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「どじょうすくい」なら楽しんでくれるはず!~社会福祉法人が実践する地域への上手なとけこみ方~

北海道当別町にある社会福祉法人 ゆうゆうは、2019年度から、6ヘクタールの広さを誇る畑で大規模農業をはじめる。「社会福祉法人の中でも国内最大規模で、前例がない」という挑戦を成功させるために必要なエッセンスとは何か。

ゆうゆうによれば「地域の人たちの信頼を得て、協力してもらうこと」だという。実際に地域にとけこみ、町民から愛されている彼らに、その秘訣をうかがった。                                           

   聞き手:土谷奈々

今回お話を伺った社会福祉法人 ゆうゆう農業部門の錦織さん(写真左)と関原さん(写真右)

美味しいものをつくりたい

 国内最大規模の畑で、2019年度から「ゆうゆう」が新しく挑戦するのは、米づくりだ。6ヘクタールというのは、東京ドームも収まってしまうほどの広さで、半分はお米を、半分は野菜を育てるのだという。

 大規模農園を展開する理由として、おふたりの口からまず出てきたのは、「新しい就業場所を創造したい」という言葉だった。

 ゆうゆうで働く人たちの課題として、障害年金と現在の工賃では、生活が厳しい現状があるのだという。そのため、大規模農園での雇用形態づくりを進めたいのだそうだ。彼らが経済的にも自立した生活を送れるような就業場所を創っていくことが目標である。

 しかし、「それだけではない」と強調するのが錦織さんだ。

錦織さん:今回大規模農園を通じて、新たな雇用形態をつくるというのは、農業のプロとして美味しいものをつくっていくということです。
しっかりと安全で美味しいものをつくって、それをたくさんの人に食べてもらう。そうすることで、経済的に安定した雇用形態の仕組みをつくれるのではないかと思います。

 社会福祉法人で働く彼らが追求する「新たな雇用形態のかたち」。それは農業で「美味しいもの」をつくるということが前提なのである。ただ、彼らの本業は福祉であるのに、「美味しいものをつくる」というまるでプロの農家のような言葉が出てくるのはなぜだろう。「美味しいものをつくる」ということに、なぜこだわるのか。

何とかしなくちゃ

錦織さん:昔、当別町の弁華別(べんけべつ)地区には、「弁天米」という地域のブランド米がありました。すごく美味しいお米だったそうです。それが今はなくなってしまって、地域の方もさみしそうだった。それを見て、何とかしなくちゃと思って。

 そう話す錦織さんの言葉は切実なものだった。

 今回、規模を拡大して本格的な農業に取り組むのには、地域の基幹産業である農業の活性化という意味合いも込められている。
 高齢化によって農地を手放す人が増えている中で「その農地を活用して農業を行えないか」「当別の農業を盛り上げていくことができないか」という想いがある。

 そうすれば、地域も潤うし、障がいのある人たちも稼げるので、WINWINな仕組みができあがるのだ。これは画期的な仕組みに見えるが、「別に大きなことをやろうとは思っていない」と錦織さん。

錦織さん:地域の方との歩くスピードが変わっちゃうのは嫌なんです。僕たちはもともと弁華別地区の住民ではないので、身近なところからコツコツやるのが大切かなと。
たとえば、この地区で年に一度開かれる神社の「例大祭」があります。その飲み会でも、地域の人に覚えてもらうために何かやりたいなと思って、僕と関原は余興でどじょうすくいをやったんです。

ーどじょうすくい(笑)!!

錦織さん:はい(笑)。地域の方と距離が近づけば、おじいちゃんたちから色んな話が聞かせてもらえるようになります。先祖代々この地で生きてきた人たちですからね。

ーどんな話ですか。

錦織さん:せっかく美味しいお米があるのに、お米をつくっていた人が麦に変えたりする。やはり、麦の方が補助金も出るし、あまり手間がかからない。そういった理由に加えて根底には、高齢化だったり、後継ぎがいないっていうところが根深くあるんだなと痛感していました。そんな現実悲しいなあって。

だから、今回大規模農園をやろうと踏み切ったのも、「新しい雇用形態をつくる」という目標はもちろん、そういう地域の方ひとりひとりの「想い」からきた部分が大きいのです。地域の誇りや笑顔を取り戻すためなら、どんなことでもチャレンジしていきたいなと思っています。

「美味しいもの」を取り戻していく。そして広めていく。

そうすれば、商品として認められ、経済的な安定につながり、地域も元気になる。そういう地域の人と足並みを揃えた地道な積み重ねが、彼らのモットーだ。

普通に、可愛がられたい

―今までのお話を聞いて、おふたりは地域の中にとけこんでいるという印象を受けます。その秘訣は何なのでしょう。

錦織さん:やっぱり、教えてもらうという謙虚さ、つまりかわいげかなと。甘えたいなと思います。地域の方に、上手に甘えられるようになりたいな。
このインタビューが終わったら、2月に開かれる「雪まつり」の打ち合わせがあるのですが、地域の方が十数人来てくれています。僕がそんなに動かなくても、地域の方が企画を立ててくれます。そう考えると、地域の人に委ねるとか、甘えるとか、かわいがられたいなと思うところはあります。

―委ねる、甘えるといった姿勢は福祉をやっていく上で大切になるのでしょうか。

関原さん:福祉というよりかは、人と人とが関わっていく中で大切なことなんじゃないでしょうか。もともと地域で仕事をやっている人生の先輩と関わるときに、「自分関係ないですよ」って入り方をするのではなくて、「わからんのですわ」という謙虚で正直な姿勢が大切ですよね。

 このような姿勢は、地域農家への研修の場でもいきている。関原さんは今回の事業の中心人物として、地域農家のもとで、米作りを一から学んだ。研修期間は1年間。地域の色々な農家さんに弟子入りする機会が設けられ、田植え機だけではなく、ヘリコプターでの直播方法なども学べたという。また、海外まで視察に行ける機会もあったそうだ。

関原さん:ゆうゆうは、私が『ケアファーム※1』という農園視察のためにオランダに行かせてもらったように、必要なときに色々な機会を与えてくれます。

 こういった「農業スキル」を身につけるための取り組みからも、大規模農業始動に対する彼らの本気がうかがえる。

 彼らは今、社会福祉法人として国内最大規模の農業を通じた、利用者の新たな就業場所づくりを始めている。社会福祉法人がここまで本格的な農業を展開していくというのは、簡単な道のりではないはずだ。
 しかし、彼らは周りに何を言われようと、この新事業への挑戦をやめない。それは、地域の人ひとりひとりの想いを大切にしていきたいからである。

「美味しいものをつくりたい」
「何とかしなくちゃ」
「かわいがられたい」
彼らのこのような感情の中心には、いつも地域の人の存在がある。

「地域の人を笑顔にしたい」

町民に愛される彼らの地域づくりは、そういった素直でひたむきな姿勢が光っていた。

※1 ケアファームとは、「ケア(介護)」+「ファーム(農場)」。認知症や精神疾患を抱える人、発達障がいのある子どもたちなどに、デイサービスとして、野菜や果物の収穫、雑草を取るなどの農作業、飼育されている動物の世話、畜舎の掃除といった仕事を提供する場。


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