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ヤマザキOKコンピュータ×宮川真紀『くそつま本』対談 本を作ること、良いエネルギーをめぐらせること

 ヤマザキOKコンピュータさん(ヤマコンさん)の『くそつまらない未来を変えられるかもしれない投資の話』、通称『くそつま本』。20年6月に本が発売されてから半年以上が経つ今でも、じわじわと売れ続けています。今回は、本を出したタバブックス代表の宮川真紀さんとヤマコンさんが対談。本の反響や最近気になっている投資のニュース、これからのことなど聞きました。(構成:小沼理)

すぐ使えなくなる本は作りたくなかった

——『くそつま本』の発売から半年以上が経ちますが、今でもたくさん反響が届いていますね。

宮川:そうですね。読んだ人は感動しまくってる感じ(笑)。「布教したい」「人にすすめたくなった」って声もたくさん。複数冊買ってくれている人もいます。

ヤマコン:前提知識がなくても読めるように書いたから、人にすすめやすいのかもしれない。投資信託「ひふみ」を運営するレオス・キャピタルワークスの藤野英人さんなんて30冊以上買っていろんな人に配ってくれたみたいだし、SNSでもドカンと宣伝してくれて。この前の読書会でもいろんな人がすすめてくれて、ありがたいですね。

宮川:お金に興味がなかった人も投資をやっている人も、どちらも読んでくれているよね。ちょっと売れるとアンチのコメントが来ることも多いけど、今の所『くそつま本』はそれがほとんどない。

ヤマコン:表紙やタイトルでフィルタリングしてるからですかね。自分とは豊かさの概念が違うような、投資はお金のリターンがないと意味がないと考えている人はそもそも読んでいないのかも。

宮川:投資コーナーで手に取ったら、具体的なことが書いてないって思う人はいるかもしれない。まあでも、そういう人向けの本はすでにいっぱいあるから。

ヤマコン:法律もころころ変わるから、俺は具体的な商品やテクニックはインターネットに、古くならないお金の情報は本に書くのがいいなと思ってました。すぐに使えなくなっちゃう本は作りたくなかったから。『くそつま本』の最初に書いた経済や資本主義のことはなかなか書く場所がなかったから、形にできてよかったです。

——他の投資の本は、賞味期限の短いものも多いんですか?

ヤマコン:そうだと思います。プログラミングとかの本もそうだけど、ずっと使えるものは一部で、ほとんどはその年いっぱいしか使えなかったり。

宮川:じゃあ、作る方も1年で売り切るつもりなんだ。

ヤマコン:書く側や出す側からしたらそのほうがたくさん刷れるし、仕事として安定しそうですよね。金融や投資の本は入れ替わりが激しいと思います。

宮川:そのぶんたくさん作らないといけないし、タバブックスではやらない作り方ですね。

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良い出版社から出して、良い本屋で売ってもらうのが大事

ヤマコン:タバブックスで最初に作ったのってどんな本だったんですか?

宮川:フリーの編集者時代に別の出版社から出して絶版になった本の新装版ですが、 最初に一から作ったのは『仕事文脈』です。はじめた時はそんなこと考えていなかったけど、結果的には書籍化の企画や人が集まってくる場所になりました。

ヤマコン:俺も『仕事文脈』に書いた文章の続きみたいなイメージで勝手に書き進めて、ある日突然書き終わった原稿を宮川さんに送って。めっちゃ自由にやらせてもらいました。

宮川:本当に、ほぼ完成した状態のものが届いた(笑)。すごいよね。なかなか出したいかたちで本を出すのって、特に大きな出版社の場合は難しいと思うんですよ。出版社のカラーもあるし、実績のない新人の本を出すことがそもそも冒険でもあるし。

『くそつま本』もそうだけど、タバブックスで作っている<シリーズ3/4>は、これがはじめての著書になるケースが多いです。文筆以外の仕事をしている人も多いから、「本を書きませんか」というと大変に感じる人も多いけど、これなら分量も少ないから気軽にはじめられる。新人さんのスタートとしてちょうどいいかなと。

ヤマコンさんは、タバブックスじゃなくてビジネスや投資の本をたくさん出している出版社から出す可能性もあったんじゃない?

ヤマコン:いくつかお誘い頂いてました。でもビジネス書系の出版社だと、この本に書いたようなことは求められなかったと思います。

仮に、何書いても良いので本出しませんかって言われたとしても、その場で契約するメリットが書き手にはない。完全に自分で企画して自分で書くなら、ひとりで勝手に書き進めていって、書き終えた時点で一番条件のいい出版社から出せばいいですから。先に約束しちゃうと、書いている間にもっといい出版社に出会う可能性もありますから。わがままですが、この本はタバブックスとの相性が一番良いと思って、宮川さんにお願いしました。

くそつま本のメインテーマのひとつに、お金やエネルギーの流れについての話があります。良い会社が作った良い物を良い店で買うことが、自分好みの未来に繋がっていくっていう話。これはそのまま、くそつま本の流通にも置き換えられる。新品のくそつま本が売れるたびに1400円+税のお金が動くわけですが、ざっくり言えば、ここから流通コストや印刷コストを抜いたものが、俺とタバブックスと書店に流れることになりますよね。買い手から見たときに、読んで良かったと思える内容のものを書くのは当たり前として、お金払って良かったって思えるかどうかもかなり重要だと思うんですよ。ここが無視されがちで。自分が支払ったお金が、好きな個人書店や好きな出版社が存続していくためのエネルギーになったら、それ自体も自分の未来へのリターンとなり得ます。

最初に宮川さんから本書かないかってお誘いいただいた時点で、そういう風に実社会にインパクトを与えられるものが作れないかなっていうインスピレーションが湧いてきました。本文を書き終わってからは、ベルリンの香山哲さんに相談して、俺と気の合いそうな書店で、友達になれそうな人が手に取りやすいような表紙になるよう、調整していきました。

『くそつま本』には自分の意見をフルで書けたから、読者の方も、俺の考えをある程度わかった上で連絡してくれたり、会いに来てくれたりする。昔からの友人や周囲の人たちも読んでくれて、おかげさまで自分自身もめっちゃ生きやすくなった気がしていますね。書いて良かったです。

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いろんなコーナーに置かれる『くそつま本』

宮川:『くそつま本』は本屋でもいろんなコーナーに置かれているんですよ。投資コーナーにあることもあれば、エッセイ、自己啓発の棚にあることも。

ヤマコン:タイトルが自己啓発っぽくないから、自己啓発の棚にあると、「店員さんちゃんと読んでくれたんだな」って感じしますね(笑)。

——いろんなところに置かれるほうが、本と出会うきっかけが増えていいですよね。

ヤマコン:そういうランダム性があるのは良いですね。Twitterではフォローしている人の意見しか目に入らなくなるけど、その反対のことが起きるというか。

——あと、本屋さんの個性にもつながるのかもしれないと思いました。「ここの棚で、こういう読者に届けたい」というイメージが明確にあるのはわかりやすいけど、そればかりだとどの本屋も似通ってきてしまう。

宮川:そうですよね。ただ、どのコーナーに置けばいいかわからない本って扱いにくいと思います。タバブックスの本はカテゴリーがはっきりしない本が多いから(笑)すみません、という感じです。

書店宣伝用のチラシにはどのコーナーに置いてほしいか書くんですけど、「エッセイ」「人文」「投資」とかいっぱい書いて、とにかくどこかには引っかかるようにしています(笑)。

ヤマコン:それでもなかなか10万部とかは売れないんですよね。この前東京で挨拶に行った本屋さんは、「体感では10万部売れてます!」って言ってたけど(笑)。

宮川:ビジネス書の広告で「何十万部突破!」と書かれているのをよく目にしますけど、ああいうの誰が買ってるんだろうって(笑)。

ヤマコン:知らない世界ありますよね。名前も聞いたことなかったYouTuberがチャンネル登録者数100万人とか、普通にありますから。

「経済回す」ってなに?

宮川:そういえば、最近投資のことで気になったのが、アメリカのゲームストップ株騒動。

ヤマコン:ありましたね。ざっくり言うと、いいとこ取りしようとした大手のヘッジファンドを個人投資家が取引でリンチしたみたいな。

宮川:悪いやつが大損してめでたしめでたし、みたいなね。でも、コロナで不況なのに株価が上昇しているのっておかしくない?

ヤマコン:諸説あるけど、お金の信頼が下がっているのが大きいと思います。新型コロナによる不況で大企業が潰れはじめたら国として再起が難しくなるので、いまはどこの国も政府と中央銀行が結託して、市場にお金を供給しまくってます。この世に出回るお金が増えるってことは、自ずと株価も上がることになります。これを繰り返して、バブル崩壊をつぎのバブルで防ぐイメージ。

このままお金を刷り続けたらインフレが起きてバブルが崩壊するのが目に見えてるので、現金よりも株や貴金属や仮想通貨で持っておきたいと思う人も多い。それによってまた株価が上がる。

お金の価値を担保しているのは国、株価なら企業、仮想通貨だったらプログラムになるわけですよね。日本の信頼が下がると、円の信頼も下がります。相対的に株価は上がるけど、別に上場企業が期待されているわけじゃなくて、お金の価値が下がっているっていう風に自分はとらえています。

宮川:なるほどね。でも、元手があって投資ができる人はいいけど、現金でやっていかないといけない人はどうしたらいいんでしょうね。

ヤマコン:うーん、元から資産を持っていない場合、お金の価値が動いても生活はあんまり変わらないんじゃないですか。職がなくなっていくのが心配ですけど。NEO POGOTOWN(ヤマコンさんが沖縄で運営するオルタナティブスペース)に来ている学生でも、4社から内定をもらっていたのに全部なくなったっていう人がいました。俺の世代も大学の卒業と東日本大震災のタイミングが重なって内定取り消しになった人がたくさんいたけど、厳しいですよね。

俺も一部のジャンルは収入が減りました。まあ色々やってたので何とかなっていますが。個人で稼げる口をいくつか持っているとしぶとくなれますよね。でも収入源をいちから育てるのは時間がかかりますから、即効性がある節約を優先的におすすめします。格安SIMとか節電とか地方移住とか、ひとつひとつは地味ですけど、固定費の節減は長期間たった後にとてつもなく大きな差が開くので、かなり重要ですよね。あとは分散投資も資産を丈夫にする効果が期待できるので、お金を増やすとか、出し抜くとかじゃなくて、しぶとくやっていくためにおすすめしてます。

宮川:不況になると、「自分だけ勝ち抜けば良い」って発想が影響力を持ちやすくなるのはどうしたらいいんだろう。それこそ、成功した芸人とか実業家とか。それはこの前の読書会で、汽水空港のモリさんが大学生から『くそつま本』の感想をもらった時に聞いた「悪いやり方でも雇用を生んでいるからいい」みたいな考え方ともつながっている気がする。

みんな見聞きしたものの影響を受けるじゃないですか。コロナでも、政治家がテレビで連日「経済を回さないといけない」と言ってたら、今度はそれを聞いた人が街頭インタビューで「いやあ、でも経済は回さないといけないですから」と答えるようになる。

でも、みんな本当にそんなこと思っているのかな? そもそも「回すってなに!?」と思っちゃう(笑)。回すこと自体が目的になっているのも違和感があるし、普通に生きている人が世界の経済を回さないとって発想になるのも、見えているものが違う感じがする。

「社会を変える」は小さくでいい

ヤマコン:読書会のモリさんの話で、生徒の感想で「みんなが好きに暮らしていたら社会がまわらない」っていうのもありましたね。そういう考え方が間違っているとは思わないけど、俺とは現実の捉え方が違うなと思う。俺にとってはみんなが好き勝手に生きられない社会のほうが現実的じゃないから、そっちをなんとかしたい。

「社会を変える」って言う時の、社会って人によってめちゃくちゃ違うなと思ってて。俺はけっこう小さいんですよ。

宮川:そう。小さくていいのにね。

ヤマコン:俺が思う社会はかなり小さいから、俺みたいな普通の、何も特別じゃない人間が救っていいんですよ。でも、社会って言ったら世界全体のことだととらえる人も多くて。そうするとハードルが高くなりすぎて、結局何もできなくなっちゃうのかも。もっと自分本位で、小さくていい。

宮川:みんな好き勝手にしちゃいけないとずっと教わっているし、「やればできる」とか、「一番を目指せ」とか、いろんな美徳を刷り込まれている。それが組み合わさって大きくなりすぎて、変な方向にいっちゃうのかもね。

何人かでも困っていたら、それは社会問題

——タバブックスは、『くそつま本』以外も「小さく社会を変える」ことを書いている本が多い気がします。

宮川:ほとんどの本がそうかもしれません。『仕事文脈』だって、仕事って言っているけど働いていない人もたくさん登場している。そこには、それでも生きていけると伝えられたら読んだ人が安心できるんじゃないかって思いがあるし。

ヤマコン:山下陽光さんの『バイトやめる学校』だと、服のブランドとか、自分で何かやりたいけどそれだけでは生計が立てられない人への具体的なアドバイスが書かれていました。社会に同じ立場の人は何万人もいないだろうけど、何人かいればそれだけで社会問題。その解決につながる本があるのは、良いことだなと思います。

宮川:山下さんのブランドの「途中でやめる」の洋服はすごく安くて、手作りで一点ものなのに数千円。儲けは少なくなるけど、「手作りだから高い」って固定観念を取っ払おうとするところも良いですよね。

あと、栗原康さんの『はたらかないで、たらふく食べたい』は、栗原さんの専門の政治学やアナキズムに、消費や贅沢が大好きだった彼女に振られた自分の失恋体験とかを織り交ぜながら書いた本。「俺が振られたのは新自由主義が悪い!」みたいなね(笑)。こんな風に、普段考えもしなかったところで社会と自分がつながる本も多いかも。

ヤマコン:『くそつま本』もそうですしね。政治と生活、経済の仕組みが地続きにあるっていうか。

——そう考えると、タバブックスはこれまでも広い意味でのお金の本を作り続けていますよね。

宮川:そうそう。お金好きなんですよ(笑)。実はファイナンシャルプランニング技能士3級も持ってるし。

ヤマコン:FPさんなんだ。

宮川:今はもう資格の証明書もどっか行っちゃったけど、昔不動産投資の人の本を作った時に勉強したんですよ。でも、FPの仕事ではたとえば家計をチェックするためにライフプラン(人生設計)を考えてみるんですけど、だいたい何歳で結婚して、何歳で第一子が誕生して、家を購入するみたいなテンプレがあって。人それぞれだからなあっていうのは思ってました。

あらゆるマジョリティとマイノリティが共存できる未来

ヤマコン:今はどんな本を作っているんですか?

宮川:韓国のフェミニストのイ・ミンギョンさんが書いた、『失われた賃金を求めて』という本を作っています(2月16日発売)。韓国は男女賃金格差がOECD加盟国中で不動のワースト1位なんですけど、「不動のワースト2位」の日本と事例がそっくりなんですよ。日本人が読んでも共感できる内容だと思います。

ヤマコンさんは何かこれからやりたいことはあるの?

ヤマコン:最近は場所作りに取り組んでいます。沖縄県沖縄市のNEO POGOTOWNっていうお店にほとんど毎日いて、その中で喫茶店を始めたんですよ。なかなか「みんな来て!」って気持ちにはならないけど、それでも毎日何組かは来てくれていて。

最近、アメリカ人の4人組がよく来るんです。ひとりひとり人種が違うんですけどすごく仲が良くて、フリースペースで勝手にUNOやって遊んで、本棚に勝手にUNOを置いて帰る(笑)。他にも、毎週来てくれる家族が自分たちで持ってきたボードゲームで遊んだり、俺の作ったコーラやコーヒーを飲んでくれたりとか、いろんなことが同時に起きてる。そのほどよいカオスがめっちゃ良いんですよ。

NEO POGOTOWNのお客さんは人種も性別も思想もいろいろで。あらゆるマジョリティとマイノリティが共存できる場所ってテーマで運営しているんだけど、まさにその通りの場所になっている。さっき例に挙げたボードゲームの家族には小学生もいるんだけど、同じ空間でいろんな人種の人が同じように遊んでたら、他人種への精神的な壁がなくなっていくんじゃないかと感じています。

そうやって、当たり前にみんながいる状況が作れるといいなと思っています。だからしばらくは今の場所で、みんながもっと自由にいられる空間を作りつつ、文章を書いたり、路上に誰でも食べられる野菜を勝手に植えたりしつつ、自分好みのいい暮らしを作っていきたいですね。

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