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人的資本(Human Capital)の情報開示について~スターバックス、ディズニーを調べてみた

SEC(米国証券取引所)が、form10-K(日本の有価証券報告書にあたるもの)に「人的資本(Human Capital)の情報開示」を義務づけると昨年発表しました。

日本でも人的資本への関心が高まっていますので、数年後には日本でも開示が義務付けられるかもしれませんね。

実は最初のキャリアで、経理部で有価証券報告書を作っていました。そして、今は組織や人事に関わっているので、両面から興味を持ち今回調べてみることにしました。(英語は苦手なので、DeepLやGoogle翻訳に助けてもらいながらの意訳です、、、)

人的資本の情報開示は何をするのか?

SECは以下のように開示内容についてコメントしています。

A description of the registrant’s human capital resources, including the number of persons employed by the registrant, and any human capital measures or objectives that the registrant focuses on in managing the business (such as, depending on the nature of the registrant’s business and workforce measures or objectives that address the development, attraction, and retention of personnel).

(参考訳)

登録者(以下、企業)が雇用する人の数を含む企業の人的資本資源の説明、および企業が事業を管理する上で重視する人的資本の措置または目的(例えば、企業の事業の性質に応じて、人材の開発、誘致、および維持に対処する労働力の措置または目的など)。

残念ながらこれだけだと、開示の担当者は何を書いてよいか?困ってしまいそうです。

そこで、実際にどのように開示されている内容を見ていきます。個人的に興味のあるスターバックスとディズニーを取り上げてみました。

人的資本の開示例:スターバックス

Starbucks Corporation(以下、スターバックス)のform10-K(有価証券報告書)はコチラ

人的資本については、「Human Capital Management」というタイトルで、7ページから1ページ半に渡って記載されています。(原文は上記リンクから確認ください)

まずは序文から見ていきましょう。

スターバックスのミッションは、企業として、卓越したユニークな商品やサービスを提供することで優れた業績を上げるだけでなく、事業を展開する地域社会との強いつながりを生み出すことにあります。
私たちは、従業員の強さが、目的を持ってリードするグローバルブランドとしての成功に大きく貢献していると考えています。これは、主に当社のパートナー(従業員)がお客様を歓迎し、包容力のある環境を作るために日々努力していることによります。
したがって、当社の基本戦略の一つは、競争の激しいスペシャルティコーヒー市場において、当社のブランド、製品、サービスを差別化するために、パートナー企業への投資と支援を行うことです。

序文に続く項目については、タイトルに続き要約のみを書いていきます。

Oversight and Management(監視とマネジメント)

多様性を認識し公平な環境をつくる原則に基づき、採用、雇用、育成、報酬など人事マネジメントを行っています。取締役会、報酬・経営開発委員会、リスクマネジメント委員会、コーポレートガバナンス委員会が各種テーマの監視とマネジメントを行っています。
また定期的にパートナーにリーダーシップ、福利厚生、業績向上などの匿名調査を行っています。この結果をフィードバックしエンゲージメント向上を図っています。当経営陣とクロスファンクショナルチームは、パートナーの定着率、職場の安全性、ハラスメント、いじめなどの人的資本管理の問題を評価し、実施するために緊密に連携し、リスクを軽減するための対策を講じています。

Total Rewards(総合的な報酬)

私たちは競争力のある給与、賃金を提供しています。また株主とパートナーの利益を一致させるため、厳格なストックインセンティブプログラムのもと制限付き株をパートナーに提供しています。
さらに、資格のあるすべてのパートナーに、地域に密着した包括的で革新的な福利厚生を提供しています。(米国を中心に各国での事例をいくつか紹介)

Role-based Support(役割に基づくサポート)

パートナーの成功のために、継続的なトレーニングと成長の機会を提供しています。セキュリティー、新製品、テクノロジーなども含まれますが、これらに限ったものではありません。目標設定、フィードバック、お客様やコミュニティとのかかわり方など、様々なトピックが含まれます。
インクルーシブな文化を促進し、お客様により良いサービスを提供するために、米国では大学と提携し、偏見や差別に対処するために作成したコースへの登録を奨励しています。

Pay Equity(同一労働同一賃金)

常に現在のビジネス環境と労働市場を評価し、報酬や福利厚生プログラムなどを改善しています。当社は以前にも、米国、中国、カナダで同様の業務を行う男女別賃金の公平性を達成しており、当社が運営するすべての市場で男女別賃金の公平性を達成することを約束しました。
2020年9月27日現在、スターバックスは全世界で約349,000人を雇用しています。米国では、約228,000人を雇用しており、そのうち約220,000人が直営店で、残りはコーポレートサポート、店舗開発、焙煎、製造、倉庫、配送業務に従事しています。
米国外では約121,000人の従業員が雇用されており、そのうち約118,000人が直営店で、残りは地域サポート業務に従事しています。
労働組合に代表されるスターバックスのパートナーの数はそれほど多くありません。スターバックスの強い文化や会社とパートナーの間の良好な関係が証明するように、従業員マネジメントが効果的であったと考えています。

人的資本の開示例:ディズニー

つづいてThe Walt Disney Company(以下、ディズニー)の人的資本の開示について、form10-Kを見ていきます。

人的資本については、「Human Capital」というタイトルで1ページ後半から1ページに渡って記載されています。(原文は上記リンクから確認ください。)記載形式はスターバックスとは異なり、章立てにはなっていません。

まずは序文から見ていきましょう。

当社の人的資本管理(human capital management)の主要な目的は、最高品質の人材を引き付け、維持し、育成することです。
これらの目的をサポートするために、会社の人事プログラムは、将来の重要な役割や指導的地位に備えるた人材育成をするように設計されています。
:競争力のある給与、福利厚生、特典プログラムを通じて従業員に報酬を与え、サポートします。
:職場をより魅力的で包摂的なものにすることを目的とした取り組みを通じて、会社の文化を強化します。
:優秀人材を獲得し、社内の人材の流動性を促進して、高いパフォーマンスで多様な労働力を創出します。
:当社のコンテンツ、製品、体験のブランドアンバサダーとして従業員を巻き込みます。
:従業員が仕事できるようにテクノロジー、ツール、リソースを進化させ、投資します。

以下は、内容の区切りごとにタイトル(原文にはないため私が勝手につけます)と要約を書いていきます。

従業員数

2020年10月3日現在、約203,000人を雇用しています。当社のグローバルな従業員は、正社員が約80%、パートタイムが約20%で構成されており、パートタイムの約1%近くが季節従業員です。2020年10月3日現在、約155,000人の従業員がパークス、エクスペリエンス、プロダクト部門で働いています。

従業員向けプログラム

多様な人材を惹きつけ、育成し、維持することに重点を置いた主要なプログラムやイニシアチブの例をいくつか紹介しています。

【Diversity and inclusion (D&I). 多様性と包括的】
私たちのD&Iの目的は、観客の人生経験を反映するチームを構築すると同時に、コンテンツに多様な声を採用してサポートすることです。
(いくつかの事例紹介が続く)

【Health, wellness and family resources.  健康、ウェルネス、家族のリソース】
ディズニーの福利厚生は、事業や地域を超えた多様な従業員の多様で進化するニーズを満たすように設計されています。 今年は、従業員とその家族の繁栄を願った、特にCOVID-19に対応して、従業員自身と家族のケアを支援する方法を強化しました。
(いくつかの事例紹介が続く)

【Disney Aspire. ※ディズニーの教育プログラムの名前】
教育と自己啓発を通じて、時間給社員の長期的なキャリア志向をサポートします。 私たちは授業料を支払い、急速に変化する職場や労働力のために設計された学位プログラム、コーチング、ジョブスキルを提供することで、時間給社員がキャリア目標を達成できるよう支援することを目指しています。
(1億5000万ドルを投資し、授業料、書籍、教育費の100%を賄うなど、いくつかの事例紹介が続く)

【Talent Development. 能力開発】
多数のトレーニングやプログラムを通じて、従業員の成長とキャリア開発をの提供に優先的に投資しています。これらのプログラムには、オンライン、インストラクターによるトレーニング、OJT、グゼクティブや後継者育成などが含まれます。

【Community & Social Impact.  コミュニティ、社会への影響】
私たちは、困っている人々に快適さを提供し、世界を改善したい人々にインスピレーションと機会を提供することを約束します。その一つの方法として、独自の従業員ボランティアプログラムDisneyVoluntEARSがあります。

COVID-19による人的資本への影響

COVID-19ふくむ環境変化により、当社は雇用制限、一時解雇、人員削減など、人員配置の効率を高めています。
パークス・エクスペリエンス・アンド・プロダクツを中心に約32,000人の従業員の雇用は2021年度上半期で終了します。2020年10月3日現在、約37,000人の従業員が、一時解雇となりました。

さいごに

人的資本(Human Capital)の情報開示の例として、スターバックスとディズニーのform10-Kを見てきました。
共通点は、従業員数の明示、ダイバーシティへの言及がなされていることがあります。特にダイバーシティについては、企業としての姿勢を示さなければいけないのでしょうね。
その他の項目は、各社の裁量で書かれているので、各社ごとの人的資本への取り組み姿勢、重点方針を知ることができます。

両社とも1ページ程度、かつ具体的な数字は従業員数中心でした。投資家への情報公開、つまり投資判断への影響を考えると、このような開示が本当に投資判断に影響するかはやや疑問もあります。

とは言え、Human capitalに限らず非財務情報の開示は幅広く求められるようになってきました。こういった開示を進めることで、企業の姿勢を正すきっかけには十分なると思われます。また、もっと積極的で有益な開示をする企業が現れ出すと投資判断への影響も大きくなっていくのでしょう。

また、機会を見ていくつかの事例を見ていきたいと思います!

(以前、有価証券報告書を作成していたので、これからの担当者の負担は大変そうだな、とは思いますが、、、)