである。

昨日からクスコに滞在しているが、かつての“インカ帝国の首都”でも精力的に活動を続けている。

メンバー自作の地図アプリにはGoogleマップが組み込まれ、これまでに巡ってきた北米の世界遺産とそれらに至る旅の途上の画像がGPSデータによって何百単位で落とし込まれているのを見せてもらったが、地図を拡大すれば1点1点をはっきり見える写真の数々が、縮小していくと幾何学的な模様に変化する。

“鳥の視点”で見れば、彼らの活動は「ナスカの地上絵」に劣らぬ壮大なネットワークアートなのである。

>> to be continued

※この作品はネット小説として2011年11月8日にアップされたものです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?