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表記統一ノート③開くか閉じるか、どう決める?

表記統一ノート3回目です。このところ諸事情ありモタモタしていたらすっかり年の暮れになってしまいました。

それでなくとも前回の〈複合動詞の運用〉がニッチすぎて、とうにすべてを置き去りにしてきた感がしないでもないですが、いつかどこかで誰かの役に立てばの精神で始めたことなので、心を強く持って突き進みます。とはいえあそこまでややこしい話はもうないので戻ってきてほしい。

前回までの記事はこちら。
表記統一ノート①リストの見方と基本方針
表記統一ノート②複合動詞の運用


開くか閉じるか

何度か書いてきたように、開くも閉じるも書き手の意思一つです。判断基準も千差万別といえる。なのであくまで一例として、しがないいち書き手の考え方を今回もいくつか紹介したいと思います。

不都合な日本語あるある

日本語で文章を書いていくうえで、希に「これバグじゃない?」と思うような不都合に出くわすことがあります。
ぱっと思いつくものを挙げてみると、

  • 「ひらく」と「あく」漢字にするとどっちも「開く」になる問題

  • 「いたわった」と「ねぎらった」どっちも「労った」問題

  • 「ゆがみ」と「ひずみ」どっちも「歪み」問題

  • 「つぐ」と「そそぐ」どっちも「注ぐ」問題

などがあります。これらはまだ意味合いが近いので、どっちに読みとられても大して弊害もないし、と割りきってもいいかもしれません。
しかしそれ以外にも、

  • 「おびやかす」と「おどかす」どっちも「脅かす」になる問題

  • 「におい」と「くさい」どっちも「臭い」になる問題

  • 「とおった」と「かよった」どっちも「通った」問題

などもあり、この辺からはちょっと意味合いも変わってくるので文脈によっては困ったことになりそうです。

ではどうしましょう?

身も蓋もないですが、個別に開くか閉じるか決めていくしかないのかなと思っています。ではどう決めていくかというと、読みやすさと誤読のリスクを天秤にかけて感覚で、という至ってシンプルな作業をしています。

単体での見た目もそうですが、文章のなかでのその単語の現れ方に重点を置いて決めている気がします。特に「できれば開きたいな」と感じているときは慎重に検討していく必要がありそうです。

助詞や他の平仮名の単語とつながったときに存在感がぼやけるようだと、読みにくさが上回ってきます。例えば2文字の単語や、なおかつ助詞として頻繁に出てくる「てにをは」系や形容動詞で頻発する「な」等と接続することで、勝手に別の単語へ擬態を始めるようだと要注意でしょう。また、単語それ自体に「てに(を)は」が含まれる場合だと、単語の途中で前後に区切れているように見えて読みにくいこともあります。

「あく」と「ひらく」

そうした点から「あく」は「開く」にしています。2文字で存在感が心許ないし、助詞の「は」とつながると「~はあく」になって「把握」がチラついてしまう可能性もある。一方の「ひらく」も「開く」にしていて、意図した読みで伝わらないリスクはあるんですが、まあ「6時に開く」をどっちに読んでもらっても大きな問題にはならないだろう、という判断です。

「ねぎらった」と「いたわった」

この2つは平仮名でもしっかりと存在感があるので(主観)、誤読のリスク回避を重視して双方とも平仮名で運用しています。

「におい」と「くさい」

くさい」を平仮名で、「におい」は別漢字の「匂い」を当てて運用しています。こうすることで誤読の心配がゼロになります。やったね。

「とおった」と「かよった」

双方とも「通った」と漢字で運用しています。一見誤読のリスクが高そうですが、この2つは文脈から読みとれることがほとんどだろう、と読み手を信頼することにしています。「店の前を通った」と「学校に通った」は読み分けてもらえるはず……読み分けましたよね?


このように、対処法はバラバラで、ひたすら個別に最適解を探って決めていきます。たった一つの冴えたやり方があれば楽なんですが、ないので地道に決めていくしかありません。全ての単語について書くと長くなりすぎるので、上に挙げたけど触れなかった単語については、気になる方は実際のリストを参照ください。


副詞もなるべく開きたい

表記統一の方針でもう一つ、「副詞をなるべく開きたい」という指針があります。全部では全然ないです。あくまでなるべく。個人的に。

なぜ開きたいかというと、副詞の直後には名詞や動詞、形容詞、形容動詞がくっつくことが多く、それらの多くの単語が漢字から始まるからです。

たとえば「いまさら」という副詞があります。漢字にすると「今更」です。何があったか知りませんが、仮に新しいカードが届いたとしましょう。

今更新しいカードが届いた

ほらもう擬態を始めました。やりやがった。思ったとおりだ。「更新」なんて言葉は使ったつもりないのに、カードという単語も相まって妙な存在感を放っていやがる。

今さら新しいカードが届いた

だったら、このほうが誤読や擬態によるノイズを取り除ける気がします。ちなみに「今さら」になっているのは単体の「今」を漢字で運用しているからです。

このように、副詞は極力開きたいと思う局面が多くあります。「極力」も副詞だろって言いたそうですね? だから全部じゃないって最初に断っておいたわけです。「きょくりょく」では間抜けすぎるので、さすがにここは漢字にします。

時間切れとネタ切れと

年の瀬も迫っていますし、今回はこの辺でおしまいにします。とはいえ、あとまだ取り立てて書くようなことあったかなー、という感じなので、今回で終わりかもしれないし、思い出せばもう1個か2個くらい何か書くかもしれません。時間と気分次第といったところです。

それでは。よいお年をお迎えください。



がんばる気持ちが湧いてにっこりします。