見出し画像

『目標共有』は何をもたらすのか?を日本企業の研究結果から見直してみた

OKRの特徴の一つは透明性であり、設定から運用まで常に全社公開、共有されます。OKRに限らず当たり前のように「目標共有することは良いことだ!」と言われていますが、あらためて目標共有が何をもたらしているのか?どんな研究があるのか?を主に日本企業を対象とした研究、調査から見直してみました。 
※本文中の図、および ” ” は該当の論文、書籍より引用しております。

目標共有は業績向上をもたらす

「縄田 健悟, 山口 裕幸, 波多野 徹, 青島 未佳(2015)企業組織において高業績を導くチーム・プロセスの解明」をもとに目標共有と業績の関係を考えてみます。

業種の異なる5つの企業、1,400人161チームが分析対象とした調査を実施されています。分析結果の考察として、下記が記されています。

”他成員を配慮し円滑な“コミュニケーション”を行うことを土台として,チーム成員間で目標を明確にし,情報を共有し,指摘しあうといった“目標への協働”が行われる。そしてその結果,実際の成果としてのチーム・パフォーマンスが高まる”

明確な目標を共有することでチームパフォーマンス、業績が高まるとも読み取れますが、情報共有や指摘し合いを行うことも業績に影響を与えていることも注目すべきポイントでしょう。

正月に一年の目標を立ててもすぐに忘れられるように、チームにおいても目標は設定だけでなくその後のプロセス共有や相談、フィードバックがあってこそ業績が高まることを再認識させられます。

ところで高業績チームができている目標共有とはどのような状態を指すのでしょうか?

先の研究をベースに書かれた「高業績チームはここが違う」にはこのように書かれています。

①チーム内で目指すべきビジョン・目標が共有できていること
②ビジョン・目標を達成するための道筋があきらかになっていること
③メンバー個々人の役割・職務がビジョン・目標と結びついていること

これらはまさにOKRの目指すべきところとも一致します。また当たり前のように見えることでもありますが、OKR導入時に様々なチームと接すると多くのチームでいかにこの目標共有ができていないか?を実感します。OKRの設定をチームで行う際に、この状態が顕在化して対話が進むこと自体がチーム力を上げる要因になると感じています。

目標共有はモチベーション向上をもたらす

続いては「多田 瑞代(2007)職場における目標の共有が仕事の動機づけに及ぼす影響」を見ていきます。

目標管理制度が個人の動機づけになるとされているが、実際には様々な課題があります。目標設定と動機づけについて多く言及されているが、目標共有、情報共有なども影響するのかを検討しています。

目標管理制度を導入している製造業の組合員2,466人が分析対象の調査です。

画像1


分析結果から下記が確認されています。

”目標設定だけでは目標による仕事の動機づけを説明するには不十分であることが明らかになった。(中略)目標管理においては、目標設定が動機づけに影響を及ぼし、また、目標の共有が動機づけに直接影響を及ぼすとともに、情報の共有を介して動機づけに影響を及ぼすことが確認された”

そして、その結果からこのような考察に至っています。

”企業の目標管理においては、目標達成プロセスに目標の共有という技法を取り入れることにより、組織内でのコミュニケーションを活発にし、仕事や目標に関連する情報の共有を促進することができ、また、情報が共有化されている組織の状況は個人の目標への動機づけを高めることができる”

期初の設定時に上司と部下で設定時の対話はが行われても、その後の共有にはあまり重点が置かれていません。OKRにおいても設定の困難さや適切さのみが強調されることがあります。しかしながら、やはり目標は共有があってこそモチベーション向上につながることが再認識できました。

目標設定は創意工夫をもたらす

最後に取り上げるのは「鈴木竜太(2011)職場における創意工夫のマネジメント」です。

進取的行動への影響を対象としているが、ここでいう進取的行動とは「組織にとってプラスとなるような与えられた仕事における自分なりの工夫や試みを行うこと」を指すとされていますので、タイトルにもあるように「創意工夫」と扱います。

大手製薬会社の研究開発部門810名53職場を分析対象とした調査です。

本調査分析で興味深いことは、

”目標の相互依存性は進取的行動に直接的な影響は示されなかった”

※目標依存性とは「目標が共有されている程度のこと」

一方で、直接的ではないものの影響を及ぼしていることがわかりました。

”目標の相互依存性の高い集団、つまり集団で目標が明示的に示され、その目標への責任が共有される集団においては、同時に仕事への相互依存性や集団凝集性も高くなり、その結果、信頼や個々人の責任感が醸成され、進取的行動を生むと考えられる”

また個人レベルにおいても個人目標だけでなく集団目標についてこのようなことが考察されています。

”自律性が高い個人においては、目標が集団で設定されることにより、その達成のためにより進取的行動が促進される”

とあります。

自律性が高いと集団目標がなくとも個人目標があれば創意工夫に影響がないようにも考えられますが、やはり集団目標が設定されることが大切なことがわかります。

さいごに

OKRのコンサルティングを行う際、全社、部門、個人レベルでの共有を必ず求めてきました。主な目的として、組織全体のベクトルを合わせ、協力が促進することをお伝えしています。

今回、目標共有が業績向上、モチベーション向上、創意工夫の促進をもたらすことを確認できたことで、よりOKRでの共有の大切さを再認識できたかと思います。(やや我田引水かとは思いますが、、、)

とはいえ、どの研究においても「目標共有」のみが決定的な要因でないとも書かれています。目標共有をファーストステップとして、組織状況、環境変化に合わせたコミュニケーション、マネジメントの進化を図り続けていきましょう。