ゴロヴニン著『日本幽囚記』感想

ロシアの海軍士官ゴロヴニンらが1811年から1813年にかけて日本に抑留された記録です。

外国人の目から見た江戸時代の日本の様子を垣間見ることができて、大変興味深かったです。

井上満氏の本は巻末に注や日本側の資料が沢山載っていて、大変参考になります。

こちらは旧仮名遣いです。

現代文での訳も読みたくなり、斉藤智之氏の訳本も読んでみました。

こちらは英語版を底本としていて、ロシア語版で削除された部分の訳があり、これも良かったです。

・良いと思うのだけど妙だとも思ったこと

日本側が捕まったゴロヴニン達に同情の目を向けたり、親切にしたりする描写がありまして、最初読んだときはいい感じだと思っていたのですが、彼らが捕まった原因、数年前のロシア人による日本襲撃のことを考えると、おかしいようにも思えてしまうのです。

ロシアが日本に敵意を抱いている、と考えて警戒する間宮林蔵の方が、もっともなように思えるのです。

いい感じとは思うのですが。

いい感じだとは思うのですが。

・アイヌ語通詞、上原熊次郎

この本の中に登場する通詞(通訳)の一人、上原熊次郎で、別の記事にも書いたのですが、アイヌ語の大家だったということに驚きました。『ヲロシヤ通詞:村上貞助略伝』で知ったのですが。アイヌ語辞書の編纂者でもあったということで、結構すごい方だなと。

『日本幽囚記』では、ロシア語の覚えが悪くてゴロヴニンからめちゃくちゃに批判されておりまして、その印象が非常に強かったものですから、最後の方までいるのが少し不思議に思っていたくらいだったのです。これ、今考えると失礼だな、と思っております(汗)。

・ムールについて

捕まったロシア人士官のうち、ムールという人について色々思うところがありまして、というのがこの人、途中でロシアに帰ることをあきらめてしまうのです。それで日本側で働きたいとか考えて、ロシア人たちの脱走に加わらなかったり、日本側にヨーロッパの事情を説明した書状を提供したりしていたのです。

これが意外に思いまして、これが捕まったのがこの人ひとりきりだとか、他の仲間と連絡がとれない、というのならまだしも、そういうわけではないので、なんでそんなことを、という感じで色々考えたのです。

若くて士官なのに、と思ったのですが、いや、若くて士官だから、そんなことをしでかしたのか、と思ったのです。若くて能力があるから捕まった先の国でもやっていけるのではないかと思ってしまった。


世界的によく知られていない、大部分の国とは国交を持っていない、悪い情報もある国に捕まった、

はじめの方は厳しい取り扱いだったが、だんだん良くしてくれている、

色々親切にしてくれる人たちもいる、

その地の役人は帰国させてくれるよう政府に頼むつもりだと言ってくれている・・・


これは「思っていたより、悪くないかも」と考えてしまったのかな、と思いました。


とはいっても、母国に帰らず、捕まった先の国で生活しようと考えるなんて、相当病んでいたんだろうな、と思うのです。いわゆるストックホルム症候群というやつではないか、と思いました。

これが日本でなく他の国の話なら、捕まえた国から、こちらで働くように密かに誘いがあったのでは、と考えたかもしれません。

最初のほうこそ、艦長をフォローしているのですが、艦の上でともに働いていたときとは同じ目で艦長を見れなくなってしまった、この災難の責任者である艦長に恨みを持つようになってしまった、というのもあったのかも、とも思いました。

自分が常々考えている、

「人間は状況次第なところがある」

「極限状態だと、人は何をしでかすか分からない」

ということに当てはまるので、色々考えてしまうのだと思います。

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