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僕の旅の源流は、「桃鉄」にあったのかもしれない

この冬、「桃鉄」の世界で旅に出た。

本当ならこの2月、現実の世界で旅に出るはずだった。けれど、再び旅に出られない世の中になってしまい、どうしようかなと思い巡らしたとき、ふと、子供の頃に遊んだ「桃鉄」を思い出したのだ。

あの「桃鉄」なら、ちょっとした旅気分を味わえるかもしれない、と。

ゲームを買うなんて、実に10数年ぶりのことだった。旅に出る以外はインドア派の自分だけど、ゲームといえばたまにスマホで暇つぶしに遊ぶくらいで、お金を出してゲームを買うという発想にはなれなかった。ゲームを買って遊ぶなんて、遠い昔に卒業したと思っていた。

だから、お正月のヨドバシカメラで「桃鉄」を手にレジへ向かったとき、ちょっとした罪悪感に襲われた。大の大人が、ゲームなんて買っていいのだろうか、と。

家に帰宅して、さっそく「桃鉄」を始めてみた。その瞬間、子供の頃の自分と何かが重なった気がした。そういえば小学生の頃は、学校から帰宅すると、すぐに「桃鉄」を始めたものだった。一人で、あるいは友達と。あの頃はスーパーファミコンだっただろうか。

21世紀のSwitch版の「桃鉄」は、あの頃の「桃鉄」よりもいろんなことが進化していた。グラフィックは見違えるくらい綺麗になっているし、物件駅の数もぐっと増えている。千駄ヶ谷駅には「新国立競技場」なんて物件もある。

でも、久しぶりに「桃鉄」で遊んで僕が感じたのは、新しさよりも懐かしさだった。昔と変わらない単純だけど奥深いルール、サイコロを振るときのドキドキ感、物件を買う喜び、貧乏神が憑いたときの困惑……。

その懐かしさに包まれているうちに、気づけば僕は、子供の頃の自分に戻っていた。

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小学生の頃の僕は、今とは違って、ゲームが好きな少年だった。「ファイナルファンタジー」も好きだったし、「ウイニングイレブン」もハマったけれど、1番夢中になったゲームはなんといっても「桃鉄」だった。

一人でCPU相手に総資産を着実に増やしていくのも楽しかったし、友達とワイワイ言いながら貧乏神のなすりつけ合いをするのも面白かった。たまにそれが原因で、喧嘩になったこともあるけれど。

そんな「桃鉄」のおかげで、社会科の成績はいつも良かった。何年生のときだったか、ある日先生が、「稚内」という地名を黒板に書いて、「何と読むかわかるかな?」と聞いたことがある。「わっかない!」と僕が答えると、「よく読めたねー」と先生は驚いた。それもそのはず、稚内は「桃鉄」の目的地駅のひとつだったのだ。

日本各地の名産品も、「桃鉄」で覚えた。長崎といえばびわゼリー、出雲はそばの町だし、高山にはさるぼぼグッズ屋がある。明石はたこ焼き、仙台はずんだ餅、山形はラ・フランスだ。

一人で遊ぶときは、よく99年プレイをした。最後の方になると、全物件を買い占めることになり、やることがなくなってしまったけれど、それでも不思議な達成感があって気持ち良かった。

……どうして僕は、あんなにも「桃鉄」が好きだったんだろう?

今まで考えたこともなかったけれど、久しぶりに「桃鉄」で遊んで、ふっと気づけたように思う。

きっと子供の頃の僕は、「桃鉄」という架空の世界で、「旅」をしていたのだ。

その頃、僕は今とは比べものにならないくらい、インドア体質、というか引きこもり体質の子供だった。外で遊ぶことよりも、家の中で遊ぶことが好きだった。

それでも、いや……そうだからこそ、「外を自由に飛び回ってみたい」という願望が心の奥底にあったような気がする。

でも、僕にはそれができなかった。だから、「桃鉄」という空間の中で、日本を自由に飛び回ることに心惹かれたのだ。

たとえば「桃鉄」で、目的地が松山になる。松山といえば、みかんが美味しくて、温泉があって、四国の奥の方にある町だ。僕はサイコロを振って、名古屋や大阪を通ってマスを進めながら、実際に自分が松山へと旅に出ているような気持ちになっていた。

いつか、本当にこんなふうに、日本を自由に旅できたらいいな、と願いながら……。

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いま僕は、日本各地を、そして世界を、自由に旅している。その源流は、子供の頃に遊んだ「桃鉄」にあったのだと思う。

外で遊びたくても遊べなかった、あの頃の自分があったからこそ、自由に世界を飛び回る、いまの自分があるのだ。

「桃鉄」という架空の世界の旅が、現実の世界の旅へと、気づかぬうちに繋がっていた。

つい先日、久しぶりに「桃鉄」の100年プレイ(いまは100年まで遊べる)を終えた。岡山の桃太郎ランドも買えたし、もちろん全物件を買い占められた。そのときの達成感は、あの頃と変わらない、気持ちの良いものだった。

考えてみれば、いまの自分の気持ちは、子供の頃の自分と似ているのかもしれない。

旅に出たくても出られない。でも、自由に旅に出られる日々を、心から願っている……。

そういえば新しい「桃鉄」では、五所川原駅に「揚げ鯛焼き屋」という物件が登場していた。収益率500%だから、きっと美味しいのだろう。そうだ、また現実の世界で旅に出られるようになったら、五所川原へ揚げ鯛焼きを食べに行こう。

人生って、ときに同じことを繰り返すものなのかもしれない。

「桃鉄」の世界の旅が、現実の世界の旅へと、また繋がっていこうとしているのだから。

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旅の素晴らしさを、これからも伝えていきたいと思っています。記事のシェアや、フォローもお待ちしております。スキを頂けるだけでも嬉しいです!