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【盛岡市】(2/2)冬来たる盛岡で「仮想・一人旅」気分で呑み歩き、老舗スナックで大先輩たちと歌った夜 2019年12月7日(土)

「仮想・一人旅」の続きになります。
注)こちら、2019年12月の記事になっています。


3軒目はオーセンティックバー「バッカス」

アイリッシュコーヒー

中心市街地に戻り、少し迷って降りたバス停から程近いオーセンティックバー「バッカス」の扉を押しました。なんとなく、この店がある辺りは、“旅してる感”が薄いので、あえて避けようとしていたのですが。

とはいえ、霙で寒いしトイレにも行きたいしで、目の前に現れた「バッカス」に躊躇なく飛び込み、カウンター席に腰を下ろし、暖かな店内にほっとしました。
こちらのバーでは、はじめに温かいコンソメスープが出されます。このスープで胃を温めてから、酒を呑むのが体に優しい感じがします。で、一杯目はアイリッシュコーヒーを注文し、さらに体を温めました。

店内は10人ぐらい、5、6組の先客があり、わたしはカウンター一番奥の席に通されていました。バーテンダーの所作から客の様子まで綺麗に見通せる最適の位置取りにある席でした。

店内を眺めながら一杯目アイリッシュコーヒーを空けたところで、いつも相手をしてくれる若い女性バーテンダーが店の奥から現れ、「いらっしゃいませ、今日は何軒目ですか?」と尋ねてきました。

「盛岡に旅行に来て、一人呑み歩きしてるって遊びしてるんですよ。んで、今日は午後3時から呑み始めて三軒目です」と話したら、「相変わらず楽しい呑み方してますね」と笑ってくれました。

「次、どうなさいます」
「では、雪国をお願いします」
「あ、もしかして雪国の映画、ご覧になりました?」
「・・・いえ、外が霙模様だったので。。。」
「(笑) はい、かしこまりました」

とても美しいカクテル「雪国」

カクテル好き、バー好きなら知らない人はいないでしょう、日本のオリジナルカクテルであり、スタンダードカクテルとなった「雪国」は酒田のバー「ケルン」で名バーテンダー井山計一氏の手によって1958年に誕生しました。
井山氏は90歳を超えた今でも現役バーテンダーとしてカクテルを作り続けられておられ、その生涯が「YUKIGUNI」と題してドキュメンタリ映画化され、今年上映されていました。
注)井山氏は2021年5月に永眠されました。

盛岡では11月中旬に一週間程度上映されたらしかったのですが、残念ながらわたしは見逃してしまい、「次回チャンスがあれば」と思っていた次第でした。

さて、その女性バーテンダーが手際良くシェイクして作ってくださった「雪国」は、甘口ではあるがライムジュースの爽やかさが巧くマッチし、さすが戦後最高の国産カクテルと言われる一杯です。だいぶ久々に呑んだのですが、改めてその旨さに感動しました。

八幡界隈へ戻り「仮想・一人旅」クライマックスへ

歩いて八幡へ戻りました。霙は止み、傘がなくても大丈夫でした。八幡界隈、松尾町の盛岡劇場のすぐ脇にある「リッチ」というスナックへ足を運んでみました。
このあたりの酒場事情に詳しいとある飲食店店主から「あの『リッチ』っていうカラオケスナックは立派なカウンターがあってなかなかのものです。景気の良い時代は、女の子を5人も6人もカウンターに立って相手してくれてましたね。今じゃママ一人ですけど」と聞いていたのですが、この日は“仮想・一人旅”なので、思い切って飛び込んでみた、という体で訪れてみます。

普段常連客ばかりだからでしょうか、店に入るとママが少しびっくりしたような顔を見せ、ワンテンポ遅れてから「いらっしゃいませ」と立ち上がりました。
「一人です」というとカウンター席を勧められ、呑みものはどうします? と聞いてきたので「ハイボールお願いします」と答えました。

すぐに作ってくれた「角ハイ」で、これをちびちび呑りながら紹介されて来てみたことを話していると、ママの表情も和らいで来て、いろいろ話をしてくれました。
昔は若い女性店員を何人も使っていたこと(聞いていたとおりです)、最近では呑みに出る人も減って寂しくなってきたこと(上田通と一緒です)、たまに来てくれるのは自分より年上の70代80代の客ばかりになったことなどなど。

お年寄りの居場所になってるってことか、と思いながら話を聞いていると店のドアが次々と開き、人生の先輩方がカウンター席に座り始めました。
連れてこられた若い女性客もいたましたが、わたしを加えて店内平均年齢は平気で70代は行っていたのではないかと思います。
で、先輩方の元気さがすごいすごい。おのおの十八番があるのでしょう、どんどん曲を入れて歌い始め、そして先輩方の歌がすごく上手いではありませんか。

あっけにとられていると近くに座った先輩が、「ほら、おにいちゃんも負けずに歌って」と予約入力端末を渡してくるので、焦りつつ先輩方の年代に寄せて(といっても、まったく演歌とか歌謡曲をあまり知らないから寄せ切れないのですが)、サザンオールスターズの古い曲などを入れてみました。

先輩方に囲まれ緊張の中で歌い終えると「いいねーー、良い声してるよ、うちの合唱団入んない? わははは」と奥の先輩が声をかけてきます。
いや、合唱はちょっと、、、と冷や汗をかきつつ角ハイをすすり、それから何曲か歌い(歌わされ?)、結局3時間近くも「リッチ」に居座ってしまいました。

先輩たちとの別れ際、「おにいちゃん、絶対またここで会おうな。若い人いないと、店もまちはダメになるから」と言ってもらいました。
おにいちゃんとか、若い人とか言われたが、そういう自分もいい歳なんだよなーと思いつつもやはりそう言ってもらえたことは、町と先輩方に受け入れてもらえたような気がして嬉しかったのが正直なところです。
なんだか、本当に旅をしているような心持ちになってきました。

ウラハチ「La-Tida」で〆る

久々の雪だるま(活性酒)
活性酒にフルーツを合わせる。

“仮想・一人旅”のラスト一軒は、八幡のさらに裏側にあるディープスポット「裏八幡」ことウラハチ界隈です。

ウラハチは、八幡の通りの一本南側の通り沿いあたりのことを、界隈の飲食店仲間たちが称しているローカルな呼称で、先ほどの「リッチ」から歩いて数分のところにありますが、「リッチ」が大先輩方のたまり場となっている一方で、ウラハチはディープ八幡ゾーンの中でも比較的若い30〜50代ぐらいの遊び人が集うエリアとなっています。

この個性的な店が集まるウラハチで、核となる飲食店となっているうちの一つ「La-Tida」を訪れてます。一見、外からは営業しているように見えない隠れ家的バーは、女性店主が一人店に立つ激狭店であり、人気店です。

こちらも「リッチ」のことを教えてくれた某飲食店店主から教わった店です。時間は22時を少し回っていました。
「遅い時間からしか営業しないよ」とも聞いていたので、ちょうど良かったのかもしれません。

先客は2名で、このお二人は八幡界隈で呑んでいたとのことです。
ドリンクは「仙禽 しぼりたて活性濁り 雪だるま」があったので、それを注文します。盛岡ではなかなかお目にかかれない一本。

お通しは嬉しいことにフルーツ盛り合わせを出してもらい、酔いの回った体に果物の甘さが実に優しいのです。さらに一人男性客が来店し、それだけで店が狭いので一体感が生まれます。

わたしは一見客でありましたが、、ウラハチ仲間として大いに盛り上がりました。某店主からオープン時間が遅いと聞いた話をすると、「えーー、遅いって言っても20時半には開けてますよーーー」と女性店主はそんな風に言って明るく笑ってみせた。
この笑顔と愉しい仲間たちと酒を求めて、夜な夜なウラハチには人が集まるんだなとじわじわわかってきました。

人と人との距離が近いのが、この八幡界隈。かつては上田通もそうだったはずだし、実際そうだったはずです。
けど、それでもやhり、寂れた寂れたといわれる八幡界隈にも、ウラハチのように勢いを感じるエリアもあり、上田通だってお洒落な「NAGASAWA COFFEE」のような20年前には考えられなかった人気コーヒー店ができ、ところどころに古い建物を使った若者向けの店も見られるなど、変化の萌芽は確実にあるんだろうと思っています。

今回の“仮想・一人旅”は、なんだか古き良き思い出に浸るための呑み歩きとなったようにも思いましたが、そうではなく、次の時代へ変わりつつ移行期としての盛岡のまちを俯瞰できるきっかけになったようにも思えたのです。

仮想・一人旅、実に楽しかったです。

(おわり)

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