発酵文化人類学

発酵文化人類学      小倉ヒラク  2017年

微生物の大きさ
小:細菌(乳酸菌、納豆菌)
中:酵母(パン酵母、ビール酵母)
大:カビ(麹菌=ニホンコウジカビ、クモノスカビ)

カビは微生物の中でもとりわけ分解力が強い。
複雑で巨大な生物の身体の構成物を分解し小さな物質に還元する。その分解された物質がカビよりも小さな菌たちのエサになる。
日本酒はコウジカビがつくりだした糖分を、酵母が食べてお酒にしたもの。
糀:米粒にニホンコウジカビが付いて出来る
麹:穀物に発酵カビが付いて出来る

発酵食品は腐らない、栄養満点(タンパク質やアミノ酸)、美味しい。
・腐敗を防ぐ4つの知恵
 発酵菌のバリヤー
 塩・砂糖漬け
 PH値のコントロール
 高濃度のアルコール

発酵は酸素も光も使わないエネルギー(ATP)獲得法。
乳酸菌や酵母による発酵は本人にとってのエネルギーを産生する方法であり、乳酸やエタノールなど周りの生物に役立つものをつくっている。
動物は酸素を使った呼吸でエネルギーを産生し、植物は太陽光を使った光合成でエネルギーを獲得している。動物の場合、グルコースと酸素を反応させ水と二酸化炭素ができる。
エネルギーを使い果たした生物は死ぬ。しかしエネルギー自体は死なない。それはまたATPのかたちを取って、別の生物のもとに渡り、その生物の生きる糧となる。

【新政酒造】日本酒
蔵の特徴:県産米・純米・生酛
扱う菌:麹菌(種麴屋から入手)
    酵母(新政起源の6号酵母)
    乳酸菌(蔵に棲む乳酸菌)

【五味醤油】味噌
蔵の特徴:木桶仕込みの甲州味噌
扱う菌:麹菌(種麴屋から入手)
    酵母(蔵に棲む酵母)
    乳酸菌(蔵に棲む乳酸菌)

【ミツル醤油】醤油
蔵の特徴:原点回帰の醤油づくり
扱う菌:麹菌(種麴屋から入手)
    酵母(祖父の代の蔵から分離した酵母)
    乳酸菌(蔵に棲む乳酸菌)

【マルサン葡萄酒】ワイン
 蔵の特徴:地元のブドウで仕込む
 扱う菌:酵母(ワイン醸造用の種を購入)
     乳酸菌(蔵に棲む乳酸菌)

伝統的な発酵技術において、醸造家は微生物や自然の引き起こす現象をよく観察し、その特性にあった環境をしつらえることで人間に役立つ利益を引き出してきた。
自然の摂理に人間のほうが寄り添うという発想だ。

オオカミを家畜化して犬にしたように、種麴屋はカビを家畜化して麹菌にした。そしてその家畜化したカビを大量培養して和食文化の基礎とした。

「食卓を囲む」という、感性を通じてのコミュニケーションを僕たちは「文化」と呼ぶ。
発酵とは、サイエンスに支えられた文化の作法だ。

美しい酒を醸すように、美しい社会を醸していこうぜ。

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