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舌の探求の原点となる機能性構音障害

こんにちは奥住啓祐です。

前回の「カルテの書き方」についての記事は1日で500アクセスとかなり驚きました。また4月にかけてカルテ特集をしていくのでお楽しみに!



今回はプレゼント記事となります。

様々なイベント等の中止発表を連日のように耳にします。

僕自身も専門職を対象にした研修や、福祉施設を訪問して施設の第3者評価を行ったりする関係で影響は大きいです。


また学校がお休みになったりするなか、様々な有料サービスが期間限定で無料公開されていますね。個人的にはCOOKPADのランキング機能が見えるようになったのは嬉しかったです。

言語聴覚士オンラインからもぜひ何か提供しようということで、「STパズルの動物偏」を今回提供させて頂きます。パソコンよりダウンロードをお願い致します。

10問あります。全問正解できるでしょうか?(結構悩む問題もあると思います)

難しかった方ようにヒントも用意しております。解答はこの記事の最後に



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さて、もともと3月はBridgeの小松さん、ASRINの石田さんとのコラボセミナー「PT OT STで考える食事動作」の研修を名古屋で開催予定でした。

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が、やはり今の名古屋の状況も踏まえ5月へ延期させて頂きました(写真は横浜)。

中止ではなく、延期ということで「5月にお会いしましょう!」でも良かったのですが、3月の研修を楽しみにされていた皆様へ、講師3人よりnoteの記事をプレゼントしよう!ということで、今回の記事を書きました。

記事の内容は「実際の研修の導入に繋がる内容にしよう!」ということで、自分が何を書くか考えていたとき、ふと、「僕の記事テーマは自分の原点にしよう」と思い至りました。(小松さん、石田さんの記事とだいぶテイストの違う記事かもしれません)


◇ 石田さんの記事(動画をたくさんプレゼントしてくれてます)

◇ 小松さんのプレゼント記事


この記事はST magazineに収録されてます。ST magazine は国内外の言語聴覚士が共同で執筆している月額500円のマガジンです。言語聴覚士が関わる幅広い領域についての記事や言語聴覚士の関連学会などについて、記事を配信しています。


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今回の記事内容で何か良いなと思うところがありましたら、Twitterのシェアや引用RTなどでご感想を投稿して頂けると嬉しいです。

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舌への興味の原点

PT OT STで考えるの研修における奥住の講義テーマは「咀嚼嚥下のための舌の評価とアプローチ」です。

Twitterでも「舌の人」みたいなイメージが定着しつつある?と思いますが、そもそも「何でそんなに舌のこと考えているの?」とたまに聞かれます。

これに対する答えは「好奇心」です。ただ好奇心を抱いたキッカケがありまして、

それは自分自身の発音の仕方が間違っている(機能性構音障害)と大学2年生の時に発覚したことに起因します。


誰しも「あの時はよく分からなかったけど、今考えるとあれが人生の一つの転機だよね」という出来事ってあるのではないでしょうか。


僕にとっては大学2年生のとき、当時の学科長であり言語聴覚士協会の会長である深浦順一先生に言われた一言


「君ちょっと来て、発音の仕方おかしくない?」


この瞬間が転機の一つ。

誰しもが当たり前のように話したり、食べたりしていると思います。ある日突然、「その発音の仕方間違ってるよ」と言われても、きっとすぐには理解できないでしょう。

僕自身も20年間、普通にその発音の仕方をしていたので、はじめは意味が分かりませんでした。

多くの方が舌尖で発音する「ら行」を僕は奥舌(カ行を発音するところ)で発音していたと知ったのは深浦先生から実際に評価を受けたとき。


当時、発音の時の口腔の筋の動かし方など授業で習っていたのですが、講義中も正しい発音の仕方とは違う戦略で自分が発音しているとは全く気付きませんでした。

口腔研修中の口腔機能セルフチェックでも、自分が”誤った舌の使い方”で嚥下していることに気付かない受講者は意外といらっしゃいます。


奥舌ではなく舌尖で「ら行」を発音する練習が始まりました。

20年間、奥舌でら行を発音していた僕にとっては、ら行を舌尖で発音するっていうのは、、、、舌で逆立ちしてってくらい最初は意味が分かりませんでした。

皆さん奥舌で「ら」って発音できますか?

おそらく皆さん「意味が分からない」と感じたのではないでしょうか。(もしかしたらSTさんなら上手くできるかも!?)

構音訓練は基本的には自主訓練中心、構音点の修正(奥舌ではなく舌尖で「ら」を発音する)が完了したら卒業。


やはり、話しにくさは残り、運動障害性構音障害の患者さんの構音訓練で行う「ら行」の音読は僕自身もかなり苦労しまして、

患者さんと「~られるって言いにくいですよね。一緒に頑張りましょう!」と話してました。


話し方、食べ方は意外とみんなバラバラ


さて、ここまで読んで「もしかしたら自分も他の人と違う発音や咀嚼嚥下の仕方をしているかも?」と考えた人は殆どいないでしょう。

口腔研修などで全国をまわりながらSTさんの口腔を見ていて、あることに気付きました。病気をしていない方(ST)であっても、発音の仕方、飲み方は驚くほどバラバラだったのです。

赤ちゃんもぐもぐ

写真は小児歯科での一コマ。病気をしていない方の口腔機能のバラツキは、実は赤ちゃんの頃から既に始まっています。

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赤ちゃんによって、いろんなハイハイ、寝返り、舌の使い方があります。もちろん高齢者の方をみていても、その口腔機能のバラツキがあるのは良くわかります。

発音の仕方も人によって異なります。母音の「え」が分かりやすいのですが、教科書通りに発音されている方のほうが少ないのでは?というくらい皆さん発音の仕方が違います。

ボールが自分に向かって飛んできたときの無意識の反応の仕方が人によって異なるように、食べ物などが口に近づいてくる時の、反応パターンも人によってバラバラ。

教科書でしっかり学習することはもちろん大切なのですが、それらを知った上で、

セラピスト自身も教科書に書いてある正常といわれる運動パターンを行っているとは限らないという事を知っていることも大切です。


人の機能は口腔を含めて全てグラデーション。

プロのスポーツ選手、声優のような高いパフォーマンスを発揮する人もいれば、そうでない人もいます。

例えば咀嚼や嚥下における戦略のバラツキの背景には、そもそも「どんな咀嚼嚥下の仕方を習得したか」という要因もあります。

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口腔機能のバラツキや、獲得した戦略の違いは小児歯科医院で赤ちゃんや子どもたちを見ていてよく感じることでもあります。


5月のPTOTSTで考える食事動作の研修では、この「食事動作(先行期~食道期)における舌の獲得した戦略の違い」を受講者同士で見ていきましょう。

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小松さんが作った5期モデルのイラストの下に、各期におけるいろんな舌の使い方のパターンを書いています。自分やグループの方がどんな戦略をしているかチェックしていきましょう。

おそらく会場に集まった方のうち 年齢に関わらず ”最低3割” の方は誤った舌の使い方をしている嚥下パターンに該当すると思いますが、その方はもれなく飲み込みやすくなる体験ができるのでお楽しみに。

今回は時間の都合上 講義の内容にはありませんが、口腔にはいろんな歴史が刻まれており、受講者同士でお互いの口腔をみていくと、赤ちゃんの時の様子が垣間見えるかもしれません。

過去ー未来

口腔から全身へ

2日目の午後はPT OT STでグループを組んで、実技を行っていきます(グループによっては2職種になるところもあると思います)。

STさんが口腔へアプローチしているとき、PTさんなどには胸郭や上下肢に触れて頂きます。そうすると口腔へアプローチしている時のリアルタイムな全身の緊張変化が分かり、とても面白いです。

もちろん、PTさんが下肢へアプローチしている時、STさんには口腔の変化をしっかり評価してほしいです。

口腔から全身、下肢から口腔などはお互い影響しあっており、身体のどこかにアプローチすれば、良くも悪くもいろんなところが変化します。

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たとえば股関節の外旋の動きを誘導するときに、股関節を楽に動かせる運動範囲を超えてセラピストが誘導したとします。この時に、口腔顔面の筋の緊張を高める戦略を用いて、股関節の外旋の動きを行おうとされる方がいます。

この際、PTさんが下肢しか観察していなかったら、この口腔顔面での代償運動に気付けません。多職種でのグループワークの中でもこういうケースの方を見つけられるといいですね。


発音の仕方を変えて12年

機能性構音障害とバレたとき、違う先生からは「20年続けた発音だから、話しにくさは一生残ると思う」と言われました。

それから12年。

深浦先生の構音訓練は半年(月1~2回)くらいで終わりましたが、その後も自分でいろいろ人体実験していくなかで、何か一つ新しい発見がある度に話しやすくなっていく感覚が今でもあります。

訓練を初めて8年目くらいの時は、疲れてくると話しにくさを感じていましたが、自分の安静時の舌の緊張の高さに気付き、それを抜く方法が分かってからは(口腔外からの舌の緊張調整法)、殆ど話しにくさを感じないです。

身体ってホントに面白いですね。新しい発見をするたびに、「どうアプローチするか」ではなく「自分の状態に気付く」ことがまず大事だと感じます。

機能性構音障害があったおかげで、口腔に関するたくさんの気付きと、講師としてお話するというありがたい機会を頂きました。

もし子どものときに自分の発音の誤りが見つかっていたら、今の経験や学び、生まれてきたアプローチ方法などは全てなかったと思います。

機能性構音障害が20歳までバレなくて良かったといま振り返って感じます。


今、研究で分かっていること。

経験則で分かっていること。

今後明らかになっていくこと。


時が流れていく中で、僕に出来ることはクライアントの今後の可能性を否定せず、「クライアントが自分自身のことに気付くお手伝い」そして「クライアントのやりたい事に向かって伴走すること」と感じています。

きっと研修までの2か月の間にも面白い口腔の発見がたくさんあると思います。それらを皆さんと会場でシェアできるのを楽しみにしています。

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最後に:当事者から学ぶ

機能性構音障害を通して、構音点の修正以外にもSTがアプローチすべきじゃないかな?という口腔のポイントも複数 見えてきました。「STが」と書きましたが、これは今後歯科と連携して全国的に取り組んでいきたいことになります。

大きなポイントの一つは「楽に開口できる」こと。多くの方が頑張って口を開けています。これについては言語聴覚士オンラインで行う、オンライン研修でもお話したいと思います。

「正しい方法での発音の仕方を覚える」ことだけを構音訓練のゴールに設定していたら必要性を感じないと思うのですが、

話すこと以外にも口腔が関わる活動は多くあり、一つ一つの活動への口腔の筋の影響を丁寧に評価することが大切だと、自分の経験や機能性構音障害の既往歴のある成人の方々との出会いから感じています。

この本は国際医療福祉大学大学院の学生向けの講義をまとめたもの。

講師は病気をされた患者さんたち。

これは定期的に読み返している1冊。

医療職は1人1冊持つべき本だと思います。

それでは5月に研修を受講される方は名古屋でお会いしましょう。


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☆次回STmagazine予告

カルテの書き方②を公開します。



公開中のST関連学会・研究会を掲載したSTカレンダーがとても好評です。このST magazineではSTカレンダーに掲載されている様々な学会に参加された方に「参加報告記事」の執筆を依頼させて頂いております。それにより幅広い専門領域について皆さんと共有することを目指しております。


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記事前半のSTパズルの解答はこちらからダウンロードをお願いします。

皆さんは何問正解できたでしょうか。

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国内外11人の言語聴覚士を中心に執筆。このmagazineを購読すると、言語聴覚士の専門領域(嚥下、失語、小児、聴覚、吃音など)に関する記事や、言語聴覚士の関連学会に関する記事を読むことができます。皆さんからの体験談など、様々な記事も集めて、養成校で学生に読んでもらえるような本にすることが目標の一つです。

国内外の多くの言語聴覚士で執筆しているので、言語聴覚士が関わる幅広い領域についての記事を提供することが実現しました。卒前卒後の継続した学習…

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