(連載)「聞く」という仕事/辻本力 第11回 「緊張」との付き合い方(仕事文脈vol.24)
ライターという仕事をしていると、いわゆる著名人の取材をすることがある。それは時に、自分にとって憧れの人であることも。そんな時、私は舞い上がって「あっ、えーと、そのー……」とアワついてしまい、取材どころではなくなってしまう……というようなことは、実はない。ファン気質のようなものをほぼ持ち合わせていないからなのかどうなのか、心の内で「おお、俺は今、あの人から話を聞いているのか……!」と静かに興奮していることはあっても、おそらく傍目には淡々と通常営業で取材をしているように見えるはずだ(というか、そう願いたい)。
では、取材で緊張をしないのかといえば、そんなことはない。まったくない。なんなら取材相手が誰であろうと、毎回それなりに緊張する。それは生来が緊張しいだからなのか、あるいは「取材とは、その人の貴重な時間を頂戴することである(ゆえに本気で取り組まなければ失礼だ)」という職業倫理がプレッシャーになっているのか、そのへんは自分でもよく分からない。
そんなこともあり、今でも取材前は極力食事はしない。緊張からお腹が痛くなるのを恐れているからだ。ただ、夕方からの取材とかだと空腹で頭が回らなくなるので、さすがに軽食くらいは口にする。ただ、食を楽しむ余裕はないので、チョイスはほぼドトールのミラノサンドA一択である。稀にBにすることはあるかもしれないが、少なくとも限定メニューなどはまず選ばない。変にイレギュラーなものを食べて、心を動かされたくないのだ。比較的どこにでもあって、無心に近い状態で食べられて、かつボリューム的に腹に負担がかからない——そんなドトールのミラノサンドAは、私の取材メシとして確固たる地位を築いて久しい。つまるところ、可能な限り平常心でいられるよう心がけることで、緊張を緩和しようという腹なのである。
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