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我々はどう進化すべきか

『我々はどう進化すべきか』 長沼毅 2020年

この本は広島大学大学院生物圏科学研究科教授で「生物海洋学」を担当されている長沼氏による、ガラパゴスから人と自然の関係、生物と地球の関係を考えた内容の本です。

一部引用します。

「ガラパゴスは、大海原に浮かぶ火山島ですが、その立地条件が奇跡的にすばらしいのです。ガラパゴスは大陸から近すぎず遠すぎず、かつ、寒流と暖流が交わる「海流の十字路」にあり、そのことがガラパゴスの陸と海に豊かさをもたらしています。」

「人間の未来、ヒューマニティの未来を見たければ、ガラパゴスを見ればよいのです。ガラパゴスの生物にとってガラパゴスが楽園(パラダイス)であれば、人間にとって未来は楽園となる方向にあるでしょう。でも、もしガラパゴスの生物がふたたび人間のせいで傷つき、滅んでしまったら、人間の未来も同じような末路を辿るでしょう。」

「ガラパゴスの過去は、人間に発見されるまでは火山(プレートテクトニクス)と生物進化の歴史でした。しかし、500年近く前(1535年)に発見されてから、ガラパゴスの受難史がはじまりました。はじめは海賊、つぎに捕鯨船による乱獲という受難でした。やがて移住者が増えてくると、開拓による自然破壊と、持ち込まれた外来生物(イヌ、ネコ、ヤギ、ネズミなど)による在来種への攻撃と生息環境の破壊が深刻になってきました。
現在のガラパゴスは、世界遺産になったことによる明暗でいえば“暗”のほうで、観光(ツーリズム)が問題化しています。」

「むしろ、ガラパゴスの将来について心配なのは、ローカルな両立プランというより、グローバルな問題がガラパゴスで尖鋭的に現われることです。例えば地球環境変動、英語でグローバル・クライメート・チェンジ、略称GCCです。
海水の異常高温現象「エルニーニョ」の激甚化が気になります。当時、史上最大といわれた「1982―1983エルニーニョ」ではガラパゴスのペンギンの約8割とコバネウの約半数が死にました。」

ガラパゴスの様々な生物について非常に魅力的に書かれている本書ですが、私は、特に鉄の部分に関心を持ったので以下に記載します。

「こんな奇跡の海でも、ガラパゴスからちょっと離れると、もう生物が少ないし生産力も乏しい“海の沙漠”になってしまいます。湧昇のおかげで表層水には無機栄養分がたっぷりの富栄養なのに、なぜか植物プランクトンが少ない、だから、動物プランクトンも少ないし魚も少ない。つまり、無機栄養分の濃度は高いのに植物プランクトンの濃度は低いという辻褄の合わない問題があるのです。
この問題が顕著な海域はHNLC海域と呼ばれています。HNLCとは「高栄養―低クロロフィル」を意味する英語high-nutrient low-chlorophyllの略称です。」

「HNLC海域における問題の本質は、1930年代にはすでに「鉄不足」だと考えられていました。しかし、海水中の鉄の濃度の測定はとても難しく、きちんとしたデータが得られませんでした。」

この後、鉄が測定され鉄散布実験が行われるのですが、なかなかうまく行きません。

「この章のはじめのほうで、こう述べました、「島々に降った雨水が土地を流れて海に入るとき、島々を作る岩石からある栄養素が溶け込んで海に供給されます。その栄養素とは、この章の主役である鉄分です」と。火山島ができたのは地球の営みプレートテクトニクスのおかげ、その火山島に雨が降るのは温かい海流のおかげ、火山島の周りの海に無機栄養分が多いのは冷たい海流のおかげ。こうしてみると、ガラパゴスの海が豊かなのは、海底の動き(プレートテクトニクス)と海水の動き(海流、湧昇)のおかげであることがわかるでしょう。」

上記サイトから引用します。

「私たちが住む地球は、地表の約7割が水で覆われているため、「水の惑星」と言われています。そのうちの約97%を占めているのが、総面積3億6000万平方キロメートル、平均の深さ3,795メートルの海です。

海の中でもとりわけ生物にとって重要な場所は、汽水域や沿岸域に広がる海草や海藻で形成された藻場です。藻場は水中の様々な生物の隠れ場所や産卵場所になるだけでなく、海藻や植物プランクトンが行う光合成によって、二酸化炭素を吸収し水の浄化や海中に酸素を供給する役割も果たしています。

国土が海で囲まれている日本では、明治時代中頃からこのような藻場が大規模に消失する「磯焼け」と呼ばれる現象が全国各地で発生し、水産業に影響を及ぼしてきました。近年はその面積が拡大傾向にあり、海の砂漠化が進行しています。

原因は、ウニなどの植食性魚類による食害や、ダム建設などにより沢水や流域水が減少したことによる栄養塩の減少、台風や豪雨、上流の山林伐採に起因する淡水や泥水の流入など、複合的な要因が影響しあっていると考えられています。

このような藻場の衰退に歯止めをかけるべく注目されているのが、水中に鉄イオンを供給するという技術です。鉄イオンは地球上のあらゆる生命が、栄養分を体内に取り入れるときに必要な酵素が働く触媒としてなくてはならないものですが、これが海の植物プランクトンにとっても必要な微量金属であることが、1990年頃から内外の鉄撒布実験により検証されてきました。

植物が利用できる鉄は二価の鉄イオン(Fe2+)です。鉄は酸化(赤サビ)しやすく、酸化すると三価鉄イオン(Fe3+)という水に溶けにくい形となって沈殿し、植物には取り入れられなくなります。自然界では、豊かな腐葉土がある広葉樹の森で、フルボ酸という腐食酸と土壌中の二価鉄イオンが結びつき、「フルボ酸鉄」という錯体(キレート)となって、川から海に運ばれて海藻や植物プランクトンに届けられます。

しかし現在は、ダムや河川の改修工事、手入れの行き届かなくなった人工林の増加など、様々な阻害要因でこのシステムが機能しなくなり、生態系が鉄欠乏の状態にあると考えられています。このような森に代わって、海に鉄分を供給する手助けをする取り組みが始まっています。」

我々はどう進化すべきか、考えて日々を暮らしたいです。


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