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note71: マイアミ(2011.10.5)

【連載小説 71/100】

「“マイアミバイス”ってTV番組があったのを覚えてる?」
とUncle-Tom。

1980年代にヒットした刑事ドラマのことはよく覚えている。
マイアミ警察特捜課に所属するふたりの刑事が犯罪組織と闘うでシリーズで、主人公の着こなすアルマーニのスーツやビルボードチャートのヒット曲とのタイアップが話題となり日本でも人気の番組だった。
確か数年前には映画版も公開されたはずだ。

実はあの番組がその後のマイアミ観光に果たした役割は非常に大きかったと彼は言う。

映画であれTVドラマであれ、ヒット作の舞台は世界中から注目を集め、結果としてそこを訪れるツーリスト数を増やす効果がある。

『マイアミバイス』の場合、犯罪都市としてマイアミが描かれることで「危険な場所」というイメージがPRされるリスクもあるわけだが、Uncle-Tomいわく、あえて“光と影”の両面を提示し、注目を集めた上で影の部分を消して行く“リスクテイク”のマーケティングがメディアとの連携で可能だとのこと。

つまり、都市としての“現実”をライブに見せると同時に、その場所が持つ魅力を映像として大衆にアピールすることで多くの人を集め、その経済効果を活かして結果的に治安の安定化も目指すということだ。

前回マイアミを犯罪発生率の高い危険地域と紹介したが、80年代に全米ワーストとされたマイアミの治安が近年は随分改善されたらしい。

先週まで滞在していたニューヨークが「9.11」以降のテロ警戒態勢の結果“安全な街”として注目されるようになったのも同様の事例なのだろう。

このように観光・旅行産業にポジティブな影響を及ぼすメディア効果がある一方で、天災や病気など人智を超えた現象とそこから派生する風評被害はネガティブサイドのみに作用する。

21世紀以降でもアジアのSARSやスマトラ沖地震、米国のハリケーンのカトリーナなど観光産業に甚大な影響を及ぼす悲劇が次々と発生し、東日本大震災もそこに加わることになってしまった。

自然災害は第一に当該地に物理的な被害を及ぼすが、そこから派生する流言卑語すなわち「風評被害」が二次災害として間接的ダメージを増殖的に広げて行く。

マスメディアはその特性として報道がネガティブに偏り、それを見聞きした大衆は物事を悪い方に考え行動する傾向がある。
残念ながら「3.11」以降も現実とは異なる風評が世界レベルで広がったために日本を訪れるツーリストは全国レベルで激減した。

そこでUncle-Tomの“風評リスクヘッジ”ビジネスが登場する。

では、風評被害にどう対処するのかといえば、「危険だ」という目に見えない“うねり”のような風評に対しては、「安全だ」という正反対の風評で対抗するしかないと彼は言う。

もちろん、「安全」をアピールするためには極めて慎重な情報収集と分析をもって説得材料を準備しなければならないし、そこから生まれるメッセージを効果的に発信し事態を良い方向に導く“うねり”にしなければならない。

彼はここ数ヶ月、各国のメディアを巡って対日観光市場回復に向けた情報提供活動を戦略的に繰り返してきたそうで、日本向けツーリスト数は着実に改善されてきているという。

では、そんな中で僕に頼みたいこととは何なのかを聞くとこんな答が返ってきた。

「観光業界の課題は日本を訪れる旅人市場とコインの裏表のような関係にある日本人海外旅行市場の低迷にあり、改めて今、世界を旅することの意味を広く大衆にメッセージとして伝える必要がある…」

Uncle-Tomの僕への依頼を要約するとこうだ。

未曾有の危機から復興を目指す日本にとって、ただでさえ長き景気後退の中にあったこともあり海外旅行のプライオリティが低くなる可能性は大きい。

しかし「3.11」を受けて世界が日本に向けてくれた暖かい励ましを思う時、より一層の国際交流や国際貢献は日本にとって必須の取り組みであることは間違いない。

これを機会に海外旅行の在り方を再検討し「いまだ精神的には鎖国状態」と揶揄される日本人の意識改革も含めてアウトバウンド市場の活性化を図りたい。

そのために新たなツーリズムのアプローチを通じて“うねり”のような形で大衆の心に旅心を醸成するアイデアを共に考えてほしい。

ということで、手強いミッションではあるがやりがいのある作業でもあり、友人として引き受けることにした。

「SUGO6」の旅も残り3ヶ月となったが、旅することの意味を再考するという営みは世界一周の旅を仕上げる局面において相応しい。

このレポートでも折に触れて“ニューツーリズム”を記していくことにする。


>> to be continued

※この作品はネット小説として2011年10月5日にアップされたものです。

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