韓国の旅で知った、イメージを変えてくれる「旅」の素晴らしさ
初めて旅した異国は、韓国だった。
たぶん、旅費が安いからとか、日本から近いからとか、そんな理由で選んだのだと思う。
でも、ひとつだけ、はっきり覚えていることがある。
その頃の僕は、韓国という国に良いイメージを持っていなかった。
ネットに溢れている悪い話だけを信じ、韓国は好ましくない国なのだと思っていた。
だから初海外の地に、台湾や香港ではなく韓国を選んだのが、自分でもちょっと不思議だ。
だけど、心のどこかにこんな気持ちがあった気がする。
もしかしたらこの旅が、韓国という国のイメージを変えてくれるものになるかもしれない、と。
12年前の初夏、韓国へと旅に出た24歳の僕は、そんな秘かな思いを抱いていた。
釜山からソウルを目指したその旅で、1番印象に残っているのは、安東の河回村での出来事だ。
真夏のような日差しの中、村をひとり散策していると、声を掛けられた。
「日本人……?」と韓国語で聞いているらしい。
ベンチでのんびりお昼を食べている、韓国人の若い夫婦だった。
ドーナツを差し出しながら、「一緒に食べないか?」と身振り手振りで言ってくれる。
どうしようか迷ったけれど、あまりに熱心なので、頂くことにした。
甘ったるいドーナツを食べていると、旦那さんが笑顔になって、サッカーボールを蹴る真似をする。
このとき、ワールドカップの期間中で、ちょうど前日に日本代表が試合に勝っていた。どうやら、それをお祝いしてくれているようなのだ。
僕はびっくりした。韓国の人が、日本がサッカーで勝ったことを喜んでくれているなんて。
そして、なんだか嬉しかった。
韓国語と日本語と英語がごちゃ混ぜになった会話を、夫婦と楽しんだ。
旦那さんは、「これ、日本のカメラだよ!」と、日本メーカーのカメラを自慢気に見せてくれた。
ご夫婦と別れ、しばし村を散策した後、1軒の食堂に入った。
すると店の女性も、「日本人……?」と笑顔で聞いてくる。
そして今度は、そのやり取りを耳に挟んだらしい中年の男性がやって来た。
「日本の方ですか……?」
それは驚くくらい、流暢な日本語だった。
「昨日は日本、サッカー勝てて良かったですね」
客として来ていた中年の男性は、お祝いの言葉をくれた後、僕にいろんな質問を投げかけては、その答えを仲間に韓国語で伝えにいく。
「何県に住んでるんですか……? 学生ですか……? いつ韓国へ来たんですか……?」
僕はまたびっくりした。韓国の人が、日本人である僕に興味を持ってくれているらしいこと。そしてどうやら、敵意などなく、好意を抱いてくれているらしいことに。
やがて意気投合し、美味しいマッコリで乾杯しながら、自分の中の韓国イメージが変わりつつあるのを感じていた。
もちろん、ネットに溢れている話が一面的でしかないように、この短い旅での出会いもまた一面的なものに過ぎない。
でも、韓国という国に、不思議なくらいにあったかい人がいっぱいいること。日本人である僕に、優しくしてくれる人がいること。
それに気づけたとき、僕は韓国の人たちを好きになれたのだと思う。
そして、ときにイメージを変えてくれることこそが、異国を旅する素晴らしさなんだと知ったのだ。
その韓国の旅をきっかけに、僕はいろんな国へ旅に出るようになった。
現代という時代は、旅になんて出なくても、異国の情報を簡単に手に入れることができる。
だけど、それらがすべてとは限らない。
その国へ旅に出て、初めて気づけることがあって、初めて出会える人がいる。
行かないで決めつけてしまうよりも、行って何かを変えた方が、きっと世界は楽しくなる。
だから、僕はこれからも旅を続けたい。
どんなに時代が移ろっても、旅をする価値だけは、ずっとそのままなのだ。
旅の素晴らしさを、これからも伝えていきたいと思っています。記事のシェアや、フォローもお待ちしております。スキを頂けるだけでも嬉しいです!