確率で煙に巻かれないために:独立事象について

突然ですが今回は、原子力発電所の5重の壁について考えてみようと思います。これは10年前の事故後に頻繁に耳にしました。放射性物質(ウラン燃料)は、燃料ペレット、被覆管、原子炉圧力容器、原子炉格納容器、外部遮へい壁(原子炉建屋)で守られているから、事故が発生する確率は何万年に1回程度だ、安全だ、と。

この根拠として、放射性物質がそれぞれの壁を突破する確率が計算されていました。5つの確率の積を計算するととても小さい、過酷事故、つまり放射性物質がすべての壁を壊して拡散するという事故が起きるのは何万年かに1回の確率だ、と説明されていたのです。(今となっては、当時の情報が見つかりませんが、例えばここここに似た情報があります。)

しかし福島第一原発では、この5重の壁が簡単に、それも3基同時に壊れてしまった。これは本来何万年かに1回起きる事故が、立て続けに3つも起きたと考えるべきでしょうか?何か変ですよね?


このからくりは、実際には独立ではない事象であるにもかかわらず、独立事象であると仮定した計算が行われれていた点にあります。(少なくとも一部)
実は確率を計算する時に使われていたのが、積。これはそれぞれの発生が独立である、と仮定されていることを意味します。(AとBが独立事象なら、同時に起きる確率はP(A∩B)=P(A)×P(B) となる、逆に積が成り立つなら独立。)
そして福島第一原発で起きたこと。地震で送電線が倒れ、全電源喪失が起きてしまった。非常用電源も機能せず、格納容器が冷却できなくなった。すると燃料ペレットも被覆管も高温になり、内部に気体が充満、原子炉圧力容器と原子炉格納容器の圧力が増して壊れ、外部遮へい壁(原子炉建屋)も壊れる。非常用電源が機能しなかった後はすべて一連の流れです。その時起きたことは、シミュレーションでかなり細かくわかっています。シミュレーションできるということ自体、決してペレットが被覆管の破損を押さえる訳もなく、5重の壁の防御が意味をなすかのように説明することがおかしいのだということがわかります。

当然、技術者はこのことを知っていたのでしょう。しかし、安全と言わねばならない。だからこのような説明を始めたのかも知れません。そして反論できない人が多くいたのだと思います。(私個人としても、事故が起きるまでこのことを知らず、気が付くまでに少し時間がかかりました。)

そして事故が起きた後でさえ、再稼働された原発がいくつもあるということは、この考え方は生き残っているように見えます。


そして確率の話は、新型コロナでもいろいろ出て来ます。

例えば、時々陽性と判断されたが結局は偽陽性という話が出て来ます。たしかに偽陽性(間違って陽性と判断される)の確率はゼロとは言えません。特に抗原検査は偽陽性が多いそうです。そして2020年のパンデミックの初め頃はPCR検査をむやみに増やすべきではない、という主張がありました。どちらも少し考えれば、検査を何度か行って再度確認すれば、偽陽性の確率はどんどん減らせることがわかります。改めて検体を取り直して検査を行えば、それは「独立事象」になるからです。

確率はサイコロの話だけではなく、物事を理解する時に重要なんですね。