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くそつま本読書会(前編)個人書店に関わる自分たちこそ「投資」を知るべき

ヤマザキOKコンピュータさん(ヤマコンさん)の『くそつまらない未来を変えられるかもしれない投資の話』、通称『くそつま本』。今回、この本を発売当初から応援してくれていた汽水空港のモリテツヤさん、REBEL BOOKSの荻原貴男さん、『くそつま本』の装丁を担当した惣田紗希さん、ライターの小沼理による読書会を実施。前編では本を読んで実践したこと、それぞれが生活する街で感じたことなどをうかがいました。(構成:小沼理)

参加者プロフィール


●荻原貴男
REBEL BOOKS店主。1979年生まれ、群馬県高崎市出身。本屋の傍らデザイン業もやってます。

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●惣田紗希
グラフィックデザイナー/イラストレーター。栃木県在住。音楽ジャケット、書籍、パッケージなどのデザイン、イラストを手掛ける。

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●モリテツヤ
1986年北九州生まれインドネシア&千葉育ち。汽水空港乗務員。建築現場、執筆、焼き芋販売など雑多な物事を組み合わせてどうにか生きている。

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●小沼理
1992年富山県出身。ライター・編集者。カルチャー系のメディアなどで色々執筆。

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福岡の海で一緒に塩を作った

小沼:みなさんはヤマコンさんや『くそつま本』のことは何で知ったんですか?  僕は『仕事文脈vol.12』でヤマコンさんが書いていた「投資家パンクス」の記事が強く印象に残っていて、『くそつま本』が出た時にインタビューをさせてもらったのがきっかけなんですが。

モリ:僕は2年くらい前に塩を一緒に作りました。

小沼:なんで塩を……?

モリ:なんでなんだろう(笑)。ヤマコンさんがどういう人かもわからないまま、福岡の海に「塩を作りに行こう!」という話になったんですよね。で、ついて行ったらヤマコンさんが火起こしの達人で。ライターも使わずしゅしゅしゅ……って火起こしをしていたのを覚えてます。

惣田:楽しそう(笑)。私はもともとシリーズ3/4の装丁をずっと担当していて、それで今回の『くそつま本』の装丁にもかかわりました。

荻原:ヤマコンさんとは面識がなかったんですけど、本のことは発売前から知っていました。惣田さんがREBEL BOOKSに来てくれた時におすすめしてくれたんですよね。

惣田:REBEL BOOKSでは著書の『山風にのって歌がきこえる 大槻三好と松枝のこと』やシリーズ3/4などタバブックスの本をたくさん置いてくれていて、さのかずやさんの『田舎の未来 手探りの7年間とその先について』のトークイベントも開催していました。『田舎の未来』と『くそつま本』は根底で通じ合っている気がしていて、あの本を面白がれる本屋さんなら『くそつま本』もはまるだろうと思ったんです。そうしたら案の定爆売れみたいで(笑)。

荻原:最初に注文した分があっという間に売れて、何度も追加で発注しています。もうREBEL BOOKSだけで40冊以上売れていて、今でも売れ続けていますね。

投資はお金が大好きな人のものだと思っていた

小沼:最初に読んだ時の印象を教えてください。

荻原:パンク精神とお金のことを両立させて書いているところにすごくはまりました。本でも書かれているけど、僕も投資ってお金が大好きな人がするものだと思っていたんですよ。だから最初に本のタイトルを見た時は「どうなんだろう?」って。でも、惣田さんが勧めてくれるんだから普通の投資の本ではないだろうと読んでみたら、むしろ個人書店をやっている人や、そこに集まる人たちこそ投資を知るべきという内容でした。一読してものすごくファンになりましたね。
 お金の使い方にはこれまでも意識的だったけど、持ち方についての話は盲点でした。銀行に預ける以外に方法はないと思っていたけど、それを投資に変えることで世界を面白い方向に変えられるのは「そうか!」と思いましたね。

モリ:ヤマコンさんが投資をやっていることを知ったのは、塩を作って遊んだあとだったんです。投資という言葉の圧が強くて、その時はヤマコンさんが何をしようとしているのか、あまり興味が持てなかったんですよね。だけど『くそつま本』を読んだら、普段自分が言っているのと同じことが書かれていました。「やった! 良い本出た〜!」と思って、そこからはもう汽水空港では配るような気持ちで売っています。この本を読んでもらえれば、自分がわかりづらい言葉で周りの人に言っていたことが伝わると思いました。

小沼:僕も最初はそうだったけど、「投資」という言葉に抵抗感がある人は多いですよね。惣田さんはどうでした?

惣田:3/4シリーズは『仕事文脈』で書いていたキャラが濃い人の話が集約されるものだと受け身が取れる状態だったので(笑)、投資という言葉を見ても引っかかることなく「今回はこういう感じなんだな!」とすんなり受け入れて読みましたね。
 『くそつま本』はお金の仕組みや、自分たちで流れを作らないと変わっていかないという話がすごくわかりやすく書かれていると感じました。「まずは生活コストの見直しから」と書かれていたので、ゲラを読んですぐスマホを格安SIMに乗り換えました(笑)。ヤマコンさんがやっているメディア「サバイブ」の記事も見ながら、書いてあることを一人で色々実践しましたね。

小沼:僕も読んだあとにソフトバンクからUQ mobileに乗り換えました(笑)。プランにもよるけど年間で7〜10万円くらいは浮く計算になって、もっと早くやればよかったと思いました。
 『くそつま本』でも書かれていますが、お金って妙に「汚い」イメージがありますよね。でも、同時に誰かの行為や作ったものに価値を感じていることを伝えるための手段でもある。だからしっかり考えて使うのは大切だと思ってはいたものの、その先のこととか、資本主義の構造の部分は一人ではうまく言語化できなくて。その漠然としていた部分をわかりやすく書いてくれた本だと感じます。

お金の流れを意識すれば、もっと良い街を作っていける

モリ:汽水空港は鳥取県の湯梨浜町という田舎町にあるんですけど、ここで暮らしているとすべてが絶滅危惧種なんですよ。たとえば映画館。「パープルタウン」っていうイオンの最下級クラスみたいなショッピングセンターがあるんですけど、その中にある3,40年前に作られた映画館が、このエリア唯一の映画館です。ここが潰れたら、多分設備の整った映画館はもう現れない。だからみんなで手入れして支えないといけないという危機感を感じています。
 その映画館が上映するのは有名な作品が多いんですけど、たまにミニシアター系のすごく良い作品を上映するんです。その時に感動してスタッフの方に感謝を伝えたら、「本当はこういう作品を上映したいんだ」と言っていました。映画館を続けていくためには有名な作品を上映する必要があって、人が入らないかもしれないマイナーな作品はリスクが高いんだと。
 それを聞いて、観客側から「こういう映画が見たいです」とリクエストして、できるかたちで協力したりすることで上映してもらうことは可能ですか? と提案してみました。そうしたら「ありえる」と言ってくれたんです。そんな風に、誰もが何にお金を使いたいのかをもっと意識していけば、身近な映画館が良い映画館として残っていくのにと思いました。

小沼:投票する感覚ですよね。映画館であれば、ミニシアター系の映画を見に行くことでお金がめぐっていくし、「こういう作品を上映するところを支持していますよ」と伝えることにもなるし。
 『くそつま本』では、ヤマコンさんが中学時代に好きで通っていたお弁当屋さん「たきたてマック」のことが書かれていました。高校生になって同級生となんとなくコンビニやファミレスにばかり通っているうちに気づいたら閉店してしまっていて、「自分がもっと通っていたら違っていたかもしれない」と思ったと。

モリ:自分が本屋をやっているのは、場所があることで検索では出合えない本を知ることができたり、東京に行かないと聞けないような人のトークイベントに地元で参加できたりする機会を作りたいという気持ちが大きいです。その可能性をみんながもっと求めてくれたら、もっといいかたちで場所を存続できるのにな、と常に感じています。『くそつま本』に書かれていることをみんなが意識すれば、それだけ良い街を作っていけるんじゃないかな。

「まあいいや」で使うお金は一円もない

小沼:お話を聞いていて、もしかするとその意識は地域によって差があるかもしれないと感じました。僕は東京に住んでいるんですが、人が多いからかつい「自分が支える」という意識が薄くなってしまうことがあって。

荻原:REBEL BOOKSは東京から新幹線で1時間ほどの群馬県高崎市にあります。東京に比べると街の規模はやっぱり小さくて、少ない人数で良いお店を支えている構造があると思います。
 10年ほど前に東京から高崎に戻ってきたのですが、僕自身も高崎に来てからは「“まあいいや”で使うお金は一円もない」という気持ちで日頃から過ごしていますね。どこにお金を使うか考えたら、すごく残ってほしいところでしか使えないなと感じています。

惣田:今のお話を聞いて、昨年の緊急事態宣言中のことを思い出しました。個人経営のお店でテイクアウトして応援する、という動きが全国的に広がりましたよね。個人経営の喫茶店が好きなので、よく行くようにしていました。
 私は栃木県の足利市に住んでいて、これまでと同じように東京に行くのが難しかったので、そのぶんREBEL BOOKSに行ったり、里山社さんなどがまとめていたオンラインで買える個人書店の一覧から本を買ったりしていました。買い物自体が投票、という気持ちはコロナで強くなったと感じます。
 同時に、なんで消費者だけが支えているんだろう? と強く感じたのもこの時期。もっと国が補償すべきじゃないかとか、根本的なところを考えることも必要ですよね。

モリ:汽水空港のある周辺にはいくつか面白いスペースがあるんですけど、コロナの時期、そのうちの一つが休業することになったんです。それで、営業をやめる代わりにクラウドファンディングをすることになりました。
 そのクラファンは僕も支援したんですが、同時にディスらずにはいられなくて。あの時「自粛と補償はセットだろ」というのが盛り上がったけど、僕はクラファンと政府への文句もセットだと思うんですよ。クラファンで助かるのは、それまでにブランドを築き上げたり、有名だったりする人ばかり。だけど困っているのはみんな一緒だから、助からない人のためにも政府に意見を言っていかないとおかしいでしょ、と。スペースをやっているのは友達だったから、実際にその考えも伝えたんですけどね。

惣田:緊急事態宣言中、汽水空港さんの『Whole Crisis Catalogをつくる。 Vol.1』も買いました。

モリ:あっ、ありがとうございます!

惣田:これは汽水空港で開催された、参加者が自分自身の困っていることを出し合いながら政治について考えたミーティングの議事録なんですけど、本当にそれぞれの困りごとがあって。お互いに知ることで共有できるし、たとえば地元の議員の方に渡してみることもできる。今度私の地元でも同じことをやってみたいと思っているんです。そうして働きかけることで自分が思い描く未来に近づくことができるし、それは『くそつま本』とも通底するテーマですよね。

―後編に続きます!内容はこういった感じです
・店を閉じたら、生活が楽になった
・「やっていけんの?」と聞かれるけれど
・くそつまらない未来かどうか、自分で判断する
・いい本屋はカルチャーに触れるための希望の場所
明日12時公開予定です。お楽しみに!

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