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note61: ニューヨーク(2011.9.13)

【連載小説 61/100】

闇の中から未来に光を見いだそうとする。

国家や民族、イデオロギーを超えて人類には共通する再生力があると信じたい。
「9.11」を精算し、いかなる21世紀を創造していくのかはアメリカだけの課題ではなく、国際社会、いやこの星に生きる全ての民に与えられた試練なのだと思う。

「自由の女神」が建つリバティアイランドからワールドトレードセンター跡地のあるマンハッタンを眺めながら、僕は改めて“21世紀”の意味を考えている。

あの日、新たな百年紀はスタート後9ヶ月にして悪夢のような現実を味わうことになったわけだが、その前の100年を振り返ってみよう。

20世紀は戦争の世紀だったといってもいい。
その前半は1904年の日露戦争に始まり1914年の第一次世界大戦から1931年の満州事変を経て1941年の第二次世界大戦参戦から1945年の敗戦、と日本の近代史を辿ればわかるように国家入り乱れての争乱時代だった。

20世紀後半、日本こそ戦争から距離を置いて経済成長に邁進していたが、近隣では朝鮮戦争やベトナム戦争が勃発し、世界的には米ソ冷戦時代が続いた。

そして世紀末に冷戦構造が崩壊するに至って平和に向けて希望の光が見えたかに思えたが、前後して中東における湾岸戦争が勃発、今度は先進諸国と第三世界間の新たな対立軸が露呈することになった。

そんな時代背景と共に終わる20世紀ゆえに、世界は新たな21世紀に“変化”を期待していたのではなかっただろうか?

2001年は100年単位の世紀移行だけでなくミレニアム(千年紀)の転換期だったから、閉塞感漂う世にあって新たな時代の扉が開けばそこに何かの答えが見いだせるような期待感が時代の深層心理としてあったと思う。

ところが、新世紀が僕たちに準備していたのは夢でも希望でもなく試練と悲観であり、“21世紀”はそのスタートと同時に途方もなく難解な問題を我々に投げ掛け、その回答探しの100年を準備した、というのが「9.11」の意味するところだと僕は考える。


ところで、「自由の女神」がユネスコの世界遺産(文化遺産)に登録されていることをご存知だろうか?

アメリカは歴史が浅いゆえに世界遺産が少ないと言われるが、この像はアメリカ合衆国の独立100周年を記念してフランス人の募金によって1886年に完成したもので、アメリカ合衆国の自由と民主主義の象徴であるとともに、全人類の平和と平等の象徴であることから1984年に遺産登録された。

女神がかぶる王冠には7つの突起があるが、「7つの大陸と7つの海に自由が広がる」という意味が込められているらしい。

だとすれば、女神の祈りはその間近で裏切られたことになる。
それどころか、「9.11」ではこの「自由の女神」もテロの標的とされた噂がたったため、その後しばらくは観光訪問が停止されたと聞くからさらに嘆かわしい。

皮肉にも全人類の平和と平等の象徴たる女神のそばで起きた惨劇。
それ故に「自由の女神」を見上げる旅人の僕は祈りと共に世界に呼びかける。

「7つの大陸と7つの海に暮らす全ての民よ。闇の中から共に未来に光を見いだそう」


>> to be continued

※この作品はネット小説として2011年9月13日にアップされたものです。

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