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TRANS ISLAND 儚き島 回顧録

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2002年2月19日から5年間260週間をかけてオンライン配信された連載ネット小説『TRANS ISLAND 儚き島/真名哲也』。スマートフォン黎明期に掌上の端末で読む未来形の小…
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2022年6月の記事一覧

019.貨幣経済考

2002.6.25 【連載小説19/260】 早いものでこの島に移住して四ヶ月になる。 太平洋の真ん中にポツンと浮かぶ小さな島。 そこに暮らす人は少なく、必要最小限のモノとコトしかない… 「カルチャーショックはない?」と、よく尋ねられるが、「ない」と言っていいだろう。 僕はそれまでも南海の島々を転々と旅して、物語をはじめとするテキストを書く生活をしていたし、ミニマムの所有でマックスの外的環境と付き合うライフスタイルを長く実践してきたから、違和感などないのだ。 むしろ、

018.島のイズム

2002.6.18 【連載小説18/260】 鶏が先か?卵が先か? トランスアイランドという島が、この先いかなるイデオロギーやイズムを持って育っていくのかについて考えている。 思想や主義があって、そこにコミュニティが発生するのか? コミュニティの生成の中で、環境に対応して思想や主義が生まれるのか? 鶏と卵に喩えたのは、そういうことだ… ある意味でこの島は特異なポジションにある。 「文明から距離をおいた南の島で、人類の豊かな未来を検証する」というコンセプトをもってスタ

017.文化人類学者

2002.6.11 【連載小説17/260】 次に生まれてくるときは、文化人類学者になりたい。 僕に迷わず、そう思わせる人物を紹介しよう。 SWビレッジに住む海野航氏がその人である。 彼との出会いはトランスアイランドのエージェント会議。 改めて解説しておくと、このプロジェクトの主体であるコミッティが、島国家運営のブレーンスタッフとして指名した各界のプロフェッショナルがエージェント。 島に暮らし、各々の専門領域の活動を展開する中で、島の未来への提言やアドバイスを行うことに

016.多くを持たない幸せ

2002.6.4 【連載小説16/260】 「君たち北の民は技術を手に入れると、すぐに身の丈以上のものを得ようとする。その結果、食べきれない量の魚を得て、保存術や分配のための流通網、さらには他の人の余剰物とそれを交換するための複雑な手段、つまりはお金を生み出す。ところが効率や生産性を求めるがゆえのそれらに追われ、酒を飲む暇もない人ばかりじゃないか。こんな愚かしいことはない。我々は食糧に困ることもないし、酒を飲む時間が毎日たっぷりある」 以前ミクロネシアのとある小さな島で、