天ぷら不眠 その2

衣が変わってから、眠れなくなってしまった。
てか、なんだこのビチャビチャの衣は。
「親父みたいに上手く揚げれないな……」
天ぷらを揚げていたのは店主ではなく、若造だった。
店主はどこにいるんだ?
「死んだ親父の為にも頑張らないと……」
最近店主を見ないと思ったらそういうことか。
店はいつも大勢の客がいたが、今では俺だけ。
まぁ、こんな天ぷらじゃ当然か。
ポケットから紙を取り出し、若造に渡す。
「若造。これ見て作れ」
「えっ、なんですかこれは」
「揚げ方の極意だ」
そう言って俺は店を出る。
一週間後、再び店に行き、天ぷらを注文。
「この前貰ったレシピで親父みたいに上手く揚げれました。あなたは一体……」
「俺はここの天ぷらを愛する者。店主に聞いてメモしていたんだ」
不眠症だった俺を救ってくれたのが、ここの天ぷらと店主だった。
黄金の衣にサクサクの食感、そして店主似の優しい顔をした若造。
今夜は、よく眠れそうだ。


たらはかにさんの企画に参加させていただきました。
以下の記事に詳細あります。


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