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TRANS ISLAND 儚き島 回顧録

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2002年2月19日から5年間260週間をかけてオンライン配信された連載ネット小説『TRANS ISLAND 儚き島/真名哲也』。スマートフォン黎明期に掌上の端末で読む未来形の小…
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2023年4月の記事一覧

063.環太平洋ネットワーク

2003.4.29 【連載小説63/260】 第2回のクロスミーティングに、遥か遠方アラスカからの参加者があった。 カヌーイストのブルース・ロペスがその人。 トランスアイランドも1年を重ね、迎えるツーリストの出発地も世界各地へと広がってきているが、同じ遠方でも北米太平洋岸の民と、太平洋島嶼国家の民はそのルーツにおいて心理的に近いところにいる。 地球儀を回して、陸地が最も少ない場所でストップさせたなら、そこに現れるのが環太平洋ネットワークだ。 このポジションで地球儀を見る

062.海の熱帯林

2003.4.22 【連載小説62/260】 「talk with coral  -珊瑚と語ろう-」 マーシャルのジョンが提唱するプロジェクトへの参加が決定し、トランスアイランド側における臨時的な推進組織が結成された。 組織といっても、いつもの仲間の面々。 環境学のナタリーと文化人類学のドクター海野は、その専門領域から実務レベルの担当が即可能。 新たにエージェントとなったケンが産業の側面からエコツーリズムの可能性を探る。 これに僕が加わった4名がベースのメンバーだ。 今

061.ジョンとの再会

2003.4.15 【連載小説61/260】 ひとりの少年が青年へと成長する。 そのきっかけは何? と尋ねられたら、何と答えるのが正しいだろう。 年齢的には、個人差はあれど10代半ば。 精神的には、親から離れて「自立」を目指した時。 社会的には、「学び」の場から、職業を選んで「労働」の場へと出た時。 文学的には、恋や友情に関わる「挫折」を知った時… より逞しくなった肉体と、強さを増した眼光。 そして、そこに宿る未来に対する明確なヴィジョン。 半年ぶりに、今度はマーシャル

060.旅を人生の住処に

2003.4.8 【連載小説60/260】 先週は本当に楽しい1週間だった。 開島1周年を祝う様々な宴が各ヴィレッジで続き、たくさんの席に招待された。 加えて、島外からの客人を迎える機会もかなりあり、ある意味で今までで最も多忙な日々を過ごしたような気がする。 特にうれしかったのは、マーシャル諸島からカブア氏とジョンが祝賀に駆けつけてくれたことだ。 彼らとの出会いは、僕がトランスアイランドに暮らすことを越えて、人生にとって特別な意味を持つと信じているからだ。 今、ここに居

059.楽園の温度調整機能

2003.4.1 【連載小説59/260】 前回に続いて「戦争」と「防衛」のことを記そう。 その後の関係者による議論をまとめておきたいのだ。 結論から言うと、どうやら今度の戦争は思ったより我々に近いところで起こっている。 物理的な距離ではなく、そのネットワーク性によってだ。 長期化が予想される戦争をエネルギーの側面から観察するとわかりやすい。 局地の戦闘にも遠隔地からの大量物資移動にも膨大な燃料が使用される。 これらは平時には費やされないオプションのエネルギーだから、