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戦略から考えるOKR

OKRは「Objectives and Key Results」の略称で、目標設定、管理の手法です。日本でもITベンチャー系企業を中心に広まり、近年では花王、静岡銀行など様々な企業で導入が進んでいます。
OKRの意義について、GoogleにOKRを伝えたジョン・ドーア氏は著書の中でこのように記しています。

OKRはみなさんの最も重要な目標を明確にする。全員の努力のベクトルを合わせ、協力させる。組織全体に目的意識と連帯感をもたらし多様な活動を結びつける。

OKRを正しく設定し運用すると、組織で重要なことに焦点を絞った方向性に全員の努力が集中します。その結果、人も組織も高い成果を上げることができます。

OKRを設定し運用するためには、方向性を明確して成果を上げる「戦略」を正しく理解する必要があります。

良い戦略とは何ですか?

戦略を理解する上でぜひともおすすめしたい本が「良い戦略、悪い戦略」です。

同書によると、良い戦略には基本構造として「診断」「基本方針」「行動」があります。

①診断
状況を診断し取り組むべき課題を見極める
②基本方針
診断で見つかった課題に取り組むため大きな方向性と総合的な方針を示す
③行動
基本方針を実行するための一貫性のある一連の行動のこと

そして、このようにも書かれています。

戦略の要諦はフォーカスにあるが、多くの大企業はリソースをフォーカスできないからだ。彼らはいくつもの目標を同時に追いかけるので、結局はどれも達成できない。

企業において経営戦略が重要なことは言うまでもありません。限られた経営資源を用いて、熾烈な競合との競争に打ち勝ち、市場で信頼を得るために、戦略が重要になり、フォーカスすること、つまり厳しい選択を行う必要があります。

さらに近年は「正解のない時代」「VUCAの時代」など呼ばれ、変化は激しさを増しています。そのため、過去に有効であった戦略がすぐに陳腐化してしまいます。そのため、高頻度で厳しい選択を繰り返さなくてはいけません。

「診断」に、高頻度でメンバー全員を巻き込む

厳しい選択を行う前に、戦力、戦況、戦場を見極めることが欠かせません。変化の激しい時代、トップダウンで戦力、戦況、戦場を見極めることは困難です。

メンバー全員が実行した戦略について、しっかり振り返ることが診断の第一歩です。設定した目標に対する達成度合いを確認するだけでは不十分です。

「最前線で起こっている変化の兆し」「トップが思いもよらぬ成功事例」「当初想定できなかった失敗」「複雑に絡まった問題解決の糸口」こそが、組織の学習となり、精度の高い診断をもたらします。

また、最近注目の心理的安全性があってこそ、メンバーは失敗も含めて振り返りを共有することができます。また、高い心理的安全性のもとで組織も個人も学習しなければ、組織の成長にもつながりません。

そこで、OKRでは定期的なチェックインとOKR再設定時の振り返りをメンバー全員が高い心理的安全性のもと運用することが求められます。振り返りを組織全体で診断に活用するためには、組織の透明性を高く保たなければなりません。

「基本方針」をOKRで組織の隅々まで浸透させる

コンサルティングを行っている中で、OKRの設定はトップダウンか、ボトムアップかと質問を受けることがあります。正直に答えると、スタートはどちらでも問題ありません。

大切なことは対話とすり合わせを繰り返し、全員の理解が一致することです。戦略、基本方針が浸透するとは、経営者から一般の従業員まで自分の目指す目的、目標が齟齬なく理解できていることです。

私がコンサルティングをする中で、最も多い事例はトップが幹部と相談しながら、診断に基づいた次年度と次四半期の方針とOKRを示します。それに基づき部門長が課長と部の次四半期OKRを設定します。そして、課長とメンバーで課の次四半期OKRを設定します。

このプロセスで重要なことは2つあります。まず課のOKRの作成は課長だけで行わず、メンバーと一緒に設定することです。課のOKRの設定に参加することでメンバーの納得度、理解度が深まります。この設定プロセスで「チームの一員であること」を、強く認識することになります。ちなみに、DIAMONDハーバード・ビジネス・レビューの記事によると、「チームの一員」という意識は、従業員エンゲージメントを高める重要な要素です。

もう一つ重要なことは、各レベルのOKRは同じレベルや下位レベルのOKRと対話しすり合わせるための期間を設けることです。上位OKRに合わせて下位OKRを調整することが多いのは事実ですが、下位OKRや同列のOKRからも学びがます。また抜け漏れや認識のズレを合わせることも必要です。さらに、すり合わせ調整をしなければ、OKRはトップダウンで押し付けられた目標に過ぎません。あまり長い時間をとっては本末転倒ですが、各レベルのOKRを設定段階で公開し、齟齬、疑問は極力つぶし同じ方向を向いて、次の四半期を向かえます。

「行動」の素早いリズムが組織を変える

ジョン・ドーア氏は著書の中でこのようにも述べています。

アイデアを思いつくのは簡単。実行がすべてだ。

基本方針がOKRによって隅々まで浸透することで、実行をする一歩手前までは来ています。しかしながら、毎年の正月に立てた目標が忘れ去られるのと同様で、一歩先に進み行動を起こす、そして行動し続けることは、困難を伴います。

OKRは設定の難しさに目を奪われがちですが、多くの失敗事例は運用に原因があります。OKRでは運用のための場を高頻度で作り、組織に「行動」のリズムを作り出します。フィードバックと学習を早いスピードで繰り返すことで組織のスピードを上げることができます。

適切でリズムよく運用するために、3つの場があります。まずは、上司と部下が2人で行う「1on1ミーティング」です。そして、チームで週の初めにOKRのスタートを切るための「チェックイン」、週の終わりにチームメンバーと承認、称賛しあう「ウィンセッション」を行います。

このように素早いスピード感については、「1兆ドルコーチ」の中でこう記されています。

率直なフィードバックのカギ は、待たないことだ。

高頻度で実施するからこそ、待たずに素早くフィードバックが可能となります。メンバー全員で素早いリズムを築きましょう。

戦略の先に「目的」を見据える

戦略は単に競合に勝つためにのみあるのでしょうか?仮にあなたの会社が競合に打ち勝てば、それだけで喜ばしいでしょうか?

本当に喜ばしい瞬間は、戦略の先にある組織とメンバーが協力して目指す理想に近づいたときに訪れると思います。

OKRでは野心的な挑戦、ムーンショットが求められます。ムーンショットな発想をするためには、まず現状の延長線では到達できない理想的な未来を描きます。未来から逆算して、1年後、3か月後に到達したい場所、それがOKRです。決して過去からの延長線上にある、今の方法を積み上げていけば到達できる場所ではないのです。

理想的な未来こそが、組織とメンバーが共有する目的であり、戦略の先に見据えるものです。

理想的な未来、共通の目的を考えるヒントとなるのが、ドラッカーによる「経営者に贈る5つの質問」です。

①我々のミッションは何か?
②我々の顧客は誰か?
③顧客にとっての価値は何か?
④我々にとっての成果は何か?
⑤我々の計画は何か?

どの質問も非常にシンプルだが、いざ考えると難しい。さらに組織、チームで一緒に考えると、その難易度は何倍にもなります。

同書では、いみじくもOKRで気を付けるべきポイントが網羅されており、特に④⑤はOKRに直結します。マネジメントの側面からOKRを見つめなおす上でも、ぜひお読みいただくことを推奨します。

悪い戦略を炙り出す

戦略は立案段階では仮説に過ぎず、実行するまで成否は分かりません。しかしながら、実行前であっても、明らかに「悪い戦略」は存在します。

「良い戦略、悪い戦略」では、悪い戦略には4つの特徴があると書かれています。

①空疎である
戦略構想を語っているように見えるが内容がない。華美な言葉や不必要に難解な表現を使い、高度な戦略思考の産物であるかのような幻想を与える。
②重大な問題に取り組まない
見ないふりをするか、軽度あるいは一時的といった誤った定義をする。問題そのものの認識が誤っていたら、当然ながら適切な戦略を立てることはできないし、評価することもできない。
③目標を戦略ととりちがえている
悪い戦略の多くは、困難な問題を乗り越える道筋を示さずに、単に願望や希望的観測を語っている。
④まちがった戦略目標を掲げている
戦略目標とは、戦略を実現する手段として設定されるべきものである。これが重大な問題とは無関係だったり、単純に実行不能だったりすれば、まちがった目標と言わざるを得ない。

はじめてのOKR設定で「悪い戦略」に気づくことは、メンバーだけでなくリーダーであっても難しいです。しかしながら、二度目の設定に向かう振り返りで自分たちのOKRが「悪い戦略」に当てはまっていることに自ずと気づき、次のOKRでは修正が行われます。

ただ、悪い戦略に気づき、対話し、すり合わせ正しい戦略とOKRを設定するプロセスは、面倒で困難が伴います。その困難に打ち勝てず、OKR自体を中断する企業も少なくないです。

しかしながら、悪い戦略に気づかずにそのまま突き進む時間と、面倒でも悪い戦略を炙り出し、良い戦略、良いOKRを磨き上げる時間と、どちらが有意義かは明白です。面倒、困難を避けずにOKR設定の場で、率直に意見を出し合う対話を行うことが大切です。

まとめ

OKRは目標管理手法であるが故に、人事評価制度と誤解されることが多いです。OKRの本質は戦略を組織に浸透させるマネジメント・ツールであり、コミュニケーション・ツールであると考えます。

一方で、戦略の先に描く目的は、組織とメンバーの理想を共有したものでなければなりません。また、戦略実行の成果は、決して組織だけにメリットがあるものではなく、個人の成長、やりがいにもつながっている必要があります。

理想の未来に向かうために戦略を実現すべく、各メンバーが意欲的に取り組み、その努力のベクトルを合わせ、協力させるため。そのための手段がOKRであると言えるでしょう。


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