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#7【サンフレッチェ広島レジーナvsノジマステラ神奈川相模原|試合レビュー】狙い所の共有と変更|2024-25年WEリーグ第4節


スタメン!!メンバーが固まってきた

リーグ戦はここまで3節まで終わって2勝1分と負けなしをキープしており、好調な滑り出しとなりましたが、トップ3に食い込むためにはできる限り負けない試合を続けなければなりません。

今節の相手は昨季シーズンダブルを達成した「ノジマステラ神奈川相模原」。特に苦手意識はないものの、昨季途中から監督が代わり、強度の高いプレッシングをベースに戦うスタイルに変わっているため、どのような試合になるか気になる所です。

前節からのスタメン変更はFWの「髙橋選手→上野選手」のみ。徐々に吉田監督の基準を満たしたレギュラーメンバーが固まってきましたね。


相手が空けるスペースを共有ができた前半

試合序盤は相模原のコンパクトなプレスに苦戦する場面が見られたものの、チーム全体で空きやすいスペースを共有した攻撃を仕掛けました。

しかし、ゴール前を堅める守り方をする相手に対して、最後の部分をこじ開けるには至らず、得点の雰囲気はあまりありませんでした。

序盤は前重心のSB裏を積極的に狙う

序盤は前重心でコンパクトにプレスをかける相模原に対して無理に繋がず、シンプルにSB裏のスペースへ上野選手を走らせ、攻撃の起点を作りました。

4'16" のシーン

上野選手がサイドに流れて相手のSBを釣り出したら、空いたDFラインのギャップにインナーラップで飛び出すお決まりの形でDFラインの背後を狙っていきます。

4'20" のシーン

アグレッシブに前から来る相手に対して、序盤の時間を「シンプルに背後を狙って相手を押し下げる」のに使ったのは賢い選択だったと思います。

SBとCB間への積極的なランニング

相模原のプレスが落ち着いてくると、徐々に広島がボールを繋ぎ始めます。ボール保持では「相手のSBとCBの間のスペースを狙う」のが共有されており、サイド経由のビルドアップから相手SBを釣り出して、空いたSB-CBの間のスペースを駆け抜ける形が多く見られました。

相模原はサイドに展開された際にDFラインがスライドせず、ゴール前を堅める方を優先するため、SBが釣り出されると「SBとCBの間」が空くのですが、そのスペースはボランチが走ってカバーするというのを繰り返していました。

【笠原選手がSBとCBの間を狙うシーン】


ボランチを押し下げてフリーになった笠原選手を経由

IHの瀧澤選手・小川選手はSBとCBの間のスペースに対して積極的なランニングを繰り返すことで、カバーに入る相模原のボランチを押し下げ、1列目と2列目の間のスペースを空けることに成功しました。

加えて、CBの市瀬選手と左山選手が相手FWを引き出すようなボール保持をしたため、20分頃からアンカーの笠原選手がフリーになり始め、中盤を経由したビルドアップが可能になっています。

相手の1列目と2列目の間のスペースを使って笠原選手は左右に展開。ピッチを広く使ったボール保持が可能になり、序盤から繰り返しているSBとCBの間を狙う攻撃を、よりスペースがある中で繰り出せるようになりました。

27'10"のシーン

さらに、SBとCBの間はボランチがカバーするのが相模原のルールなので、それによってバイタルエリアが空きます。広島としてはボランチを動かして空いたバイタルエリアを使って、ミドルシュートを決めれば理想的なのですが、そこまでのクオリティには至りませんでした。

相模原はこの状況に対して本来であれば、他の選手がスライドして埋める予定なのですが「FWは前へのプレスで戻り遅れている」「片方のボランチはサイドチェンジでスライドが遅れている」、この2点の理由から危険なスペースを空ける結果となりました。

人基準で運動量ベースの相模原の守備

相模原は、小笠原監督に代わって主に非保持の部分で変化を加えており、コンパクトで強度の高い守備をベースにしています。今節でもFP全員によるハードワークが目立っており、外誘導プレスによるボール奪取を狙いとしていた印象です。

しかし、相模原の守備設計には以下のような問題が生じており、広島側に上手く突かれてしまいます。

  1. サイドに展開されてもスライドせず中央を守るDF陣

  2. SBとCBの間をカバーするために走るボランチ

まずサイドに展開された際にコンパクトな守備組織を維持するためにはスライドが必須ですが、CBはスライドせず中央のゴール前を守る意識が強く、SBとCBの間が大きく空きやすくなっています。

空いたSBとCBの間は、ボランチが埋める決め事になっていましたが、ボランチがカバーに入るとバイタルエリアが大きく空きます。空いたバイタルエリアは、もう片方のボランチやトップ下が埋める設計になっていましたが、物理的に間に合わないことが多かったです。

このような守備設計になっているため、「①SBとCBの間」→「②バイタルエリア」の順に芋づる式でスペースが空いてしまい広島に使われていました。

また、相模原のプレスには「ディレイ」の判断があまり感じられず、スペースが広く空いているのに全力でプレスをかけて、周りが連動できずにスペースが空ける原因に繋がっています。

このように相模原は守備でハードワークをするコンセプトはあるものの、構造的な欠陥があるため、広島としては適切に穴を突けばいいという戦い方となりました。

狙い所を変更して流れを掴んだ後半

後半からの広島は奪ったボールを蹴っ飛ばす淡白な展開が続いており、攻撃の糸口が掴めてなかったのですが、上野選手が右SHに入ってからボールを落ち着かせる意識が出てきました。

64分には、柳瀬選手と塩田選手を投入し、3バックに変更。上野選手を
右WBに配置したのは驚きましたが、これは彼女がオールマイティ過ぎるのが原因です。

3バックへの変更でボランチの後ろ側を活用

64分に3バックに変更してからは、ターゲットにするスペースを「ボランチの後ろ側(ライン間)」に変更した印象です。(前半は「ボランチの手前側(FWとボランチの間)と「SBとCBの間」)

3バックで後方に数的優位を作り保持を安定させ、小川選手・笠原選手の2ボラで相手のボランチ2枚を釣り出し、空いたボランチ背後のスペースにシャドーの瀧澤選手・柳瀬選手が顔を出すという流れで前進する形を作り出しました。

シャドーの2人は近い位置でサポートできる距離でプレーしていたのもポイントで、縦パスが入ったら真横でサポート→サイドに展開といった流れが何度も見られました。こういった近い距離でのサポートが必要な展開で、運動量の多い柳瀬選手を入れたのも頷けます。

前半はSB-CB間へのランニングによって相模原のボランチ押し下げて手前側のスペースを使っていましたが、後半途中からは配置の修正からボランチを前に釣り出して後ろ側のスペースを使うという変更を加えたことで、相手に混乱を生じさせ、流れを掴めたのかもしれません。

【ライン間で縦パスを受ける瀧澤選手】

試合中の配置変更は今季何度もやっており選手たちも慣れてきましたが、狙いとするスペースを共有し、同じ絵を描いた攻撃ができているのは成長している証と言えますね。

気になった選手をピックアップ

攻めの形は見せたもののゴール前でのクオリティに苦しんだ試合でしたが、この試合で目立った選手を見ていきましょう。

上野・オールマイティ・真実

チームを勝利で導くゴールを決めた上野選手ですが、特筆すべきはオールマイティな活躍ぶりです。

試合序盤はFWでDF裏を狙いながら、ポストプレーで展開を作り、後半には右SH→右WBとサイドでプレーしながら、チームに落ち着きを与えます。また、試合終盤はシャドーをやるなど、90分の中で4つのポジションでプレーしました。

昨年の開幕戦ではボランチでプレーしていましたが、上野選手の万能性には驚かされるばかりです。戦術理解度の高さはもちろん、オンボール/オフボール両面での卓越した基礎技術、監督にしてみればこんな便利な選手はいないよなと思いますよね。

その上で最終的に決勝ゴールも決めるのは完璧すぎです。できるだけ上野選手だけに負担を集中させるべきではないですが、この先もレジーナのジョーカーとして万能な活躍を見せてほしいですね。

チームのギアを上げた柳瀬選手

途中出場した柳瀬選手ですが、この試合では展開と柳瀬選手の特徴がマッチしていましたね。柳瀬選手の特徴は豊富な運動量をベースにした高い強度と連続性のあるプレーに加えて、ボールに対して顔出す回数の高さです。

試合展開的に相模原の運動量が落ちてきて、広島側としてはギアを上げたいタイミングでしたし、3バックへの変更で中盤での細かいサポートが必要な状況の中で、柳瀬選手の投入はベストタイミングだったと思います。

笠原選手の台頭で序列を落としている状況ですが、自分の得意な状況で際立った活躍を見せつつ、苦手な状況での成長を見せれば、プレイ時間も増えていくでしょう。

次節に向けた雑感

結果としては、1−0と難しい試合だった印象もありますが、吉田監督は守備の約束事を徹底させて「負けにくい堅い戦い方」を志向しており、常に0−0以上で戦えるチームとしては成熟している印象です。

相模原戦はほとんどが広島ペースでしたが、その中でもトランジションで隙を与えていなかったですし、守備でも危険なスペースを全員で埋めていました。

さらに、ターゲットにするスペースを共有した攻撃や、試合中に狙い所を変える柔軟性も出てきたため、安定して勝ち点を積みながらも競合相手に互角以上で渡り合えるチームになれていると思います。

もちろんアタッキングサード以降の質は課題ですが、ゴール前のクオリティは簡単に解決できる問題ではありあせん。

ただ、この辺は各選手がもう少し相手を見ながら駆け引きできるようになればいいかなと思います。(今のところできるのは上野選手ぐらいなので…)


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