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TRANS ISLAND 儚き島 回顧録

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2002年2月19日から5年間260週間をかけてオンライン配信された連載ネット小説『TRANS ISLAND 儚き島/真名哲也』。スマートフォン黎明期に掌上の端末で読む未来形の小…
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2023年7月の記事一覧

076.掌中の地球

2003.7.29 【連載小説76/260】 大阪で滞在中のホテルに、僕宛のFEDEX便がトランスアイランドから届いた。 中身はヴァージョンアップした島民用PDA「nesiaⅡ」だ。 重量120gの名刺サイズは、旧型と比してかなりのサイズダウンを達成している。 胸ポケットに入れても、ストラップで首に吊しても違和感がなく、携帯性がさらに高まった。 加えて、モバイル端末に要求される動力部の洗練化も着目に値する。 前回は取り外し可能なカバー部にあったミニソーラーパネルがデヴァ

075.追憶の中の原風景

2003.7.22 【連載小説75/260】 遠い昔、人類が生まれる遥か前。 地球がまだ汐と泥で混沌としていた頃。 天上界がふたりの神様を下界に使わした。 「イザナギ」と「イザナミ」という名の彼らは、天の浮き橋から沼矛を海に下ろし、かき回して引き上げた。 すると、矛の先から滴り落ちた雫が固まって最初の固い土地が誕生した。 これが「おのころ島」である… 日本最古の文献『古事記』にある、この「国生み神話」の舞台は諸説あるが、淡路島の南、海上4kmのところに浮かぶ沼島が有力と

074.失われ行く故郷

2003.7.15 【連載小説74/260】 南北に海と山がせまり、その間を何本もの川が流れる。 東西には幹線道路と鉄道が並行して走り、ヒトやモノが吹きぬける風のように行き交う… 故郷の街、神戸に帰ってきた。 PIFの一件では、一旦島へ帰ることも考えたが、ボブの采配でトランスアイランドの回答が一昨日無事提出された。 「内部インパク少なき外部貢献」 「個々の生活や価値観のコミュニティに対する優先」 等、島のアイデンティティに関わる重要な方向性が短期間にまとめあげあれた展

073.戦争と平和

2003.7.8 【連載小説73/260】 6月30日 オセアニアの地域機構、太平洋島嶼国家会議(PIF)は、部族対立で治安が悪化するソロモン諸島への平和維持軍派遣を決定した。 長引く内紛と深刻な経済停滞に陥ったソロモン政府が支援を求めたことによる。 7月2日 トランスコミッティはPIFから物資輸送と専門家派遣の要請を受ける。 これは、復興後の産業政策を見据えてのもので、年頭の同国サイクロン災害時の飛行艇派遣協力から始まった国交の延長線上に舞い込んだオファーである。 (ソ

072.再び空想の空から

2003.7.1 【連載小説72/260】 大きな旅の中に小さな旅があり、その小さな旅の中にさらに小さな旅がある。 旅は常に階層的だ。 何度ものクリックを重ねてウェブサイトの奥を探るのがインターネットの旅であるならば、旅の途上で魅せられた何処かに予定外の長居をするのをインナーネットの旅とでもいえばいいか… 再び空想の空、すなわち浮遊する飛行機の中でこの手記を記している。 竹富島という、かなり深い階層から石垣島、沖縄のクリックを経て、僕は羽田行きの便に搭乗した。 結局、