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【食】 お雑煮百景ー#001 「とらや」

お雑煮ーー。年に一度、実家でしか遭遇することのない料理に対してそこまで特別な思い入れもなければ、特段意識することもあまりなかったこれまでの約30年。それが今年は、ひょんなことからお雑煮元年となってしまったのです。

発端は、友人の投稿から「とらや」のお雑煮の存在を知ったこと。京都発祥のとらやらしく白味噌仕立てということで、すまし仕立てのお雑煮しか食べたことのない胃袋の好奇心を刺激され、翌日にさっそく帝国ホテル内の虎屋菓寮へ。


「とらや」お雑煮 1,650円 (税込)

蓋をあけた瞬間から、そのビジュアルに心を鷲掴みにされて心拍数が上がる。実物で初めて見る白味噌仕立てx 丸餅タイプのお雑煮、憧れの存在が目の前にいるという高揚感。
とろりと濃厚な甘めの白味噌ベースに、丸餅、海老芋、京人参、大根、鰹節。厳選された素材の一つひとつが丁寧に調理されていて、一口頬張ることに旨みが広がる。白味噌の上品な甘みの奥にきりっとした出汁の塩気を感じるベースは、想像よりこっくりと濃度が高めだけど、絶妙な塩加減でどんどん飲めてしまう。

世の中にはこんなに美味しいものがあったのかと、年始早々に出会えたことに深く感謝しつつ、まだ見ぬお雑煮たちと出会うべく、ここからお雑煮巡りが始まったのでした。


ちなみに、個人的お雑煮のおもしろポイントは、

・お正月にどの家庭でも食される定番料理であるにもかかわらず、家庭によって姿形がまったく異なる。私たちが共通認識として持っているのは「お雑煮」という概念のみ

・一つの料理でここまで地域差(都道府県レベルの)がある特殊性

・共通条件は「汁(つゆ)に餅が入っていること」かと思いきや、餅を入れない「もちなし雑煮」も存在するため、もはや何でもありなフリースタイル演技

・中に入る具材はその地域での特産品がベーシックだが、縁担ぎのダジャレで決まったものがあったりと、初代考案者の個性を感じる
(「菜(名)をあげる」、「よろ昆布」、大阪の「あきない雑煮」など)

・ほとんどは家族内の世代間でしか継承されず、一子相伝とも言える料理

・室町時代に武家と公家の祝い料理としてお雑煮なるものが誕生。江戸時代には各地域ごとのお雑煮が登場していたが、参勤交代によって江戸と地方の食文化交流が可能になったことで、江戸から地方へ、上流階級から庶民へと、全国で身分に関係なくお雑煮を食べるようになった

・異文化の取り込みによって異なる地域のハイブリッド種も生み出され、新しい形がどんどん生まれ進化し続けている、生きた伝統料理

などなど、掘り甲斐がありすぎるので、これからもゆるゆる毎年楽しんでいこうと思う。一年のうちで活動(実食)できる期間がかなり短いので、年明けから二週間くらいが勝負です。

何はともあれ、新年早々、ライフワークになりそうなものに出会えて嬉しい限り。

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