お水
僕が高校3年生だった頃の話。
僕は愛媛県松山市の工業高校に通っていた。
工業化学科という薬品などを混ぜたり、よく実験をする科だった。
僕はその科に入って3年も経つのにまだ化学に適合できてなかった。
実験中、ちゃんと指示通り薬品を入れてそれをガスバーナーで熱っしたり、ちゃんとやったはず。
なのにどこかで手順を間違えたのか、僕の薬品だけ変なガスが発生したようで異臭がする実験室から全員が逃げる事態になったり、ぼっーとしてたら作業服の袖がガスバーナーで燃えていたり、明らかに化学が向いていなかった。
今考えたら、僕がそんなことを度々起こすので先生の感覚もだいぶ麻痺してたんだと思う。
こんなにも色々やらかしているのに僕は実験室の掃除を任せられていた。
もちろんトラブルは起こる。
化学科の実験では、水の不純物によって結果に誤差が出ないように精製水という水道水よりも不純物が凄く少ない水を使用する。
精製水はとても高価なようで、その水をちょっとでも無駄にしようものなら先生に物凄い剣幕で怒られる。
ふざけてたわけじゃなくても、実験中に手元が狂って机に数滴こぼしただけでも怒られるので、精製水はとても丁重に扱わないといけなかった。
ある日、そんな精製水を40ℓもこぼしてしまった。
実験室の掃除の人は、精製水が入ってる40ℓのタンクを精製水が少なくなったら大元のタンクのところまで40ℓのタンクを持っていき精製水を足さないといけない。
僕は、40リットルのタンクを満タンにして元の場所に戻ろうとしたところ、自分の靴を踏んでしまい派手に転け、その衝撃でタンクの蓋が飛んでいき、凄い勢いで床に精製水が流れ落ち、数秒もしないうちに精製水は全て余すことなく普通の水になった。
何事も積み上げるのは難しいが崩れるのはあまりにも容易なんだなと思った。
普通に掃除してたら鳴るはずのない「バッシャーン」に化学科の先生が実験室に飛んできた。
先生はくるぶしまで水に浸かってる僕を一瞬見て助けが必要と判断したのか「あ、オッケー」と言い実験室を後にした。
僕はその先生に対して弱々しく「、、、違うんですよ、、」と言うことしかできなかった。
事態を聞きつけ、化学科の科長の先生が頭を掻きながら実験室に来た。
科長はその有り様を見ると、記録員がいたらギネスに乗るんじゃないかと思うほどの大きさのため息を吐いた。
科長は「誰がこいつにここの掃除任せたんや」と小さく嘆きながら、一緒にスポンジや雑巾を駆使して水を吸い取ってくれた。
僕はこの時間が早く終わって欲しかったので、それはそれは急いで水を吸い取った。
しかし、なんせ40ℓもあるので中々吸い終わらない。
気まずくなったのか科長が話しかけてくれた。
「お前にはなにが向いてるんやろな」
お笑いを始める前、占い師に僕はお笑いが向いてるのかを占ってもらいに行き手相を見せたら、「こんなおばさんに手を見せるだけで手が震えてる人は向いてません。」と占いじゃなく主観で言われた。
今まで働いたバイト先のほとんどで向いてないと言われてきた。
僕はいったいなにが向いてるんだろう。
科長が言ってくれた「お前には何が向いてるんやろな」にいつか胸を張って「お笑いです。」と答えたいなと思ったが、その文字をうつ手も震えていた。
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