表記統一ノート②複合動詞の運用
前回の記事〈表記統一ノート①〉の続きです。今回は主に複合動詞の運用についてです。
表記統一リスト置き場は ↓↓ 。ファイルの説明は前回を参照ください。
複合動詞とは
正式な名称は知らないんですが、「分け与える」のように2つの動詞がくっついているものことを便宜上そう呼んでいます。もし正しい呼び方を知っている方がいたら教えてください。ちなみに、ここでは「食って寝る」みたいな並列しているだけの言葉は含みません。
後ろにくっつくほうを開きたい!
この複合動詞、あるころから「後ろにくっつくほうを極力開きたい」という感覚に目覚めました。漢字というのは表意文字なので、多すぎると意味が渋滞してしまって文意と喧嘩する場合があるんですね。ありますよね? 一方で平仮名が多すぎると、それはそれで読みにくい。双方の落としどころを探った結果、後ろにくっつくほうを開くのがいいんじゃないか、とあるとき思い至ったわけです。
「振り回して踏み潰す」
「ふりまわしてふみつぶす」
「ふり回してふみ潰す」
「振りまわして踏みつぶす」
どれが間違っているわけでも、唯一の正解があるわけでもない。そのなかで縦書きでは「振りまわして踏みつぶす」が読みやすく、"文面圧"としてもバランスがいいなあという素朴な感覚があり、これを採用するためにはどう体系づけて運用できるだろうか、と考えはじめました。
接頭動詞と接尾動詞
以下では説明の便宜上、「分け与える」でいう「分け」の部分を接頭動詞、また「与える」の部分を接尾動詞と呼ぶことにします。もしこれが「取り分ける」であれば、もちろん「分ける」が接尾動詞ということになります。
運用の大枠
最初に、接尾動詞は可能なかぎり開く、と決めました。まず、これが基本ルールになります(以下Nとも表記。ノーマルのN)。しかしそれを徹底していくと、読んだときにパッと意味が入ってきにくいな、と感じるケースに多々出くわします。意味が入ってこないと当然読みづらい。読みづらかったら本末転倒です。
そこで基本ルール(N)は据え置いたうえで、優先度の概念を導入することにしました。優先度は上から1、2、3とあり、2のみさらに2aと2bに分かれています。また、数は少ないですが例外的な運用となるEXも存在します。
この説明ではなんだかよくわからないと思います。イメージで言うと、空き缶を投入するとアルミ缶かスチール缶か自動で分別してくれるゴミ箱のような装置があると思ってください。投入口からある接尾動詞を投入すると、優先度1、優先度2、優先度3、EXのチェックを順に受けて該当した場合はその優先ルールに従う。どのチェックポイントも通過すればNのまま出てくる(=開く)、という感じです。
以下では、じゃあその〈優先度〉とはなんぞや? という説明をしていきます。一応キャプチャ画像も置いてますが、可能なら表記統一ファイルの〈複合動詞運用〉タブを見ながらのほうがわかりやすいかもしれません。
念のため再度リンクを置いておきます。
優先度の中身
優先度1 接頭動詞が〈漢字1文字〉の場合は接尾動詞も閉じる
下のキャプチャにもあるとおり、居+直るで「居直る」や見+始めるで「見始める」などのパターンは接尾動詞も漢字になります。「居なおる」「見はじめる」では座りが悪い気がするので。
注① ただし、単体でも平仮名で運用している動詞については開いたままになります。「見くびる」「出そろう」など。
注② ただしただし、単体で開いている動詞でも「2音」で構成されている場合はやっぱり閉じます。今のところ「こむ」のみ。単体だと「こむ」だが「見込む」「寝込む」になる。
優先度 2a 接尾動詞になるときは必ず〈開く〉動詞のリスト
2aのリストに登録された動詞が接尾動詞になるときは開きます。ただし1に当てはまる場合のみ、優先度が上位なので1が適用される。
例えば、「~あげる」ってどう運用するんだったっけなー、と思ったとき、この2aリストに載っているので「取りあげる」や「押しあげる」のように開く動詞だとわかります。ただし「見上げる」の場合は1に当てはまるため漢字になるんだな――というような見方をします。
優先度 2b 接尾動詞になるときは必ず〈閉じる〉動詞のリスト
2aの逆です。2bのリストに登録された動詞は、接尾動詞になるときは閉じます。優先度1に当てはまる場合もありえますが、1がそもそも閉じるルールなので出力結果は変わりません。
優先度3 強制的に接尾動詞を閉じる〈接頭動詞〉のリスト
3のリストに登録された接頭動詞の場合、直後の接尾動詞を閉じます。ただし、接尾動詞が2aに該当する場合は開く(3より優先度が高いため)。
〈複合動詞運用〉タブに載っている3の適用例をざっと見てもらうと、3なんてなくても2aと2bだけで事足りるようにも思えます。が、双方のリストに載っていない「~わたす」のようなノーマル(=N)な接尾動詞の運用が変わってきます。
3に登録されていない接頭動詞「明け~」にくっつくときは「明けわたす」になりますが、3に登録がある「下げ~」とくっつく場合は「下げ渡す」になる、といった具合です。
EX その他・個別に特殊な運用が適用される動詞
優先度1~3とは別の特殊な運用となる動詞です。数は少ないです。
「~おこす/おこる」や「~たつ/だつ」はそれぞれ意味合いによって接尾動詞を閉じるか開くかが変わる。
「~去る」は接頭動詞を強制的に漢字にする。単体の「すぎる」は開いているが「~去る」とくっつくと「過ぎ去る」になるという具合。
「ふり~/振り~」はスイングを含むものは「振り~」になり、ふるまいや所作を表す場合は「ふり~」になる。「振りはらう」「ふりむく」など。拳を「振りかざす」、権威を「ふりかざす」のように同じ言葉で使い分けがあるものも。
N 通常は開き、優先度1と3に左右される接尾動詞
どの色にでも染まる、無防備な、基本ルールのままの接尾動詞です。いわば優先度0。基本のはずなのに、気づけば今は2つしかリストにありません。
なぜこんなに少ないかというと、ぶっちゃけほとんどの場合は2a(=接尾動詞になるときは開く)に指定してしまえば事足りるからです。3の影響を受けないかぎり、Nも2aも開くという結果は同じ。3に登録された接頭動詞とくっつかないのであれば、正直どちらでも不都合はないわけです。そして普段の運用時には、ある接尾動詞が2a(開く)か2b(閉じる)かを確認する頻度が高くなります。ならNよりも2aに登録しておいたほうが一覧性の面で優位じゃんね? というわけで2aに登録される動詞が多くなっています。なので逆にいえば、Nに残っているのは3の接頭動詞とくっつくときに閉じたい動詞、と言えます。
まとめ
長くなりましたが、以上が複合動詞運用の枠組みです。手動で随時追加してきたので、未だすべての接尾動詞がここに載っているわけではないことをご承知おきください。それでもこの枠組みを準備できていれば、また新たな動詞が出てきたときに「N、1~3、EXのどれに指定するといい感じかな?」と考えて追加していけるので”強い”です。「なぜその運用なのか」をいつでも説明できる状態にしておけるのは強い。麻雀や格闘ゲームでも「なぜその選択をしたか」を説明できる行動をとれ、と言われます。それと同じ。ちょっとちがうかも。
前回も書いたように、どの動詞を開くか/閉じるかは自由です。ここにあるのは一人の書き手の好みが反映されたリストにすぎません。なので、このリスト内の動詞を再配置するなり、枠組みをアレンジするなどして、自分好みにカスタマイズするといいんじゃないかな……という提案を最後に置いて、今回の記事の締めとしたいと思います。
次の内容は未定ですが、たぶんまだ何かしら書くと思います。疑問点などあれば可能なかぎり答えますので、何かあれば直接でも間接でも、どこか見えるところに書いておいてください。
それでは。