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飲食店経営|3つの必修スキル


大成功を確信できるほど斬新で優秀なアイデアを持っていたとしても、自身でそれを具現化する力がなければ単なる机上の空論に終わってしまいます。

信頼する先輩経営者にアイデアについて相談をしたら、内容だけ盗まれて連絡が途絶えたなんて恐ろしい話も聞いたことがあります。

他の誰でもない自分自身が経営するお店だからこそ、自らの力で実現すべきだし、本人もそうしたいと考えているはず。

今回は飲食店での独立を目指している方が開業するまでの間に必ず習得しておきたい重要な3つのスキルについてご紹介していきたいと思います。

① 調理のスキル

まずは何より初めに必要になるのが調理に関するスキルです。

飲食店である以上、料理を提供することは必須条件であり、調理スキルの習得を避けて通ることはできません。きっと『こんな料理を出すお店がしたいなぁ』と膨らませているイメージもあることでしょう。

すでに少なからず飲食店での勤務経験がある人は、どのような調理スキルがあれば飲食店を回していけるのかということが、ある程度は感覚でつかめているかと思います。

ですが、全くの未経験者はおそらく客席から眺めている想像と実務は大きくかけ離れている可能性が高いです。ただ、この場でお伝えしたいのは想像よりも大変で体力的にもキツいですよなどといった類の話ではなく、あくまで必要な能力についての話です。

【飲食店経営に最低限必要な調理スキル】
・ 最低限度の調理技能
・ 正しい衛生管理の知識
・ 魅力的なメニューの開発力
・ オペレーションの構築力
・ ロス管理能力

[最低限度の調理技能]
調理技能は高いに越したことはありませんが、○○ホテルの料理長やテレビに出てくるような有名シェフをイメージする必要は全くありません。

もっと言えば、中華鍋をカンカンと勢いよくふる中華料理店の大将や自家製のピザ生地を手際よく延ばしているイタリア料理店のスタッフ程度のスキルすらなくても繁盛店を運営していくことは可能です。

開業までに最低限習得しておくべき調理技能レベル街場の居酒屋チェーン店で働いている中堅アルバイトくらいあればとりあえずOKです。

・ 包丁を使い、食材のカットやスライスならできる。
・ レンジやオーブン等の調理機器を手際よく扱える。
・ それなりに見栄えの良い盛り付け方の知識がある。
・ フライパンや鍋を使った簡単な基本調理ができる。
・ ごく一般的な野菜の下処理くらいなら分かる。

この程度なら少し努力すれば習得できそうですよね。

お店を開店してからでも料理の勉強は続けられます。まして毎日、調理現場で働き続けるわけですから経験を積み重ねることで、本人に学ぶ意志さえあれば料理の腕も確実に上達していくはずです。

近頃は既製品半加工調理品などの業務用食材も多種多様なものが出回っており、高級ホテルの厨房ですら、そういった半加工品を大量に活用している時代です。

既製品だからといって特別に料理の質が低いなどということはなく、もはやお店では最後の仕上げだけをすればメニュー化できるところまで完成された半加工品が比較的安価に入手できるため、それらをうまく活用することで必ずしもハイレベルな調理技術が必須になるということはありません

とはいえ、自身の調理スキルと店の料理レベルは確実に比例することになります。自分の理想とするメニューを理想通りに作れるくらいの調理技術は最低限習得してから開業されることを強くおすすめします。


[正しい衛生管理の知識]
飲食店を経営するにあたって衛生管理は正直、調理技術なんかよりもはるかに重要です。

人が口から体内に入れるものを積極的に提供する場所になるわけですから集団食中毒などを起こしてしまうと大変です。最悪の場合、意図せず殺人を犯してしまう可能性すらあるわけで、万一そんなことにでもなれば店の存続どころの話では済みません

弁護士が法律について熟知しておく必要があるように、飲食店の厨房を取り仕切る人間が食中毒の起こる要因やそれらの予防法について熟知しておくことは絶対的な責務といえます。

食中毒には様々な発生要因があり、人的なものから食材の成分に起因するもの、温度や湿度などの環境によるものなど多岐に渡ります。そしてそれらの防止策を確実に実行していく義務があります。

面倒だからといって衛生管理を疎かにする者に飲食店経営をする資格はありません。保健所で必要な許可をとったから良しではなく、実は人の命を預かっている職業であるという認識を常に忘れないでください。


[魅力的なメニューの開発力]
自らの調理スキルの範囲内で、いかに魅力的なメニューを開発できるかがお店の成功を左右する大きなカギとなります。

魅力的なメニューを考案する方法はまた別記事で詳しく紹介するつもりですがメニュー作りの参考になる情報を広く収集し、それらをノートなどにまとめていくという資料作りは今すぐにでも始めておくべきです。

現代はSNSでの情報発信が盛んですので、例えばインスタグラムなどで専用アカウントを作って自身のイメージに近いお店を検索し、地域に関わらず片っ端からフォローしておき、日々流れてくる多数のお店の料理写真や店舗情報を閲覧するだけでも非常に参考になるはずです。

面白いメニュー自店に取り入れてみたい情報があればノートやPC内にメモしておき、必要があれば画像なども保存して残しておくと良いでしょう。

ちなみに僕は国内に限らず、海外の飲食店やレシピサイトなどもフォローして斬新な盛り付けや新しいメニュー作りの参考にしています。

自分の頭の中だけでオリジナルメニューを試行錯誤するのも悪くはないですが個人の引き出しには限界があります。世に溢れている様々な情報源から遠慮なくヒントを得て、気になったものに自身のオリジナリティを肉付けしていったほうが、より可能性が広がるのではないでしょうか。

優れた調理技術などなくとも、たった一品の大ヒットメニューを開発することができれば、それだけで一生食べていくことすら可能になるかもしれません。


[オペレーションの構築力]
魅力的なメニューを作ることができたとして、今度はそれを現場で実際に販売していくために確実で効率的なオペレーションを構築する必要があります。

どこまでを事前に仕込みしておき、調理に関わる他の材料はどのような状態で保管し、オーダーが通ってからは厨房内のどこでどのような道具を使い、どんな工程や道筋を経て、お客さんの手元にまで届けるのか。

自分のお店であれば当然このような作業の流れも自身で組み上げる力が求められます。しかも、これはお店で提供する全メニュー1つ1つに対して細かく設定確認しておく必要があります。

作業台や調理機器の設置場所、調味料や食器の配置まで綿密に考えておかなければ効率の悪いオペレーション生産性が低下し、機会損失が発生してしまったり、お客さんからの料理が遅いというクレームにもつながり兼ねません。

また、オペレーションは調理だけでなく、あらゆる店内業務についても考えなければなりません。

下げてきた食器が洗浄されて食器棚に戻るまでの流れや、ドリンクオーダーが通った際の流れ、レジ精算カトラリー(箸やスプーン)の設置場所や補充の流れ、ゲストが入店してから退店するまでの動線など店内で起こりうるあらゆる動きを想定し、それに適した配置や作業工程を考えるスキルが必要となります。


[ロス管理能力]
売るために用意していた食材が使われないまま傷んでしまって廃棄することになる。こんなに無駄でもったいないことはありません。

お客さんの選択肢を広げるためにとメニューをたくさん用意していても次から次へと商品を廃棄していては、やがて確実に事業を継続していくことが難しくなります

そこで重要になるのが食材ロスを出さないための仕組みづくりです。

【食材ロスを出さないための管理手法例】
・ 提供するメニューの品数を最小限にまで絞る。
・ 一食づつ小分け冷凍し、注文毎に解凍して使う。
・ 一度の仕込量を必ず使い切れる量にまで減らす。
・ 真空機を導入して食材自体の保存期間を延ばす。
・ 食材の兼用メニューを増やして無駄を出さない。
・ 半加工品を活用し、生鮮食品の使用量を減らす。
・ 食材の端切れも廃棄せずに使い切る工夫をする。

他にも様々な工夫がありますが自店の料理のクオリティやお店のコンセプトがぶれたりしてしまわないよう、一定の水準を保ちながら調整していくことが大切です。


② 接客のスキル

たとえ、どんなに美味しい料理を出していても「あなたからは買いたくない!」とゲストに嫌われてしまったら、その時やその後の売上だけでなく、それまでにかけてきた宣伝費用や集客の工夫やメニュー開発のために捧げてきた血のにじむような努力が全て水の泡と化してしまいます。

商品に力を注ぐのは良いですが、それらは全て接客のスキルが伴ってこそ意味を成すということを理解しておかねばなりません。

もちろん接客レベルを高めるテクニック、身につけておくべきマナー知識は大量に存在しますが、これも調理同様、お店を開店してからでも本人に学び続ける意欲さえあればメキメキと力を伸ばしていくことは可能です。

開業までに最低限、身につけておきたい接客のスキルは一つだけです。

【飲食店経営に最低限必要な接客スキル】
・ ホスピタリティマインド

ホスピタリティマインドあらゆる接客サービスの基本であり、本来は地球上で日本人がもっとも得意としている考え方でもあります。

分かりやすくいうと『思いやり』や『おもてなし』の精神です。

ルールに則り、誰に対しても全く同じ対応をするマニュアル対応に対し、相手がどんな状況で何を求めているのか、何に困っていて何を知りたいのかなど相手の要望を知ろうとし、常に相手を軸として接遇する考え方こそがホスピタリティマインドです。

マニュアル対応にも『不公平さが発生しない』、『スムーズかつスピーディに応対が終わる』など一定のメリットもないわけではないですが、これからの時代の飲食業界に見合った接客法であるとは到底いえません。

AIやコンピューターの技術
が飛躍的に進歩し、多くのサービスの自動化や無人化が進む中、機械でもできるような単調な応対をしていては人間が接客する意味がなく、わざわざあなたの店を選んで来てくれたゲストの期待にも柔軟に応じてあげることができません。

時代が無機質な方向へ向かっているからこそ、人間にしかできない細やかな気配り心配りふれあい臨機応変なおもてなし精神が重要視されるのです。

料理で多少の失敗をしても敬語の使い方がヘタでも店内で不測のトラブルが発生しても常に相手のことを思いやるホスピタリティマインドに溢れた接客サービスさえ心がけていれば多くの場合、ゲストは機嫌よく笑顔で退店し、再びあなたのお店を訪れてくれるはずです。

味は普通だけど、この店は店員さんの接客サービスが心地いいから』という理由で何度もリピートしてもらえる場合も多く、またその逆で『味は良いけど接客態度が悪いから二度と行かない』という場合も多々あるということを肝に銘じておきましょう。


③ 経営のスキル

魅力のあるメニューがスムーズに提供でき、ホスピタリティに溢れた接客ができていればお店を繁盛させることは可能かもしれません。

それなりに忙しい1ヶ月の営業をこなし、必要な支払いを全て終えた後に改めて手元の通帳を見ると…おや!?

まさか不思議なほどに現金が残っていない

正しい経営のスキルを身につけられていないと上記のように、たとえお店が繁盛していても自身の儲け(利益)が確保できない、もしくは黒字経営でも現金のやり繰り(キャッシュフロー)ができなくなるということが経営の現場では日常茶飯事に起こり得ます

飲食店経営に最低限必要な経営スキル
・ 経営の基本構造を理解しておく
・ FLコストと比率のコントロール

[経営の基本構造を理解しておく
経営を続けていく上でもっとも重要なことは少しづつでも確実に利益を積み重ねていくということです。

この利益を生み出す仕組みを単純な式に表すと以下のようになります。

利益 = 売上 − 原価 − 経費

お店で稼いだお金(売上)から料理に使った原材料やドリンクを仕入れたお金(原価)を引き、さらにお店の家賃や水道光熱費、アルバイトスタッフの給料や消耗備品の購入費などのお金(経費)を差し引いて結果的に手元に残ったお金が利益ということになります。

普通に考えれば当たり前のことなのですが、こういった基本的なお金が発生する構造を理解しておくことが経営を進めていく上では、とても大切になります。

なぜなら利益が出なくて困っている時や今よりもっと利益を増やさなければならないという時に、この構造が頭に入っていれば取るべき手段やどこに問題が発生しているのかを正しく分析できるようになるからです。

例えばこの構造式を見れば、利益を上げるためには単に売上を上げるという手段だけではなく、原価か経費を下げることでも利益を上げられるということが分かります。また、売上があるはずなのに利益が出ないということは原価の設定経費に問題があるということが分かるのです。

さらに、この式の中にある『売上』の部分だけを切り取っても以下のような式で表されます。

売上 = 客数 × 客単価

売上を上げるためには、客数客単価どちらか(もしくは両方)を伸ばせば良いということ、逆にいえば、それ以外の方法はないということがはっきり示されています。

さらに、この式にある『客数』や『客単価』の部分だけを切り取っても以下のような構造式が成り立ちます。

・ 客数 = 新規客 + 既存客 + 紹介客 × リピート率
・ 客単価 = オーダー数 × メニューの平均単価

客数を増やすためには新規客を増やすのか、既存客を増やすのか、口コミなどでの紹介客を増やすのか、はたまたリピートしてもらう回数を増やすのか、いずれかの検討をしなければならないということが分かりますね。

このように一つ一つを掘り下げていくと一冊の本並みの量となってしまいます上、そもそも僕自身もまだ経営については勉強中の身であり、人に向けて偉そうに講釈できるレベルにありませんのでこれ以上は割愛しますが、こういった飲食店経営に関する基本構造については開業するまでにしっかりと学んでおくべきだと実際に苦しみもがいた経験者として進言します。


[FLコストと比率のコントロール]
経営スキルの中でも僕が特に重要だと考えているのが、このFLコストをコントロールする能力です。

ある意味、これさえ正しくできていれば他の経営に関する知識がなくても、どうにかお店は維持していけるのではないかと思うくらいです。

どこぞの飲食店で管理職を任されているような方にとっては改めて聞かされるのも馬鹿らしいくらいの常識かもしれませんが大事な項目ですので触れておきたいと思います。その辺の話はもう充分に理解してるよという方はどうぞ以下は読み飛ばしてください。

【FLコストとは】
= Foodの略で、食材原価や材料費のこと。
= Laborの略で、人件費のこと。
FLコスト = F+ L の合計費用。
FL比率 = FLコスト ÷ 売上 × 100

それなりの売上があるにも関わらず、このFLコストの管理が疎かで赤字になってしまっている店舗は少なくありません

飲食店のFL比率の目安は一般に55%~60%が適正だと言われています。

それぞれのコストにおける大雑把な適正範囲は以下の通りです。

・ F比率(食材原価率)… 25%~40%
・ L比率(人件費率) … 20%~30%

数字に幅があるのは適正なコストが業態によって多少異なるからです。

人件費率が高くなるのは接客サービスの品質が重要になる専門レストランのような業態で、弁当販売店のようにテイクアウト比率が多くなるほど材料費の比率が高くなる傾向があります。

ちなみにこれらの値は必ずしも低ければ良いというものではありません。

確かに低ければ低いほど利益は上がりますが、それだけ質の悪い料理やサービスを提供しているということにもなり、一番肝心な売上そのものが下がっていってしまうからです。

初めての独立開業にもっとも多い着席型小規模飲食店の場合ですと料理の原価(Fコスト)はコストパフォーマンスを重視して約33%人件費(Lコスト)は可能な限り抑えて約25%。合わせて58%前後のFL比率を目標としてコントロールするくらいが理想的といえるのではないでしょうか。

どんなに売上の調子が悪いときでも、このFL比率を最大65%くらいまでに必ず留められるコントロール能力があれば長く安定した経営を続けていくことが可能になるかと思います。

小さな飲食店の人件費は1ヶ月に100万円を売り上げても150万円を売り上げても、あまり変わらない場合が多い(運営人数の最低ベースが決まっている)ため、売上が良ければ自然と下がり、売上が悪ければ嫌でも上がります

対して食材原価ロス管理さえしっかりできていれば、店全体の売上よりはメニューの価格設定の方が数値に大きく影響します。つまり、お店側が自ら操作しやすいのはFコストということになります。

売上が立たず、FLコストの比率が上がってきた時は、まずはスタッフを減らせる時間帯などを見極めて可能な限りでLコストを削減した上で、品質を大きく損なわない範囲でFコストの見直しを計っていきます。

同じ食材でも仕入先を変更したり、発注ロットを変えてみたり、レシピの内容を一部変更するなどして料理の原価を下げる工夫をします。

それでも数値が収まらない時は販売価格の値上げや利益率の低いメニューを排除するなどの手段も検討していくことになります。

ただ、あまりに比率を守ることだけに比重を置き過ぎると、お店の魅力がどんどん失われ、さらに集客力が低下してしまうといった負のスパイラルにも陥りかねませんので、飲食店経営者にはその繊細な見極めも含めたFL比率のコントロール力が求められます。


上記のような経営スキルを学んでいく上で僕が参考になると思う経営初心者向けの推薦書籍を以下にいくつかご紹介しておきますので興味がある方は参考にされてみてください。

【これから経営を学ぶ初心者向けの推薦書籍】

1. 儲かる飲食店の数字
長く繁盛している店の多くに共通しているのは健全経営のためのお店の「計数管理」がしっかりしていること。飲食店が利益をしっかり出すために必要な「数字」の出し方、読み方、活かし方をやさしく解説されています。
2. 脱・どんぶり勘定! これからの飲食店 数字の教科書
めざせ、シンプル計な数管理。場当たり的な対応では売上は伸びません。目標達成から利益改善、販促施策、スタッフ育成まで「新規客獲得+流出客対策」を実現する数字の見方・使い方について解説されています。
3. 飲食店経営で成功するための「お金」のことがわかる本
これから飲食店を開業したい方、すでに開業しているが経営に不安を抱えている方を対象とした「お金」に焦点を当てた飲食店経営の解説本。飲食店専門の税理士・財務コンサルタントをしている著者が儲かる飲食店になるためのお金の知識を詳しく解説されています。


④ 要点まとめ

・ 飲食店を開業するまでに習得しておくべき3つのスキル。
・調理スキル(調理技能、衛生管理の知識、メニュー開発力、オペレーション構築力、ロス管理能力)。
・ 接客スキル(ホスピタリティマインド)。
・ 経営スキル(経営構造の理解、FLコントロール)。

※内容にご意見ご質問等ございましたらお気軽にコメントくださいませ。

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