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【山形県山形市】(2/2)雪降る山形。新幹線は運休停止したけれど、酒場で呑んで喰っては休まない。2022年1月13日(木)-1月14日(金)

山形旅の2/2になります。


◾️「いし山」のどんがら汁

どんがら汁

山形は庄内地方の郷土料理「どんがら汁」が供されました。日本海の荒波の中で肥え太った真鱈の身を余すことなく食べ尽くす鍋料理です。 

岩手でも太平洋で獲られた寒鱈を鍋に入れることはありますが、真鱈単体の鍋はあまりなく、寄せ鍋の具の一つという印象が強いですかね。そして、岩海苔が入るのが決定的な違いです。岩海苔が入るだけでこうも濃厚な磯香りで美味さが増すものかと驚きを禁じ得ません。

「今時期は根つきのセリも美味しいですよ」とのことですが、これはセリ鍋が名物の宮城県の影響があるのかもしれません。

身だけでなく、たっぷりの、生でも食べられるでしょう真鱈の精巣・鱈菊(たらきく)(山形では“だだみ”の方が馴染みがあるでしょうか)も鍋に入り実に贅沢ですが、アラからいい出汁が出て味噌ベースの汁も滋味深い味わいとなっています。

〆に饂飩を入れ、出汁を少し足して煮込んだら、これを啜りながら何合目になったかわからない熱燗と冷酒を呑み干したのでした。

◾️七日町「ボルドー」で絶品カクテルを

マティーニ

「いし山」の次に訪れた「ボルドー」は1960年から七日町で大人の社交場となってきたバーです。わたしは、訪れるのは2015年以来の2度目でした。

地元Rさん達も「ボルドー」には来たことがないといいます。この店は一見客は誰かの紹介がないと入りづらいので、「いし山」さんから紹介してもらい4名でお邪魔しました。

福島出身の女性店主・高梨さんは開店から60年以上カクテルを作り続け、200種以上のカクテルのレシピを誦んじることができ、確かに酒の知識の豊富さはそこらのバーテンダーでは太刀打ちできないほどです。

まずはマティーニをもらうと「オリーブをね、少しずつ齧りながらマティーニ呑んでね。味も美味しくなるから」と高梨さんが教えてくれます。
言われたとおりオリーブを少し齧りながらマティーニを呑むと、ドライだった味わいが一気にふくよかで優しく包み込むような味わいになります。
「おお!」と感激の声を上げると嬉しそうに高梨さんは微笑みました。

胎内回帰を連想させる店内は音響も素晴らしいのです。「最近は全然レコードをかけないんだけど」と言いながら、高梨さんがビートルズの「レット・イット・ビー」をBGMに流してくれました。

「このビートルズのレコードはね、なんか古いだけじゃなく貴重らしくてね、譲ってほしいっていうお客さんがよくいるんだよね」と慈しむようにレコードのジャケットを撫でながら高梨さんが話しました。

「いつか井上陽水さんがふらっと呑みに来たことがあって、とある古いレコード盤を気に入ってくれたから、“この店を辞めるに差し上げます”って約束してあるの」と言って、高梨さんは再びにっこりと微笑んで見せました。

ダイキリ

この大雪だし、山形だし、酒田の「ケルン」の井山さん(残念ながら2021年5月に亡くなられた)のオリジナルカクテル「雪国」を作ってもらおうかと思い注文しました。

が、注文すると、たまたまホワイトキュラソーを切らしているということで、代わりにダイキリを注文しました。これもまた素晴らしい一杯だでした。ノーブルな甘酸っぱさ、強めのアルコール感、程よいフレーク感。

「美味しいです」と伝えると「もう60年も作ってるとね、美味しいカクテルも作れるようになるし、ほら、腕もしっかりしてるでしょ」と腕をまくって見せてくれました。
高梨さんの両腕は、ほっそりとしているものの、お年を召した女性とは思えないほどしっかりと引き締まっていました。

「19歳で福島から出てきて60数年。生活するためにやれることはやってきて今に至っている。元気なうちは、まだまだカクテルを作りたいなって」

古い写真がたくさん貼られたアルバムを引っ張り出し、若かりしころの高梨さんの写真を見せてくれました。そこには、目を引く美しい女性バーテンダーがカウンターの向こうに立っていました。

◾️三軒目は「いし山」の隣にある「ぶるーめん」

シメイブルー

三軒目は「いし山」の隣にあるバー「ぶるーめん」を訪れました。「ボルドー」からは、徒歩数分になります。

日本酒からのカクテルが効いてきたので、少し軽めにトラピストビール「シメイブルー」をいただきました。泡だらけにならぬよう静かに注ぎます。が、失敗しました。ほぼ泡が立ちまんせんでした。それでも美味しいのが「シメイ」。アルコール9%の豊かな味わいです。

「ぶるーめん」の店内

1988年に店を始めたというマスター菅野さん。物静かで落ち着いた雰囲気で、言葉の端々に豊かな知見が溢れています。

地方を旅して様々なバーテンダーと出会い、人柄がいいバーテンダーもたくさんいましたが、この菅野さんも人間力が極めて高い人でした。他愛ない話をしているだけで、安心できて癒されているように感じました。

古いウイスキーやバーボンがなぜ美味しかったのかという話になったとき、誰かが尋ねました。「なんでその時代はちゃんと造ってたのんですかね?」と。

すると菅野さんはこう答えました。「いえ、ちゃんと造ってたというより、“そういう時代だった”ということではないですかね」と。

その一言にわたしは激しく納得しました。古いものが良いとか、古いから良いといったある種の信仰のようなものがありますが、それはちゃんとしていたというのではなく、単に時代そのものが今の時代に評価される価値を作っていたということなのでしょう。激しく納得です。

店の二階には菅野さんが収集してきた銘酒のコレクションがぎっしりだといいます。「長くやってれば、それなりに自然に貯まりますよ」と謙遜するが、きっとすごいお宝があるのでしょう。

素晴らしいバー二軒。山形の夜は雪が降り続いていましたが、心から満足できるものとなりました。

◾️山形2日目に冷たい肉そばを

冷たい肉そば

翌朝は早くからRさんと打ち合わせの続きをしました。昼過ぎになってようやくそれも終わり「せっかくだから冷たい肉そばでもいかがですか?」と言われ、市内にある「山形一寸亭(ちょっと亭)」へ足を運びます。

平日ランチは肉そばに蓮根ときすの天ぷらがついて865円と非常にお得。こちらは5年ほど前に一度訪れたことがありますが、相変わらず肉そばは美味しかったです。本店は河北町にあり、もともと肉そば文化もそちらが本場だと聞きます。

肉は親鶏を用いており、若鶏と違ってしっかりとした食感の深い味わいが独特の旨味となってスープに反映されています。呑みすぎた体に、じんわりと親鳥に優しい風味が染み入るのでした。

BOTAcoffee

高速バスに乗る前に、七日町の通称「シネマ通」にある「BOTAcoffe」によってコーヒーとフロランタンをいただきます。

穏やかな香りと味わいのコーヒーと手作りのフロランタンを食べながらRさんとお別れ前のひと時を過ごしました。

「山形、最高でした」
「ありがとうございます。ぜひまたいらしてください」
「盛岡にもぜひぜひ」

そんな風に言葉を交わし、山形駅でRさんと別れました。
そして、山形駅へ向かい、仙台行きの高速バスに乗ったのでした。

(おわり)

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