救急隊の蘇生中止のニュースについて思うこと
https://www.sankei.com/life/amp/190512/lif1905120005-a.html
救急救命士資格を有している隊員は心肺停止状態の方には、胸骨圧迫(心臓マッサージ)・人工呼吸を実施しながら、状況に応じて静脈路確保(注射をして点滴を繋ぐ処置)をしたのち、アドレナリンを投与したり、気管挿管や、電気ショックを実施したりする場合もあります。ものの数分で、これらの処置をしてよいかの医師への問い合わせ、更に搬送先病院の確保、家族へのこれから行う処置の説明と同意を得たうえで、上記の処置も行います。現場は病院とは違い、整った環境ではなく、毎回違うシチュエーション、違った時間、困難を伴う状況ばかりです。物凄い心的負荷と肉体的負荷を同時に受けながら活動しています。119番通報で救急要請があった時点で、その人の命を救うために全力を尽くします。普段の訓練もそのためにしています。そして、心肺停止状態の方を搬送した事案に関しては、通常の報告書だけではなく、後にその活動が適正であったのかどうかの検証を受けるための報告書も作成します。消防内部で検証を受けたのち、医師にも検証されます。
通常の心肺停止状態の方に対する活動は上記の通りであるとまずはご理解ください。そして、消防法でも生命に危険があれば応急処置を行うことを規定し、蘇生中止を想定していません。ですので、救急隊は上記のような処置を実施し何とかその傷病者(患者さん)を救いたいと考え現場に臨んでいます。
それでは次に、今回のニュースにある様な末期がんの方や高齢の方で蘇生措置を受けずに最期を迎えたいと考えている方が自宅や老人ホームなどで心肺停止状態になった場合を考えてみましょう。その方の意思が書かれた正式な文書が確認できる、家族全員が蘇生措置をしないことに同意している、かかりつけ医に連絡がとれ、蘇生措置をしない確認がとれ、更にその地域の病院前救護体制を統轄しているメディカルコントロール協議会の指導医の助言で蘇生措置中止が認められる、そして往診医もしくはかかりつけ医が現場まで死亡診断をしに来て初めて救急隊は蘇生措置を実施しないということになります。救急隊は死亡診断ができませんので、死亡診断がなされない限り、心肺蘇生を試みながら搬送することになります。
蘇生措置を望まないと明記された文書が半年前に書かれていればどうでしょうか?家族の中に一人でも蘇生措置を望む方が居られた場合はどうでしょうか?かかりつけ医や往診医は深夜や往診時間外、診察時間外でも電話をとってくれるでしょうか?往診医やかかりつけ医はいつ何時でも現場まで死亡診断をしに来てくれるでしょうか?
僕は、心肺停止状態の方を搬送した際、同居されている家族の方は「できる処置はすべて実施して下さい。」ということでしたので、静脈路確保やアドレナリン投与といった処置を実施し搬送しましたが、病院到着後、後から来られた別居の家族の方からは、「蘇生措置はして欲しくなかった。」と告げられた事がありました。また、心肺停止状態の方が蘇生措置を実施して欲しくないということを家族の方からは確認をとれたのですが、かかりつけ医・往診医に連絡がとれず、メディカルコントロール協議会の指導医に現場状況を伝えたところ、静脈路確保やアドレナリン投与といった救急救命士が行える特定行為は実施せず、胸骨圧迫と人工呼吸のみ実施し病院まで搬送するようにとの指示で、胸骨圧迫と人工呼吸のみ実施し(心肺停止状態の方と家族は望んでいないにもかかわらず)搬送したということもありました。現場の救急隊員は本当に葛藤しながら、心身ともにすり減らしながら活動しています。
今後、こうした事案は増え続けると考えています。こうした救急隊の活動や、現状をもっともっと、一般の方に知っていただく事が問題解決には大事だと思っています。
今回の蘇生措置の中止などの消防法が想定していない問題が発生している事や、救急件数の増加などで救急行政自体が現状のままでは機能しなくなるという事をなぜか声高に言わない、広報しない、消防が弱音を吐くのはいけないという様な固定観念が消防内部にあり、そのせいで様々な問題(上記のような問題はもっと前から分かっていた事です。もっと前から現場では起こっている事です。)が先送りにされているという印象があります。消防や医療機関だけで考えていても次の段階の消防行政にはいけないのではないかと、最近つくづく思います。僕個人の意見ではありますが・・・
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