見出し画像

若い女として働くこと

最近映像メディア業界の性暴力が取り沙汰されている。
ニュースのコメント欄には「腐った業界だ」などの批判が目立つが、
こういった事件は決して映像メディアの業界に限ったことではない。
というのが女として数年間会社で働いてきた私が思うことである。

その性暴力の内容の凶悪度の差こそあれ、誰しも性暴力の被害に遭っている。特に”若い女”もしくは”若い女と認識される人間”はその餌食になりやすい。

ここからは私の実体験を書こうと思う。

”昭和”を引きずったオジサンたち

新卒で入社した会社での体験。ツイッターなどではJTCと称されるような”古き良き日本企業”だ。
その会社は子会社ではあったが、母体が超有名大企業であったためコンプライアンスはちゃんとしているだろうと思った。
何かあればすぐに大ニュースになるからだ。

甘かった。

その会社は典型的な昭和の日本企業で圧倒的な男社会だった。

頻繁に催される飲み会では上司たちが下ネタを繰り返し、
それに対し女性社員は苦笑い。
支社が異なる上にこちらが新入社員であることをいいことに太ももを撫でてくる年配の男性社員。
それを止めるわけでもない周りの男性社員たち。
私が飲んだ飲み物を勝手に取り上げ「間接キッス!」と言いながらストローをなめる奴までいた。
また、酔った勢いで抱きついてくるおじさんに関しては頭がおかしいんじゃないかと思った。

私はお世辞にも美人ではない。
体型も当時は細身な方だったが、世でセクシーとされる身体的特徴も特に持ち合わせていない。
愛嬌がある愛されキャラといったタイプでもない。
ただただ若いだけの女だったのだ。

そんな私の何が良くて彼らはセクハラをしてくるのか?
まったくもって理解ができなかったし
想定もしていないのでただただ驚きショックを受けた。

上記の出来事は当然ながら直属の上司や部長にも相談したが、
彼らに罰が下ることはなかった。
それどころか、上長からは「お前は躱すのが下手だから」と言われてしまった。
確かに当時私は新入社員であり、これまでセクハラといったセクハラを受けたことがなかったため対処方法を知らなかったし、配属先の女性正社員は私と定年前のひとりしかおらず、身近にお手本となるような女性社員もいなかったため、あしらい方はかなり下手だったと思う。だが、はたしてこれは私の落ち度なのか?

数々のセクハラを受けた私は1年目にして会社への帰属意識や忠誠心、愛社精神といったもろもろの感情を失った。
いい年こいた大人がこれかよ・・・
コンプラ、コンプラと口うるさく言う会社の実態がこれか・・・
会社員は上司に倣うことを良しとされている。
場の空気を読み上司の機嫌を損ねないことが大事とされる。
会社全体に、セクハラを仕方ないことと容認する空気があった。
セクハラ事態を茶化し面白いものとする雰囲気があった。
優しくて面白い大好きな同期たちでさえ、その空気にのまれ20年後にはこんなにもだらしなくどうしようもない中年になってしまうだろうと思うと、なんだか辛かった。

たぶんここにいてはいけない。
きっとそのうち私の心が死んでしまう。
会社員として働くことさえ出来なくなってしまう。

きっとほかの会社ならそんなことはないはずという希望を持って
私は1年目の終わりには転職を決意した。

新しい犠牲者となるであろう後輩たちを守ってあげたいという思いもあったが、そこまで私は強くいられなかった。

信頼への裏切り

もうひとつ、今でも心に残る傷がある。

配属後もっともお世話になった上司の話だ。

業務の大先輩である上司に私は絶対的な信頼を置いていた。
業務で私を助け、社会人として育て上げてくれた。
先に語ったセクハラの件も親身になって聞いてくれ、できる限り私が問題のセクハラ社員と関わらないよう配慮もしてくれた。

そんな上司が、ある日深く酔って寝てしまった私にキスをしてきたのだ。
訳がわからなかった。
上司は既婚者で子供もいた。
これが妻にバレればどうなるかもわからないのか?
この行為は、そのリスクを冒す価値があるのか?
今まで私に親身に接してくれたのは、このためだったのか?

ただひたすらに悲しかった。
尊敬する上司だっただけに、この状況を受け入れたくなかった。

口元の違和感で実際は起きていたが、混乱と恐怖で寝たままのフリをした。
おそらく、上司はあの時の出来事を私が覚えてすらいないと未だに思っているだろう。

そこから私は善意や優しさをそのままの意味で受け取ることができなくなってしまった。
何か裏があるんじゃないかと疑うようになってしまった。
まったく嫌な奴である。

外の世界

それから幾らか月日が経ち、転職できるだけの力をつけ今の会社に転職した。
比較的新しい、いわゆる外資の会社だ。
その会社は何もかもが違った。
まずセクハラなんて起こそうものなら一発でクビが飛ぶ世界である。
前の会社のセクハラおじさんたちと同年代の上司たちも
セクハラととれるような言動は一切しない。
圧倒的に安全だった。
部署の社員の年齢層も若く”今の時代の感覚”を持った人たちばかりだった。

私は当時の会社の外の世界が思ったより良くて安心した。
これがどこでも普通な世の中になればいいと思った。

外資アゲをしたいのではない。
こういった会社の中にも価値観をタイムリーにアップデートした日系企業は多いはずだ。
でも、未だに価値観が昔のままの企業は依然として存在する。
そして今日もまた無垢な新人を傷つけているだろう。

若い女として働いていると「楽でいいよな」的なことを言われることがある。
確かに上司の一方的なスケベ心によって男性社員よりも優遇されることはあるかもしれない。
ただ、その代償は安くはない。
相当に心が強くない限り、傷は深まりいつか千切れてしまう。

私にとって昔の価値観の中で若い女として働くことは苦しいことだった。
今同じ状況に陥ってしまっている人は、心が壊れる前にどうか逃げてほしい。
逃げることは簡単ではない。
私も結局3年かかった。
それでも逃げないと、くだらない人たちのせいで人生が台無しになってしまう。
それだけはいけない。

そして、声を上げて戦える人は戦ってほしい。
男でも女でもどちらでもなくても、戦ってほしい。
自分のためでも、大切な友達のためでもなんでもいい。
性暴力の被害者を一部のかわいそうな人たちにしてはいけない。
世間が思っているほど、被害者は少なくないと思う。
言わないだけで、こうした経験をしたことがある人は多い。

それこそ、あのまま前職の会社の世界でだけ生きていたら
どれだけオカシナ環境だったかを正しく認識できなかったと思うし、
いつしかそれが普通と思い込んでしまうことだってあり得た。
中年世代がまさにそうだ。そういう価値観の中で生きてきたから
自分たちがオカシイことに気づけない。
今の中年女性たちも、セクハラの定義が定まっていない頃のままの感覚で無意識に自分を被害者から除外してしまう人もいるかもしれない。
嫌なことを嫌だなと心にしまうのではなく、言えるひとはちゃんと言った方がいい。

私もこのnoteを書くまでに何年もかかったが、今表に出せてよかったと思う。
未来はこんなnoteが生まれない世界にしたいね。




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?